第37話 舎弟ができた。

 まあデカゴリラを倒したあたりから、つかず離れず俺と2キロくらいの距離を保っている反応があるなあとは思っていたが。

 最後の猿を倒している間に、近くに来ていたのか。


 にしても……こんなところに人間がいるのだろうか。

 ――いや待てよ。

 よくよく考えれば、さっきの声、竜語で話してたよな。


 声のした方向をよく見ると……そこには一体の迷彩柄のドラゴンがいた。

 コイツか。


「えと……しゃ、舎弟……?」


 とりあえず俺は、そう聞き返す。

 竜語にも方言があって、俺が知ってるのと全然違う意味で言ってるとかなら話は別だが……俺が知る限り、「舎弟にしてください」は決して初対面の相手に言う言葉ではない。


「そうっす! 実はさっきからずっと戦うところを見てたんすけど、あまりのカッコよさに痺れたんすよ! 良かったらアニキと呼ばせてください!」


 ……どうやら「舎弟にしてください」は、そのままの意味だったようだ。


「あ、う、うん……」


「アザマッス、アニキ! あのグレートセイテンをああも一方的に瞬殺できる者なんて見るの初めてで……マジでリスペクトなんっすよ!」


「グレート……セイテン? あの飛ぶ猿、そんな名前なのか」


「正式にはグレートセイテン及びキントクラウド=ニョイスティック連合三位れんごうさんみっすね。クソ長いんでだいたいみんなグレートセイテンって呼んでるっす!」


 何なんだよ名前に「及び」が入ってるって……。

 名付けた奴のネーミングセンスを疑ってしまうな。


 というか……なんか勢いに押されて、アニキ呼びを許容してしまったんだが。

 なんなんだこのテンション……。


「君はグレートセイテンは倒せないのか?」


「残念ながらオラの実力じゃ、戦ったらどっちが死ぬか分からないっすね。だから基本的にドラゴンとグレートセイテンは、お互いのために極力戦わないようにしてる感じっす! 一昔前だったら、アニキみたいに瞬殺はできないにせよ、マイナ様あたりがグレートセイテンを完封できていたんっすが……」


「マイナ様?」


「かつてこの大陸に住んでたドラゴンの長老っす! まあ2000年前くらいに『旅に出ます。探さないでください』って置き手紙置いてってから、消息がサッパリ分からないんすけどね」


 とりあえずなんか話そうと思って適当に質問してみると、この大陸の一般的なドラゴンとグレートセイテンはだいたい同じくらいの実力っぽいことが判明した。

 あと、マイナ様とかいうちょっと強めのドラゴンがいたことも。


「てか……オラの記憶が間違ってなければ、アニキの喋り方、若干訛りがマイナ様に似てる気がするっす! やっぱ強い者同士って、共通点あるんっすね……」


「そうなのか……」


 それはちょっと気になるな。

 俺の竜語は完全にお母さん譲りなんだが……次に帰省した時には、ちょっと「マイナ様」なるドラゴンについて聞いてみてもいいか。


 などと思っていると……今度は迷彩色のドラゴンの方から、質問が飛んできた。


「それにしても、アニキが二体目以降のグレートセイテンを倒す時に使ってた技はちょっとイミフ過ぎたんで一旦置いとくとして。アニキの竜閃光って、マジで連射速度どうなってんっすか!? マイナ様のグミ撃ちも相当でしたっすけど、アニキのはその比じゃなかったような……」


「あれは速射竜閃光っていう、竜閃光を高速連射するための魔法だ。そもそも魔法陣からして別物だぞ」


 答えつつ、魔法陣をホログラム投影して見せる。


「……なんすかこの魔法!? 術式制御が効かねーんっすけど!」


 迷彩色のドラゴンはすかさずそれを真似しようとして……失敗して魔法を暴発させた。


「竜閃光を元にはしてるけど、魔法制御難易度は竜閃光よりだいぶ上だからな。ドラゴンには扱えない魔法だぞ」


「そうなんす――って、ええ!? アニキ、ドラゴンじゃないんっすか!?」


 そして俺がドラゴンではないと知ると、迷彩色のドラゴンはこれまでにないくらい素っ頓狂な声をあげて驚いた。

 ……いやいや、どう見ても違うだろ。


「俺は人間だぞ。逆になんでドラゴンだと思ってたんだ……」


「あんなに強力な魔法をバシバシ使ってたら、そりゃ順当に考えて『訳あって人化の術を使ってるんだなー』みたいな判断になるっすよ!」


「いや、純粋に人間だぞ。そういう意味では、高度な魔法制御はドラゴンよりは得意な方だな」


「マジすか、てっきりニンゲンって魔力ミジンコみたいな奴ばっかりかと……アニキみたいなスゲーのもいるんすね!」


 俺が人間だと知っても……迷彩色のドラゴンは尚、目をキラキラと輝かせる。


「でもニンゲンってことは、あっちの大陸住みなんすか?」


「ああ、そうだが……」


「ぜひ案内してください!」


 そして、アシュガーノ岬について来る流れになってしまった。


 なんか断りづらいな……。

 でもドラゴンなんて連れ帰ったら、アシュガーノ半島の人々にどう思われてしまうことやら。


「いいけど、泊まるとこ無いと思うけどなあ……」


「オラがニンゲンの姿になれば万事解決っスよね?」


 ……まあそれならいいか。

 ゼルギウス側の大陸にいる時は人間の姿でいてもらうって約束なら。


「そこまでしてついてきたいならまあ……」


「分かりました! やるっす!」


 迷彩色のドラゴンは二つ返事でそう答え、即座に人化の術を発動した。

 すると……数秒後、目の前には15歳くらいの見た目のツインテールの少女が。


 ……マジかよ。さっきの口調で女の子だったのか。


「行きましょう!」


 というわけで、俺たちは揃ってインフェルノ大陸からアシュガーノ岬に移動することに決まった。


 ……って、飛んで帰るなら結局一旦ドラゴンの姿にならないといけないか。

 人化してもらった手前申し訳ないが、一旦元に戻ってもらわないとな。


 いや……待てよ。

 そうしなくても、グレートセイテンが乗ってた雲にでも乗ればいいのか?

 一応戦利品として収納してあるし。


「じゃ、これ」


 そう言って俺はグレートセイテンの雲を二つ取り出し、うち一つを迷彩色のドラゴン(人化の術使用中)に渡した。


「お、グレートセイテンの雲っすね? 一度乗ってみたかったんすよ地味に……」


 雲に乗ると……俺たちはアシュガーノ岬の方角目指して飛び始めた。

 最高速度は、俺の全力飛翔の二分の一程度のようだ。

 移動中の魔力消費がゼロという利点はあるが、急ぎの時はやっぱり竜化して全力飛翔する方が良さそうだな。


「ちなみに名前なんていうんだ?」


 なんか長い付き合いになりそうなので、今更ではあるが一応名前を聞いておく。


「フランソワっす! 改めてよろしくっすアニキ!」


 などと話していると、アシュガーノ岬が見えてきた。


 まーこいつは……気が済むまで居させりゃいいか。

 別に一定期間宿をもう一部屋借りる程度のお金はあるし。


 フランソワさえその気になれば、宿代と引き換えに警備を手伝わせるのもいいかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る