第23話 TUFG銀行

 次の日。

 教室に着くと……机の上に、一枚の封筒が置いてあった。


 開いてみると、面会したい人が来るので、昼休みに応接室に足を運んでほしいとのこと。


 またジェイソン・アンド・ジェイソンから何か話があるのだろうか。

 たとえば、分子分別魔道具の増設とか。


 アビスリザードは一応討伐者の所有物なので、検分とかが済んだら返してくれるらしいし……そういう話だったら、その魔石でも使って作るか。

 などと思いつつ、俺は昼休みの時間になるのを待った。


 ◇


 昼休みになり、応接室に足を運んでみると……しかし。

 来ていたのは、ロバート社長とは全く別の人物だった。


 全く面識のない人だが……いったい何の用だろう。

 疑問の思っていると、その人が自己紹介を始めた。


「はじめまして。私はトライダイヤ=ユナイテッド・フィナンシャル・グループ、通称TUFG銀行の頭取のプレンタインだ」


 そう言って彼は、名刺を渡してきた。


「君がハダル君だね?」


「あ、はい」


「この度は……我が息子の命を救ってくれて、本当にありがとう」


 更に彼はそう続け、頭を下げた。


 ……はて。

 息子の命を救ったとはいったい。


「すみません、身に覚えがないんですが……」


「そんなはずはないだろう。アビスリザードを無力化してくれたのは君だと、ダンジョン実習の先生から聞いておる」


 そこまで聞いて……ようやく俺は何の事か合点がいった。

 そうか。確かアビスリザードには、もう一組遭遇したパーティーがあったんだったな。

 そっちにこの人の息子がいたというわけか。


「ああ、その件ですか。確かにアビスリザードは倒しましたが、別パーティーの人たちまで救った形になってたことまでは頭が回りませんでした」


「なるほど、君にとってはアビスリザード程度些事というわけか。噂には聞いておったが……」


 そんな会話をしていると、ダンジョン実習の先生が部屋に入って、机にお茶を置いていった。

 それを境に、俺たちは本題について話し合うこととなった。



「で……今回来た理由なんだがな」


 プレンタイン頭取はそう言うと、机の上に資料の束を置く。


「我が息子の命を救ってくれたお礼に、特別な金融商品を提案したいと思う」


 そして彼は、資料を俺の方に移動させた。


「まずは通常の預金がどういう風になっているか、読んでみてくれ」


 そう促されたので……俺は資料に目を通す。

 そこにはざっくりと、こんなことが書かれてあった。


 TUFG銀行の事業は簡単に言うと、「資産家から預かったお金を金利15%で貸し出し、得た利益のうち4%を預金者に還元する」というもの。

 利ざやが大きめに取られているのは、そこそこリスクの大きい借り手に貸し付けることもあるからだそうだ。

 それでも、徳政令のようなやむを得ない事情によって多大な損害を出してしまうこともごく稀にあるそうだが……そういう時は、元金は最低1000万クルルまで保証してくれるとのこと。

 ちなみに徳政令は前回起きたのが52年前、その一個前は453年前なので、そこまで深く心配しなくてもいいそうだ。


「……一応ざっと目は通しました」


「分かった。では次に、君に提案する金融商品を説明しよう」


 読み終わったことを伝えると、頭取はこう説明を始めた。


「通常年利4%で還元のところを、君には年利12%で還元するとしよう。更に……有事の元金保証は、100億クルルまでとする」


 頭取が出した条件は……とんでもなく破格なものだった。


 マジか。それって89億クルル預けとけば、元金を減らさず毎年11億クルルを無リスクで取り崩せるってことだよな。

 とても安全資産で得て良い金利じゃないぞ。


 しかも、それはあくまで未曾有の事態に備えて元金保証分を超えない額預ける場合の話であって、預けっぱなしにするとしたら複利でもっと増えるのだ。

 向こう50年徳政令が起きないと信じ、全額預けっぱなしにするとしたら、元手の100億クルルは2兆8900億クルルにまで増えてしまう。


「……本当に良いんですか? そんな条件で」


「もちろんだ。息子の命の恩人なんだ、これくらいの特別待遇はしないとな。ちなみに他にこんな条件で預金しとる者はおらんよ。こんなのを誰彼構わずやっていたら財政破綻は目に見えておるからな」


 流石に異例すぎる気もしたが、頭取はただそう言ってガハハと笑うのみだった。


「とはいってもまあ……学生の身ではまだ、そんな大量の預金はできんだろうがな。弊行が存続する限り、君の預金は永劫この条件で預かるつもりだ。この約束はキッチリ書面にも残しておくから、お金に余裕ができたらいつでも預金しに来てくれ」


 頭取はそう言って、契約書を取り出す。


 ……正直ちょうどいいくらいの現金持ってるんだよなあ。

 バンブーインサイド建設から貰った報酬が。


「じゃあ今これを預けます」


 俺は収納魔法で89億クルル分の大白金貨を取り出した。

 最初の合金の報酬37億と、次の報酬52億を足したものだが、奇しくも一年で元金保証の最大値い達する額だな。


「おお、そうか……って、はぇあ!?」


 頭取は大白金貨の山を見るなり……目が点になった。


「こ……ここここのお金はいったい……?」


「インターンの報酬です」


「いったいどんなインターンをしたら報酬がこんなことになるというのだ……」


 てな感じで、預金が完了した。

 行き場のないお金の使い道ができてよかったな。

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