第17話 はじめての権利収入
一限の魔法薬学の授業が終わると、俺は二限の授業に向けて教室移動を始めた。
二限の授業は……奇しくも魔道具作成演習だ。
まあそうは言っても、授業は授業で作る内容が決まってるだろうから、授業中に完成させるとはいかないだろうがな。
そんなことより、今日の授業は二限で終わり――すなわち午後休なのが嬉しいポイントだ。
……一限があったことを考えればプラマイゼロか。
などとどうでもいいことを考えつつ、教室に入る。
すると……いきなり俺は、先生に話しかけられた。
「ああ、君は試験で重力操作装置を作った例の受験生じゃないか」
どうやら担当教員、あの時の試験官のようだ。
「君には私から教えられることなど何もない。普通に授業受けても退屈だろうし、何やってても単位あげるから、教室で自由にしていてくれ。必要な材料があれば何でも貸し出そう……私に用意できる範疇のものであればね」
かと思うと、またもやこの時点で単位をもらえることが確定する科目が出てしまった。
……なんかそういう教科多くないか?
しかし、授業の時間を自由に使えること自体はありがたい。
この時間を使って分子分別魔道具を作れるからな。
「ありがとうございます」
授業とは関係ない作業をしてみんなの邪魔にならないよう、最後列の席を取る。
授業が始まると、俺はその時間で分子分別魔道具を完成させた。
◇
二限が終わると……早速俺は魔道具の完成を伝えに、魔法薬学の先生のもとに赴いた。
伝えると、先生は「もうできたのか」と結構驚いた。
そして、「知り合いの製薬会社の社長のアポが取れたらまた連絡する」とも言われた。
それから二日後。
無事アポが取れて社長が学園を訪れたらしく、俺は学校の応接室を借りて社長と会うことになった。
「はじめまして。私は製薬会社ジェイソン・アンド・ジェイソンの社長、ロバート=ジェイソンだ」
まず社長は、自社について資料を見せながら軽く説明してくれた。
内容はざっくり言うと、ジェイソン・アンド・ジェイソンは全世界のポーション販売の60%を担う、業界のリーディングカンパニーとのことだった。
続いてロバート社長は、従来のポーションをアール草を用いたものに置き換えた場合の経済効果についての試算を見せてくれた。
社長曰く、原価も人件費も従来のポーションの約三分の一になるらしい。
それだけ人件費が下がるのは、調薬プロセスが簡単であることに起因するとのことだ。
「……というわけで、ポーションの末端価格は従来の三分の二とし、分子分別魔道具に関しては、特許料として売上の50%を未来永劫渡す約束にしようと思っている。いかがかな?」
最終的に社長は、そんな条件を提示してきた。
……なるほど。魔道具を売って終わりではなく、権利収入が得られる形となるのか。
そういえばお母さんも、人間社会での一番の勝ち組は資産家だと言っていたな。
権利収入があると働かなくてよくなるので、最も快適に人生を過ごせると。
とはいえ、そんな生き方ができているのは世界人口の1%にも満たないともお母さんから言われた。
流石にハードルが高すぎるので、次点でマシだと言われているホワイト企業勤務をまずは目指そうと思っていたのだが……早くも千里のうち一歩くらいは、資産家に近づけることになるとはな。
「ありがとうございます。ではその条件で」
俺はその条件を呑むことにした。
「じゃあ早速、君が作った魔道具を見せてくれないか?」
社長がそう促したので……次は俺が説明するターンだ。
「こちらになります」
俺は収納魔法で魔道具を取り出した。
「上の投入口から投入された薬液は、この部分で分離にかけられ、下の二つのタンクに貯蔵されます。『癒』と刻印された方が治癒ポーション、『酔』と刻印された方に副作用の物質が貯蔵される形となっています。それぞれのタンクは内部が亜空間となっていて、最大400万リットルが貯蔵できるようになっています。分離効率は、最大稼働時で20万リットル毎時です」
そして、そんな感じで簡単に魔道具のスペックを説明した。
「これ一台で20万リットル毎時の稼働力だと……!?」
スペックを聞き、ロバート社長は目を丸くする。
「いったいどんな質の魔石を使えばそこまでのスペックが生み出せるんだ」
「一応こちらはグリフォンの魔石をコアにしました」
「ぐ、グリフォンだと!? そんなとんでもない代物が使われてるのか……」
もちろんそのグリフォンは、魔法戦闘の授業の時に撃ち落とした奴だ。
たまたま低高度を飛んでいてくれたおかげで良い魔石を材料に使えて助かった。
「そんなにもスペックが高いとなると……これ一台で、弊社のシェアを賄える勢いに達するな。本当は試運転してみて上手く行きそうなら、後で同一の魔道具を大量生産してもらおうかと思っていたが。魔道具の追加生産は……もし『アール草ポーションのおかげでシェアが拡大できて供給が追いつかない』みたいになった時、追って注文するとするよ」
などと社長は言いながら、懐から契約書を取り出した。
この魔道具、無事買い取ってもらえることになったみたいだな。
「これにサインしてくれれば、契約締結としよう」
俺は契約書の内容をよく読み、当初の説明と相違ないのを確認すると、署名欄にサインをした。
契約が終わると、社長は自前のマジックバッグに魔道具を収納し、学園を後にした。
どれくらいの収入になるのかは未知数だが……少しは人生がいい方向に行った気はするな。
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