第20話 ダンジョン実習1

 教会でのインターンの翌々日。

 今日の授業は二限からで、科目はダンジョン実習だ。


 週明けだが、先週のこの曜日はまだ入学式前だったので、これが最初の授業。

 初回ということでまずは軽くダンジョンの説明があって、それから実習に入ることとなった。


「まずは三人ないし四人でパーティーを組んでくれ」


 最初に先生から出た指示は……そんな内容だった。

 それを聞いて、俺の心に不安がよぎる。


 やばい。なんだかんだで、現時点でクラス内に知り合い二人しかいないんだけど。

 余っちゃったらどうしよう……。


 とりあえず視線を左右に動かしていると、まずはイアンと目が合った。


「一緒に組んでもらえるかい?」


「ありがとう。俺から頼もうと思ってたところだよ」


 イアンの方から話しかけてくれて、まず一人目は確保できた。

 あと、最低でも一人。


「ところで三人目はどうする?」


「イアンは誰か他の友達とかいないの?」


「それがな……王子という立場からか、なかなかクラスメイトと距離を詰めれなくてさ。せめて立場を明かす前に君に話しかけといてよかったって思ってるくらいなんだよ。」


 イアンの伝手でどうにかならないかと思ったが、どうやら王子はアテにならないようだ。

 となると、俺の方でどうにかするしかないか。

 でももう一人の知り合い、ちょっと一緒に仕事をしたくらいのもんで、別に仲が良いわけじゃないしな……。

 多分あの子はあの子で、仲の良い女の子とでも一緒に行きたいと思ってる気が。


 ……と、考えていたのだが。


「なあハダル……あの子、さっきからずっとここに入りたそうにこっちを見ているようなんだが。知ってる子か?」


 イアンがそう言って指す先には……こちらを遠慮がちにチラチラと見ている、例のインターン生が。


「ああ、一応インターンで一緒ではあった――」


「それだよ!」


 経緯と説明しようとすると、即座にイアンにツッコまれた。

 うーん、でも話しかける勇気がな……。

 ……そうだ。アレでも試してみよう。


「ヤバいあと一人どうしよう……」


 俺はそう小声で呟き、風魔法で音波の伝達をコントロールして、インターンの子の耳に聞き取れる最低限の音量でその呟きが聞こえるようにしてみた。


 本当に一緒に来たいならこれで反応があるだろうし、こちらの勘違いだった場合は空耳だと結論づけて無反応を貫き通すだろう。

 この方法なら、こちらの早合点であるリスクを最小限に抑えられるって算段だ。


 すると……インターンの子は、おずおずと歩いてこちらにやってきた。


「あの……『あと一人どうしよう』って聞こえてきた気がするんですけど……気のせいですかね?」


「あー、つい独り言がデカい声で出てたかな。……気のせいじゃないよ」


「私でよければぜひ!」


 作戦は功を奏し、無事俺たちは三人目を集めることができた。


「ハダル……なんでこの程度のことに無駄に高度な魔法を……」


「無駄じゃないよ」


「な、何の話ですか?」


「ううん、こっちの話。ていうか……インターンの時は敬語じゃなかったよね?」


「だって、命の恩人と第一王子の前でため口なんて……」


「「気にしないでくれ」」


 そんな会話をしていると、クラス全員のグループ分けが終わったようで、先生から次の指示が飛んできた。


「では、グループの皆で協力して、ダンジョン内を探索してきてくれ。行っていい階層は、10階層までだ。これは『ウチの入試を突破した者の手に負えない敵はまず出てこない階層』という基準で定められたものだが……だからといって油断はせず、くれぐれも安全第一で行動するように」


 先生からルールを聞いたところで、早速全員ダンジョンに潜ることとなった。

 俺たちも、皆に続いてダンジョンの入り口に向かう。


 が……その途中で、俺たちのグループだけ先生に呼び止められてしまった。


 何事かと思ったら、こんな追加の指示が。


「魔法戦闘演習の先生から話は聞いている。ハダル、お前は原則手出しをするな。なぜならお前が戦闘に加わると、それだけで全部片付いてしまうからだ。作戦の立案と戦闘指南、及び索敵だけならやっていい」


「え……」

「「はい」」


 そんなのありかよ、と思ったが……なぜかイアンとインターンの子からは不服そうな感じが一切見られない。

 ただでさえ三人パーティーだというのに。


「ただし、二人の身に危険が生じそうな場合は別だ。成績は命には変えられないからな、そういう場合はもうサクッとやっちゃってくれ。とはいえ……明らかに不注意でハダルの介入が必要になってしまったと判断される場合には、二人の成績を減点することになるがな」


 続けて先生は、俺が戦闘に参加していいケースとその場合の成績処理について説明した。

 俺は保護者かよ。


「「分かりました」」


 だが、またもや二人の表情には、一切不服そうな感じはない。

 ……まあ、二人が文句ないなら俺がどうこう言うことでもないか。

 別に俺も、フル単で卒業できれば内訳は正味どうでもいいし。


 というわけで、先生からの追加指示も終わり、ようやく俺たちも探索に行けることになった。


「とりあえず、役割を決めようか」


 ダンジョンの入り口にて……本格的に探索を始める前に、イアンがそう提案する。


「せめて索敵は任せてくれ。でないとただの付添人になっちゃう」


「ハダルはまあそうだな。じゃあえーと……君、名前は?」


「セシリアです! あっじゃなくて……セシリアよ。私はできれば後衛がいいわ」


「分かった。じゃあ僕は前衛だな」


 役割は、そんな感じで決まった。


 インターンの子、名前はセシリアって言うのか。

 そういえば昨日、全然名前を聞くって発想にならなかったな。

 ……入学式の自己紹介ちゃんと聞いとけと言われればぐうの音も出ないが。


「あと……一応索敵はハダル君に任せるって話だけど、私も注意はしておくわ。ハダル君の敵を見つける能力には全幅の信頼が置けるけど……『こんなのが私たちの脅威になるなんて思いもしなかった』みたいな事態になりそうだもの」


「そうだな。俺も気をつけておこう」


 ……おい。なんでそうなる。

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