第32話 業務の引き継ぎ――2

 探知魔法に映った反応を見る限り、この岬にメタルウルフより早く移動できる魔物は存在しない。

 ということは――アレ・・が使えるな。


 俺はメタルウルフにさっきとはまた違った信号を送り、モードチェンジをした。

 現在のモードは「疑似餌の魔力波」だ。


 現在メタルウルフの魔石からは、魔物が獲物だと勘違いするような魔力波が放たれている。

 この状態でメタルウルフに魔物の近くを横切らせれば、魔物はメタルウルフを追いかけてくるわけだ。


「よし、岬全体を一周してこい」


 そう指示すると、メタルウルフは颯爽と駆けだした。


「……あの魔道具、どこに何しに行かせるんだ?」


「猟犬の本領発揮ですよ」


 微妙に答えになってないのは自分でも分かってるが、まあどうせ見ればわかるからいいだろう。


「ちょっと一旦休憩にしましょう。昼食でも食べませんか?」


 メタルウルフが帰ってくるまで暇なので、早めに昼食を食べることにする。

 俺は収納魔法に入っているご飯を三人に配った。


「……これは?」


「ゼルギウス王立魔法学園の日替わり定食です。美味しいメニューなので、まとめ買いして収納しといて毎日食べてます」


「日替わり定食とはって感じだな……」


 そんなことを話しながら、定食を食べていく。

 食べ終わる頃……ようやくメタルウルフが帰ってくる時間となった。


「そろそろですね」


 食器を収納して立ち上がりつつ、メタルウルフが帰ってくる方角に目をやる。

 その方角からは……メタルウルフと、それに次いで夥しい数の魔物がついてきていた。


 それを見て……フロイドたちは、驚きのあまり腰を抜かしてしまう。


「ひ……ヒェッ!」

「な、なんだあの光景……」

「猟犬の本領発揮ってそういう意味かよ……!」


 そしてSランク冒険者のウェザーは頼むような視線を俺に向けつつ、こう聞いてきた。


「な、なあ、あれどうするつもりなんだよ!?」


「もちろん倒すんですよ。こうすれば手間が省けますから」


 そんな風に答えつつ、敵の軍勢が至近距離まで近づいてくるタイミングを見極める。

 メタルウルフがちょうど俺たちを通過したその瞬間……俺は攻撃を開始した。


 使う技はもちろん、速射竜閃光。

 一体あたり一発で、防御の隙すら与えず全滅させた。


「終わりましたよ」


 そう伝えつつ、俺は死体となった魔物の山を収納する。


「この岬の魔物は今ので全部撃退できましたし、帰りましょうか」


 続けてそう声をかけてみたものの……彼らはあんぐりと口を開けて固まったままで、返事はなかった。


 どうしたんだろう。

 まさか俺が気づいていなかっただけで、今の間に状態異常魔法をかけた魔物がいたとか?


 だとしたらまずいので、とりあえずエリアアブソリュートヒールをかけてみる。

 が、変化はなかった。


 しばらくして……ようやくフロイド副団長が、こう一言発する。


「これは……夢か?」


 夢じゃないぞ。


「は、速すぎる……。あんな連射性能の攻撃魔法、見たことがない……」


 続けてSランク冒険者のメイが、そう口にした。


「しかも一発一発の威力もえげつなかったぞ……。今のはなんて魔法なんだ?」


 そして最後に、ウェザーがそう聞いてきた。


「速射竜閃光という魔法です。竜の息吹の収束度を上げた竜閃光という魔法があるのですが、それを連射式にしたのがさっきの魔法です」


 一応俺は、自分が使った魔法について軽く解説した。

 すると……フロイド副団長が、何やら合点がいったようにこう呟いた。


「なるほどな、ようやくその力の謎が解けたぞ。ハダル、君は人化の術を使ったドラゴンなんだな」


 いや、違うが。


「速射竜閃光は術式が高度すぎてドラゴンには使えないそうですよ」


「でも、元はといえば竜の息吹がベースなのだろう?」


「そうなんですが、魔法陣を改造してるうちにドラゴンに扱える魔法制御の範疇を超えちゃったみたいで……」


「いやそこじゃなくて、そもそもなんで人間に竜の息吹が使えるんだよ!」


 うーん。それは結局は魔法の一種に過ぎないから、としか言いようがないが……。

 まあいいか。


「とりあえず、帰りますか」


「そ……そうだな。魔物がいないのにいつまでもここにいたってしょうがないし」


 というわけで、俺たちは帰路につくことになった。

 ちなみにメタルウルフは、番犬として置いていくことに決めた。


 これで今日の夜に新たに上陸してくる魔物がいても、よほど強くない限りはメタルウルフが対処してくれるだろう。


 帰り道……フロイド副団長とSランク冒険者のメイは、口々にこんなことを言い合っていた。


「いったいどこからこんな人材を連れてきたのか……バンブーインサイド建設が羨まし過ぎる限りだ」

「私はむしろ彼が冒険者をやっていなくて良かったわ。フリーランスからすれば、あんな逸材にいられては仕事がなくなって困るもの」


 ……そういえば騎士団って、労働条件はどんなもんなんだろうか。

 公務員だから安定はしてそうだが、年間休日125日は厳しそうなイメージがあるな。

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