第19話 突然の頭痛に効いたのは……

 まずはパーフェクトヒールをかけてみる。

 すると症状は緩和し、クラスメイトの子は悶絶するのをやめた。


「ふぅ……あ、ありが――」


 しかし、彼女が立ち上がってお礼をしようとした時のこと。


「あ゛っ……!」


 パーフェクトヒールの効果時間終了と共に、再び彼女は苦しみだした。


 パーフェクトヒール、効かなかったか。

 かけている間は痛みが収まっていたようなので、全く意味がなかったわけではないようだが……それはあくまで応急処置的な効き目に過ぎず、根治療まではできなかったみたいだな。


 となると、選択肢に入るのは二つ。

 より上位の治癒魔法をかけるか、あるいはパーフェクトヒールのような汎用魔法ではなく症状に特化した魔法を使うかのどちらかだ。

 パーフェクトヒールを持続的にかけるというのもこの場を凌ぐにはアリだが、それじゃあ根本的な解決にはならないしな。

 できればまずは症状だけでなく原因から解決できる方法を、試してみるべきだろう。


 彼女はしきりに頭を押さえている。

 症状は、強烈な頭痛といったところか。


 しかし……パーフェクトヒールが効かない頭痛って、いったい何があるだろうか。

 強烈な頭痛の代表例といえば脳出血とか脳梗塞の初期症状だが、そういった類ならパーフェクトヒールで治るはずなんだよな。


 何かヒントはないだろうか。

 そこまで考えたところで……俺は彼女の発言から、一つの可能性に思い至った。


 群発頭痛だ。

 群発頭痛は脳神経の異常に起因する頭痛であり、その痛みは別名「自殺頭痛」と言われるほどまでに強力なもの。

 そして神経系の微細な異常というのは、「パーフェクトヒール」が効かない代表例の一つだ。


 根治療にはその上位魔法が必要だが、そこまではしなくとも、沈静ポーションや鎮静剤でも対症療法にはなる。

 それゆえさっき、「鎮静魔法をお願い」などと言ったのだろう。


 だが……根治療ができるのに、対症療法で済ますのも変な話だ。

 パーフェクトヒールでは効かないが、その上位魔法でなら治せるのだから、それをかければいいだろう。


 俺はアブソリュートヒールという魔法を発動した。

 すると……今度こそ、彼女の頭痛は完全に治まった。


「た、助かった……」


 頭痛から解放され、彼女はほっと一息つく。


「最近は症状が一か月に一回とかしか出なくなってたから……鎮静剤を持ち歩くのを忘れちゃってた……」


 なるほど。

 言われてみれば、確かになんでそんな持病があるのに対処法を持ち合わせていなかったのかは不思議な点だったが、それなら仕方ないな。

 群発頭痛は具体的な原因が不明で、突然起こるようになったり突然起こらなくなったりするものだし。


「とにかくありがとう。あなたは命の恩人だわ」


「いやいやそこまでじゃ……」


 自殺頭痛って別名はあるものの、実際はせいぜい気絶するまでだしな。

 倒れた瞬間の打ちどころが悪くて大量出血……みたいな二次災害でもない限り、死までいくのは稀だろう。


「ところで……二回ほど魔法を試してくれたみたいだったけど。一回目はパーフェクトヒールとして、二回目のは何だったの?」


「アブソリュートヒールだよ」


「「「……え!?」」」


 そして魔法名を答えると……クラスメイトの子だけでなく、周囲にいた治癒師までもが声をシンクロさせて驚いた。


「あ、アブソリュートヒールだと……!?」

「確かにあれならたいてい何でも根本から治療できるだろうが……あれって聖女様が1時間術式構築に時間をかけて、3分の1の確率で発動成功するような魔法だったはずじゃ……」


「そ、そんな魔法使ってもらっちゃったの、私!? なんかごめん、鎮痛魔法で十分だったのに負担かけちゃって……」


 啞然とする治癒師たちとは対照的に、申し訳なさそうに何度もペコペコと頭を下げるクラスメイトの子。


 ……いや確かに、パーフェクトヒールと比べれば多少は魔力食ったけど。

 そんなに畏れ多く思われるほど大変な術式かっていうと、そんなわけでもなかったぞ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る