第35話 インフェルノ大陸での狩り──1

 社長訪問の日以降の、最初の週末。

 ようやく現場が休みの日が来たので、俺はこの機にインフェルノ大陸に行ってみることにした。


 岬の先端で竜化の術を使い、インフェルノ大陸の方角に向かって空を飛ぶ。

 あまり距離も離れていないので、ものの数分もしたら到着することができた。


 インフェルノ大陸に着陸すると、人間の姿に戻る。

 そして探知魔法を発動し、索敵を開始した。


 そして少しずつ、慎重に大陸の内部へと歩みを進めていく。

 しばらくすると……俺は不思議な現象に気づくこととなった。



 どういうわけかは知らないが……探知魔法に映る魔物の反応が、俺を避けるように移動するのだ。

 まるで俺に会いたくないとでも思っているかのように。

 俺が通過する瞬間だけ縄張りを離れ、通り過ぎたら元の場所に帰ってくる、そんな魔物ばかりなのだ。


 ……まさか、逃げられてるのか?

 たとえばギガントフェニックスと同程度の戦闘能力で、知能がギガントフェニックスより高い魔物なんかがいたとしたら……そういう魔物は俺を「勝てない相手」と判断し、エンカウントしないように立ち回ることも考えるだろう。

 もしかして、ここにいるのはそんな魔物ばかりなのか。

 困ったな。それじゃ狩りにならないんだが。


 しかし……よくよく考えてみれば、自分から逃げてくような魔物をとっ捕まえたところで、さして良い魔石が手に入るとは考えにくいか。

 むしろ「逃げない魔物」を基準に討伐する相手を選ぶくらいでちょうどいいのかもな。


 となると……やるべきことはただ一つ、ひたすら奥に進むだけだな。

 というわけで、俺は再度竜化の術を使い、100キロほど奥まで移動してから狩りを再開することに決めた。



 ◇



 先ほどの場所から100キロ奥の地点にて。

 探知魔法に引っかかった最寄りの魔物を倒すべく、そこに向かおうとしてみると……今度は、その魔物は持ち場を離れようとしなかった。


 どうやら思惑通り、奥にはより強い魔物がいたようだ。

 大陸の端っこの魔物たちとは違って、物怖じしないでいてくれてるな。


 ……もっとも、ただ知能が低いだけというケースも考えられなくはないが。

 そっちでないことを祈っておこう。


 肉眼で見えるくらいまで近づくと……そこには身長50メートルくらいの、全身が青白く燃えるゴリラがいた。

 試しに竜閃光でヘッドショットを狙ってみるも……若干躱されて肩に着弾してしまい、致命傷とはならず腕を一本飛ばすのみで終わってしまった。


 ……いいぞ。竜閃光一発で死ななかったのはお前が始めてだ。

 しかも別に、だからといって倒せないほど強いわけでもないときた。

 まさに俺が求めていた、ちょうどいいレベルの魔物だ。


 追加で3発ほど竜閃光を放ってやると、うち2発でだいぶ敵の機動力を奪えていたおかげか、3発目でヘッドショットが決まり、討伐に成功した。

 ありがたく死体ごと回収させてもらおう。


 デカゴリラを収納し終えると……更に俺は、この周辺でもう少し狩りを続けることにした。

 次に向かうと決めた先の魔物も逃げる気配はないので、ソイツと戦うことに。


 今度は……そこにいたのは、なんか変な雲みたいな乗り物に乗って一本の棒を構えている、身長1.6メートルくらいの猿だった。

 さっきのデカゴリラからすると随分な落差だな。


 とりあえず、竜閃光を放ってみる。

 しかし今度は、造作もないといった感じでヒョイと避けられてしまった。


 ……少なくとも敏捷性はさっきのデカゴリラよりは上か。

 攻撃もクソ速いかもしれないし……一応、身体強化魔法くらいは使っておいた方が良さげだな。


 そう判断した俺は、身体強化魔法を発動する。

 と、その時……猿は、自身が持っている棒を俺めがけて高速で伸ばして・・・・きた。


「……ぶね」


 あの棒、伸縮自在なのかよ。

 てかやっぱ速度やばかったな。身体強化発動前だったら避けれてたかどうか微妙だったぞ。


 などと考えているうちにも……今度はその猿は、乗り物の雲を操り、縦横無尽に俺の周りを飛び始めた。


 ……アレか。あの雲か、竜閃光を避けるほどの敏捷性の源は。

 再度俺は竜閃光を一発放ち……雲を破壊した。


 ま、いくら速くても、速いってことさえ分かってればこのように偏差射撃でどうとでもなるんだがな。


 乗り物を失った猿は、上手いこと受け身を取って地面に着地する。

 しかし……直後、猿は大きく息を吸って煙を吐き出し、同じ雲を新調してしまった。


 乗り物は無限再生か。

 となると……しょうがない。偏差射撃で本体を狙って、正々堂々と体力を削っていくしかないようだな。


 矢継ぎ早に繰り出される棒の伸縮攻撃を避けつつ……速射竜閃光で猿を偏差射撃する。

 全弾着弾したというのに……完全に息絶えさせるまでに、50発もの速射竜閃光を要してしまった。


 敏捷性だけじゃなくて、タフさもデカゴリラより上だったな。

 何というか、別に倒せないことはないのだが、結構面倒な敵だった。


 今のスタイルで戦うのも悪くはないんだが……正直言って、敵一体に速射竜閃光を50発も消費するのは、魔力消費的な観点から言うと結構非効率的だ。

 別に速射竜閃光で倒さなければならない縛りがありわけでもあるまいし。

 次同種の猿に会ったら……お母さんが理論だけ作って自分では実用化できなかった魔法を一つ解禁して、サクッと片付けるとするか。

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