第31話 業務の引き継ぎ――1

 それからまた数日間、メタルウルフと超重力下で模擬戦するだけの日々が続いた。

 そしてとうとう、建設作業が再開する前日となった。


 それに伴い……俺の業務は、今日から始まる。

 建設作業再開に向け、とりあえず現時点でアシュガーノ岬に居着いてしまっている魔物を一掃するのだ。


 業務初日ということもあり……今日は、前任者の代表も立ち会ってくれることになっている。

 一応、業務の引き継ぎをするという名目でだ。

 引き継ぎといっても、俺のやることは作業員の安全に配慮しつつ魔物を殲滅するだけなので、説明を受けることは特に何もないのだが……前任の者たちが一応、俺の実力を確認したいのだそうだ。


 今日来てくれているのは、アシュガーノ騎士団の副団長及びSランク冒険者が二名。

 安全管理業務の前任はアシュガーノ騎士団と有志の冒険者集団だったため、このような組み合わせになっている。


 待ち合わせ場所は、アシュガーノ半島に来た初日に受付の係員に連れていってもらったあたりの場所。

 宿を出ると、俺はメタルウルフに乗ってその場所を目指した。

 集合時刻の10分前には到着したのだが……三人は既にそこに来ていた。


「はじめまして。私はアシュガーノ騎士団の副団長・フロイドだ。団長はリーダーシップ重視で別の者が務めているが、戦闘能力では私が騎士団でナンバーワンだ。よろしく」

「Sランク冒険者のメイよ。よろしく」

「同じくSランク冒険者のウェザーだ」


「安全管理業務新任のハダルです」


 まずはそんな感じで、一通り自己紹介を済ませる。


「色々と噂は聞いている。あのギガントフェニックスを三体も秒殺した、とかな。本当ならとんでもない強さだが……その反面、あまりにも現実味が無い噂なので信じ切ることもできなくてな。いきなり疑って申し訳ないが、前任者として君の実力を見させてもらえればと思う」


 全員の自己紹介の後、副団長のフロイドはそう続けた。


 たぶんその噂、受付の係員発祥だよな……。

 てことは、ワンチャン俺が倒した魔物がそのギガントフェニックスとかいう奴じゃない可能性もある。

 燃え盛る鳥の外見から名称を連想しただけで、実は勘違いで全然下位の魔物だったりしてな。

 それを考慮すると、確かに俺の実力が「噂通り」かは微妙かもしれない。


 ま、別にあれが俺の本領だったわけでもないので、あの燃える鳥がギガントフェニックスじゃなかったとしてもすなわち俺がギガントフェニックスを倒せないという話にはならないが。

