第27話 建設予定地の視察
到着後、まず俺たちが訪れたのはバンブーインサイド建設のアシュガーノ支社。
受付にて、ジャスミンが手続きを始めた。
「いらっしゃいませ。どのような用事ですか?」
「要塞の建設予定地を見たいの。案内してくれる?」
「すみません、あの場所は関係者以外立ち入り禁止なのですが……弊社とはどのような関係で?」
あれ、そこ顔パスじゃないんだ。
とも一瞬思ったが……まあよくよく考えれば、流石に支社の受付にまで娘の顔が知れ渡ってるってことはないか。
「私はライト社長の娘よ。そしてこちらは安全管理業務委託先のハダル君」
「ご冗談はよしてください。彼女らの到着はまだあと一週間先のはずです。ここにいるはずがございません」
「もともとそういう予定だったけど、ハダル君が竜になって空を飛べたから早くつけたのよ」
「はい……? いったい何の話をされてるんですか……?」
ジャスミンは素性を話したが……それでも尚、受付の係員は信じられないといった様子だった。
……意外と押し問答してるな。
このままだと埒が明かなそうだし、何かできることはないだろうか?
一瞬考え……俺はいい方法を思いついた。
「これで信じてもらえますか?」
そう言って俺が見せたのは、今回の業務の契約書。
まあ人に見せるようなものではないので、条件や金額といったあまり見せたくない部分は幻影魔法で適当な文字列が見えるようにしてるがな。
すると……流石に係員も察しがついたようだ。
「こ……これは間違いなく弊社の社長の捺印! 失礼いたしました!」
受付は態度が急変し、何度も頭を下げた。
「あまりにも話が突拍子もなくて、なりすましだとばかり……!」
「まあ、そう思うのも無理はないわ。私だって自分が搭乗者じゃなきゃ、あんな移動方法があるなんて信じられなかったと思うもの」
申し訳なさそうにする受付の係員を、ジャスミンはそう言ってフォローする。
とりあえず、俺たちは無事予定地に案内してもらえることになった。
◇
「ここから先がアシュガーノ半島の要塞建設予定地、アシュガーノ岬となります」
受付がそういって指したのは、見渡す限り何もないただの平原だった。
対物理結界を足場にして上空に移動し、地形を確認すると、幅2キロ、長さ4キロほどの突起状の地形で、その全体が平地となっているのが見て取れた。
なるほど、本当に建設予定地が定められているだけで、工事は1ミリも進んではいないようだ。
そしてよく見ると……何匹か、ゼルギウス王立魔法学園の校舎くらいのサイズの燃え盛る鳥がいるな。
そんなことを考えつつ、地上に戻る。
すると、受付の係員が慌てふためいていた。
「ちょっ! 急に飛び上がらないでくださいよ! 一応ここまでなら安全に近づけるとされてますけど、上空に人間がいるのを捉えられたら魔物に襲われるかもしれないんですよ?」
おっと、それは先に言っておいてほしかった。
「すいません、次からは気をつけます。たださっき見た感じだと、今のタイミングはこっちの大陸の在来種しかいない感じっぽかったので大丈夫だと思いますが……」
とりあえず受付の係員を安心させるため、俺は見た様子をそう伝えた。
海までは探知していないからどうかは分からないが、少なくとも空を飛ぶタイプの魔物の中だとさっきの燃える鳥が一番強い部類だ。
せいぜい「竜閃光」一撃で倒せるような相手なので、まず間違いなく在来種だろう。
「では私が案内できるのはここまでとなります。ハダルさんはとんでも戦闘能力をお持ちと聞いてますので、もっと奥まで視察に行っても構いませんが、くれぐれもご自身の安全には気をつけて――」
落ち着きを取り戻した受付の係員は、そう言って別れようとしたが……しかし、その言葉は言い終わらなかった。
「キエエェェェェ!」
「ひっ!?」
というのも……さっきの燃え盛る巨大な鳥がこちらを狙いにきて、受付の係員はそれと目が合ってしまったのだ。
とりあえず、「速射竜閃光」3発で処理。
「大丈夫でしたか?」
魔物は瞬殺したので攻撃は受けてないだろうが、心臓に悪そうなレベルで驚いていたので、俺は受付の係員に容態を聞いた。
「えっ……あ、あれ、倒されてる……!?」
しかし……その返事はなく、受付の係員はただただ鳥の死骸を見つめるばかり。
そのまま彼女は、へたり込んでしまった。
「大陸側の魔物が……全員一撃で……」
虚ろな様子で、彼女はそう呟く。
ん?大陸側の魔物?
聞き間違えたかと思ったが、一瞬遅れて納得した。
俺にはどう見ても在来種としか思えなかったが……非戦闘従事者から見れば、インフェルノ大陸産と勘違いしてもしょうがないか。
あるいは、あまりの恐怖でさっきの鳥が別物に見えてしまったか。
何かあってはまずいので、一応俺は心理的ストレスを完全に消去できるようエリアアブソリュートヒールを二人にかけておいた。
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