第24話 side:スーゼネ一家の団欒
ハダルがTUFG銀行に預金をしたのと、同じ日の晩のこと。
バンブーインサイド建設の社長一家・ベールバレー家の食卓では、こんな会話が繰り広げられていた。
「どうだ? 学校にはそろそろ慣れたか?」
「うーん、慣れたような慣れてないような……って感じね」
父ライトの問いに、娘ジャスミンはそう答える。
「何とも歯切れの悪い答えだな……」
「学校自体にはとうに慣れたけど、同級生にとんでもない超人がいて驚かされてばかりなのよ」
「……ほう。それはどんな人なのだ?」
「特待生の子なんだけど、とにかくあらゆる面で万能過ぎるのよね。何でもないかのようにグリフォンを魔法で撃ち落としたり、魔法薬学の授業中に新薬を開発しちゃったり……」
「魔法薬学の授業中に新薬だと!?」
ライトは娘が語る同級生の逸話に興味津々で食いついた。
その目は既に父親のものではなく、経営者の目つきになっている。
「奇遇だな……。というのも、私は一昨日、ジェイソン・アンド・ジェイソンの社長と食事に行ったんだが。彼が『ゼルギウス王立魔法学園の一年生から新薬開発魔道具の特許を買った』などと言っておったのだ」
「新薬開発の魔道具……ああ確かにあの子、成分の分離を自動化する魔道具の開発を頼まれてたわね」
「おそらく同一人物だろうな。その子、他に何か凄いことをやっていたりはしないのか?」
もはやライトの興味は、完全に娘の学校での調子から万能特待生へと移ってしまっている。
今のところ、建設業と深く関連のある能力は出てきていないが、かなり多才なようだから、聞けばそんな能力も出てくるかもしれない。
ライトの期待はどんどん高まっていっていた。
が――ジャスミンの次の一言で、ライトはその特待生がよく知っている人物だと気づくことになる。
「他には……色々ありすぎて全部は思い出せないけど、そうだ。錬金術の授業でなぜか逆に先生に教えてたわね。オリハルコンの作り方を」
「オリハルコンの作り方だと!?」
食事中だというのに、思わずライトは椅子から立ち上がってしまった。
「……もう、どうしたのよ急に」
「ジャスミンよ。その子ってもしかして……黒髪で、名前をハダルと言ったりしないか?」
「そうね。……何で知ってるの?」
ジャスミンは不思議そうに聞き返すが、もちろんライトが彼を知らないはずがない。
「実は一回、彼はウチにインターンに来たことがあるんだ。そして大量にのミスリルーオリハルコン合金とオリハルコンーアダマンタイト合金を納品していった。あの子は間違いなくうちに強力し続けてくれる限り強力な収益の柱となる存在だ……!」
「そ、そうだったのね……」
熱く語る父の言葉を聞きながら、ジャスミンは若干モヤモヤしていた。
なんでそんなレベルでウチと関わりがあるのに、一回も話しかけてくれなかったんだろう。
私もダンベルをもらうために筋トレでも始めるべきだろうか。
……いや、やめとこう。あれは脳筋王子だから成せる技であって、私なんかがアダマンタイト製ダンベルなんか貰っても腰をヤるのがオチだ。
「そうか……あの子、錬金術だけでなく魔法戦闘までも天才なのか……」
椅子に座りつつ、ライトは食器を手から離したまま深く考え込み始める。
しばらくして……彼はあることに思い至り、唐突に手をポンと叩いた。
「……そうだ!」
「今度は何なのよ」
「あの計画ももしかしたら、あの子の力を借りれたら頓挫せずに済むかもしれない……!」
実は……バンブーインサイド建設には、魔物の猛攻により安全が確保できず、中止せざるを得なくなった国家事業が一つ存在する。
予算こそ潤沢にあるものの、安全管理のための人材が物理的に足りず、頓挫しかけてしまっているその計画。
ライトの中で……ハダルは、その再始動の希望として映っていた。
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