 ともかく、この人たちが安心できるような戦いを披露できるといいな。


 などと考えていると……フロイド副団長がこんなことを聞いてきた。


「ところで、君が乗っているそのギンギラギンな狼は何だ?」


 そう言って彼は、メタルウルフを指した。


「メタルウルフという魔道具式の猟犬です。模擬戦相手や、このように移動手段としても使えます」


「メタルウルフ? 聞いたことないな……。魔道具の猟犬って、この地の魔物相手にそんなの通用するのか?」


 答えると、フロイド副団長はそう言って首を傾げた。

 二人のSランク冒険者も、何のことかよく分かっていない様子だ。


 メタルウルフ、あまりメジャーな魔道具ではないのかもしれないな。

 はてさて、これ以上どう説明したものか。


 そう思っていると……上空に、一体の魔物がいるのが目についた。

 インフェルノ大陸の方角から、例の燃える鳥が飛んできているのだ。


 百聞は一見に如かずって言うし……とりあえずメタルウルフにアイツでも倒させてみるか。


「あの、ギガントフェニックスってあの魔物のことですか?」


「……ああ、そうだな。というか君、知らなかったのか?」


「あれと同種の魔物は倒したことがあるんですけど、名前と見た目がまだ一致してなくて」


 そんな話をしつつ……俺はメタルウルフから降りる。

 そして、魔力波で信号を送ってメタルウルフに合図を出した。


 すると……。


「ワオオォォォォォォン!」


 メタルウルフはギガントフェニックスの方を向き、雄叫びを上げた。

 直後、ギガントフェニックスは空中で爆発四散した。


「「「な……!?」」」


 その様子を見て……フロイドたち三人は、目が爆発地点に釘付けになったまま口をあんぐりと開ける。


「い……いったいこれは……?」


「超音波兵器ですよ」


 そう。メタルウルフ、遠吠えで高エネルギーの超音波を発することができるのだ。

 ギガントフェニックスは音響のエネルギーを受け、爆発してしまったのである。


 ちなみに吠え声が俺たちにも聞こえるのは、攻撃したことが分かりやすいよう可聴域の音も申し訳程度に同時に出るようになっているからだ。


「なんだあれ。もう強いとかそういう次元じゃなくないか……」

「というか、この狼さえいれば他に何もいらないくらいじゃないの……」


 以前視線が爆発地点に釘付けになったまま、フロイドとメイがそれぞれそんなことを呟く。


 流石にそこまではいかないな。

 魔石の限界というか、メタルウルフの実力が通用するのは取った魔石の魔物のちょい上位互換くらいまでなのだ。


 もちろん、もっと強い魔物の魔石で作れば話は変わってくるが……結局その原材料を倒すのは、俺がやらなくちゃならないことに変わりはない。

 戦力外ではないという証明にはなっても、これ一台で十分は言いすぎだろう。


「う、うん、とりあえず君の実力が常軌を逸しているのはよく分かった。騎士団百人に冒険者数十人でどうにもならなかった仕事をたった一人に任せると聞いた時は、バンブーインサイド建設の社長の気が触れたかと思ったが……どうやらマトモな判断だったようだな」


 しばらくして、落ち着きを取り戻したフロイド副団長はそんなことを言いつつ、しきりにウンウンと頷く。


「だが、せっかくここまで来たんだ。他の魔物と戦うところも見てみたい」


 そしてそんな要望を出してきたので、岬の先端を目指していくことにした。



 しばらく歩いていると……今度は、別種の魔物に出くわした。

 これまた一軒家くらいのサイズがある、亀の魔物だ。


「ラッシュタートルか。……また厄介な魔物だな」


 その魔物を見て、Sランク冒険者の一人、ウェザーがそう呟く。


「あれはどうやって倒す?」


「そうですね……」


 試しに診断魔法を放ってみると……脚力が異常なまでに発達していることが分かった。

 その発達の仕方を見るに、どうやら重量装甲である甲羅を盾に突進する戦闘スタイルのようだ。


 であれば……それを逆手に取るのが一番楽か。

 俺は風魔法で、亀(ラッシュタートルという名前らしい)にとって不快な音色を発した。

 すると……ラッシュタートルは俺たちの存在に気づき、猛突進してきた。


「まずい! 気づかれた!」


 フロイド副団長はそう言って焦るが……別に何もまずいことはない。

 意図的にこうしているのだからな。


 俺は何枚か対物理結界を展開し、ネズミ返しのような形状を作った。

 ちょうどそこにラッシュタートルが突っ込んできて……そして、ネズミ返しの形状の結界に沿って、仰向けにひっくり返った。


「……って、あれ、止まった!?」


 その様子を見て、副団長は困惑の表情を浮かべる。


「これ倒していいんですよね?」


「お、おう……」


 ひっくり返ってむき出しとなった柔らかい腹部に、オリハルコンーアダマンタイト合金製の剣を突き立てる。

 特に力を入れずとも、剣は自重だけで亀の心臓にまで深々と突き刺さった。


「こんな感じでどうでしょう?」


「マジか……あの突進を利用するのか……」


 感想を聞いてみると……フロイド副団長は啞然とした様子で、まずは一言そう呟いた。


「そりゃあひっくり返せば簡単に弱点を見せてくれますから」


「そのひっくり返すのが普通、至難の業なんだがな。ラッシュタートルの突進に耐える結界とか生まれて初めて見たぞ……」


 あれ。

 相手に合わせて最適な戦術を組めますよってところを見せようと思ってさっきの倒し方をしたつもりだったんだが……なんか思ったのと違う反応が返ってきたな。

 まあいいか。


 というか……この調子でいちいち魔物とタイマン張ってくの、なんか効率悪いな。

 岬全体に探知魔法を放ってみても、竜閃光一発で死なないレベルの魔物は(おそらく今日はたまたま)いないみたいだし。

 もうなんかまとめてパーッと倒して今日の業務終えちゃうか。

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