第34話 社長との打ち合わせ

 建設作業が始まってから、一週間が経過した。


 この一週間で……俺は一つ、確信を得ることができた。

 それは、「インフェルノ大陸の魔物は思っていたよりだいぶ弱い」ということだ。

 遠隔攻撃と不意打ち要因を兼ね、せっかく無人潜水艦と空中偵察機を作ってみたはいいものの……そもそもメタルウルフに倒せないような敵がやってくることが、この一週間一度として無かった。


 流石に超音波攻撃は地上から水中に撃つと減衰してしまうため、海中の魔物は俺が処理する必要があるが……そもそも魚類系や軟体動物系の魔物は、陸に上がってこない。

 そのため俺が対処する必要があったのは、海を泳いでやってくる両生類型の魔物だけだった。


 そしてそいつらも、基本的に竜閃光が一発あれば死ぬ。

 そんな状況故に……俺はある日を境に、櫓ではなく支社から見張りを行うようにすることにしていた。


 どうせ支社からアシュガーノ岬までは飛べば1分くらいで着くので、仮に俺本人が近接戦闘をしなければならないクラスの魔物が来たとしても、遠隔妨害とメタルウルフで時間稼ぎしている間に移動して戦うことが可能。

 ならばいっそ、現場にいる必要すらないのではないかと思い、支社のオフィスでゆったりと過ごしながら防衛業務を遂行することにしたのである。


 ちなみにそんな状況を見て、支社のスタッフの一人が「もはやハダルさんがいれば要塞すらいらないのでは……?」とか言い出したが、正直俺はそれには反対だ。

 なぜなら今のスタイルは、属人性が高すぎるからだ。

 あらゆる仕事というのは、最終的に「誰がやっても同じ成果が出せる」というところまでシステム化するのが望ましいからな。

 国防の拠点となれば尚更だ。

 俺がいないとダメという状況はあくまで通過点とし、要塞そのものによって安全が確保される状況に持っていくのが、やはり肝心だと言えるだろう。


 俺だって、インターンくらいの期間ならいいがこれを一生の仕事にはしたくないしな。



 というわけで、今日も今日とてオフィスにて目を閉じて遠隔攻撃用魔道具と感覚共有していると……突如として、聞き慣れた声が。


「おや? ハダル君、なぜここに」


 目を開けると……そこにはライト社長が立っていた。

 おっと、社長訪問の日だったか。


「こんな感じで遠隔攻撃用魔道具を設置して、岬を狙う魔物を倒せるので、現場にいる必要がないと判断したからです」


 などと答えつつ、光魔法によるホログラム投影で現場や海中の様子を映し出す。

 現在空中には敵がいないので、無人潜水艦に竜閃光を転送し、そこら辺にいたミニチュアクトゥルフを一体倒して実演もして見せた。

 軟体系の魔物は陸に上がってこないので放置していたのだが、そのおかげで実演用の攻撃対象が残っていたので良かったな。


「むぅ、今倒したのはミニチュアクトゥルフか……? それを一発でとは、とんでもない攻撃力だな……」


 そんな感想を口にしつつ、ライト社長はホログラムに映る光景に目を白黒させる。

 かと思うと、こんなことを言い出した。


「その魔道具……もし良かったら、弊社用に買い取らせてはもらえないか?」


 ……え?

 ただの中継器を買い取って、何をするんだろう。


「何に使うんですか?」


「要塞に設置する兵器としてだな。本来別の魔道具を発注するつもりだったんだが、どう見ても明らかに今の魔道具の方が性能が良いのでな……」


 と思ったら、どうやら社長は中継器自体が高度な攻撃性能を有していると勘違いしたみたいだった。


「あれはただの攻撃魔法の中継器で、俺自身の攻撃魔法を転送して放っているので、魔道具自体の攻撃力は皆無ですよ」


「そ、そうだったのか……。それは残念だが、確かによく考えたら魔道具であんな攻撃力が出るはずもないか……」


 魔道具の解説を聞いて、社長は若干肩を落とす。

 しかし……今の社長の発言、若干気になるところがあるな。


 竜閃光くらいの威力の魔道具兵器なら、作ること自体は可能なはずだ。

 まだ実物は作っていないが、より質の良い魔石と専用の付与魔法陣を用いれば、速射竜閃光と同程度の威力・連射性能を持つ魔道具が作れる。


 それなのに、「魔道具であんな攻撃力が出るはずもない」って……いったいどの程度の攻撃性能の兵器を設置するつもりだったのか。


 事業計画書には「専用の兵器を搭載する」とだけ記載されていたので、そこらへん深く話を聞いてみよう。


「あれくらいの攻撃力でよければ、時間さえあれば作れますが……参考までに、どんな兵器を搭載する予定だったのか見せてもらえますか?」


 何か資料でも見せてもらえればと思い、俺はそう聞いてみた。


「本当か!? そうだな、弊社で採用しようと思っていた兵器は……これだ」


 すると社長はうってかわってテンションを上げつつ、鞄から資料を取り出して見せてくれる。


 それを見た俺の感想は……言っちゃ悪いが、「マジか」と思ってしまった。


 というのも……ここに記載されている兵器の威力、インフェルノ大陸からやってくる魔物のレベルに見合ってなさすぎるのだ。

 どれくらい火力不足かというと……ラッシュタートルを一体倒すのに、1000発の攻撃を当てないといけないレベル。

 せっかく要塞が完成しても、肝心の迎撃機能がこの程度では、魔物の襲撃を抑えきれず要塞を崩壊させられるのがオチだろう。


 俺が安全管理業務を引き上げてから一年持つかも怪しいレベルだな。

 要塞の代わりに、今ある魔石を全部使ってメタルウルフの群れでも置いておいた方がマシなレベルだ。


「これじゃ流石に焼け石に水では?」


「うう、ハダル君にそれを言われると……」


 思わずツッコんだら、社長はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 そして、懇願するようにこう頼んできた。


「お願いだ。もっと性能の良い兵器が作れるなら作ってくれ。国に兵器購入用の予算の増額を要請した上で全額ハダル君に払うから……!」


 ……そこまで言うか。

 国まで巻き込んで大量の予算を払ってもらうとなると、下手な武器は作れないな。

 メタルウルフなんか納品したら、手抜きもいいとこだろう。


「善処します」


 となると……まずは質の良い魔石のゲットからだな。

 岬の防衛をしているだけではなかなか手に入らないが、幸いなことにアテならすぐそこにある。


 そう、インフェルノ大陸に乗り込むのだ。

 岬に来るのはどうせ縄張り争いに負けた「インフェルノ大陸の中の負け組」だろうから、本土にはもっと強い魔物がいること間違いなしだろう。


 中には俺じゃ太刀打ちできない魔物がいる可能性は十分にあるので、油断はできないが、上手く探せばちょうどいい具合に強い魔物の魔石がゲットできるはずだ。


 捕らぬ狸の皮算用で二つ返事をすることはできないが。

 手頃な魔石が手に入れば、兵器の納品の方も正式に契約するとするか。

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