第14話 魔法戦闘演習――2
というわけで、防御能力の測定はなんかよく分からない結論を出されて終わってしまったのだが。
俺の能力測定そのものには、まだ続きがあった。
「まあとりあえず、防御能力の測定はこれで全員終了っと。このクラスで攻撃魔法の方も測定しないといけないのは……」
先生はそう呟きつつ、名簿に視線を落とす。
「……ハダル含め三人か。せっかくだし、流れでハダルから始めるか」
先生がそう決めたので、俺は立て続けに攻撃魔法の測定もすることとなったのだ。
どうやって測定するのだろう。
入試のルールに則って、的に向かって魔法でも放てばいいのだろうか?
などと思いつつ、訓練場の端に設置してある的に目をやる。
だが……そんな俺の考えとは裏腹に、先生はこんなことを呟いた。
「しかし……あの防御魔法を見た後だと、普通に的に放つ試験にするのは気が重いな」
そう呟いたっきり、しばらくの間先生は額に手を当てて考え込む。
その末に俺に出された指示は、こんな内容だった。
「……そうだ。とりあえず、地上に影響が出なさそうな攻撃魔法を一個空に放ってみてくれないか?」
……地上に影響の出ない魔法、か。
そういう条件なら、オーソドックスに竜閃光でも放っとけば良さそうだな。
竜閃光は、竜の息吹の収束度を上げてビーム状にした魔法。
ビームの射線上は高威力のエネルギーが通過するが、逆に言えば、そこから外れた場所にはほとんど何の影響も出さないのだ。
まあ流石にビームの周囲半径10センチくらいの空気はビームの熱で急激に膨張するため、ちょっとした衝撃音が轟くことにはなるが、それくらいは見過ごしてもらえるだろう。
どんな魔法だって、多かれ少なかれ周囲への二次的な影響は発生するものだし。
などと考え、俺は使う魔法を決定した。
竜閃光を放つ前に一応、上空に向けて探知魔法を放つと、ちょうど真上あたりにグリフォンが飛んでいることが分かった。
俺はそのグリフォンを狙い撃つことに決めた。
ただ空中に魔法を放つよりは、何かしらに狙いを定めた方が、命中能力もあることが実証できるからな。
その方が点数も高くでるだろうと思ってのことだ。
魔法を発動すると、一筋のビームが空を貫き、肉眼では点にしか見えない位置にいるグリフォンに命中した。
「……んだよ今の魔法……。射程も発射速度の化けもん過ぎるだろ……」
ビームを見て、先生は口をあんぐりと開けたまま目が上空に釘付けになる。
そんな彼を覆ったのは……鳥の魔物の形をした、大きな影だった。
「おっと」
このままでは先生がグリフォンの下敷きになってしまう。
咄嗟に俺は先生の真上に結界を展開し、グリフォンを受け止めた。
「うおっ、びっくりした!」
「……怪我はないですか、先生?」
展開した結界の上に飛び乗ると、俺はグリフォンを担ぎ、誰もいない安全な場所へと移動させた。
「こ、これは……まさかグリフォンか? 地面に落っこちてくるって、一体何が……」
しばらく不思議そうにグリフォンの死体を眺めていた先生だったが……次第に彼は、グリフォンが負っている一か所の怪我に気づく。
その原因に察しが付くと、先生は青ざめた表情でこちらを向き、こう聞いてきた。
「まさか、さっきの魔法で……?」
「はい。適当に撃つよりは、何かを狙った方が、命中精度があることを証明できるかと思いまして……」
「……嘘だろ」
先生の眼には、若干の怯えすら宿りはじめてしまった。
「……なあ。グリフォンっつったら、Aランク冒険者でも地上を襲いに来た奴を返り討ちにするのが精一杯なレベルの魔物だぞ? 普段はあまりにも高い所を飛んでいるせいで、射程に特化した戦略級兵器でようやく攻撃を届かせられるかってくらいだ。それをお前、それをお前、あんな攻撃発生の早い魔法で余裕で貫くって……」
と言われてもな。
Aランクって、冒険者のランク的にどの辺なんだ。
FからAまででAが一番上とかなら確かにすごいことなのかもしれないが、C、B、A、S、SS、SSSの6段階とかだったら中間くらいだしな……。
それに俺が狙ったグリフォンは、普通に魔法で届き得る射程にいる奴だった。
おそらく、何らかの理由で高度を下げて飛んでいる奴が、たまたま俺の探知に引っかかってしまったとかだろう。
何をそんなに動揺しているんだろう……。
と思っていると、先生はとんでもないことを言い出した。
「……よし、分かった。お前には現時点で、この科目の単位を出しておく。そして魔法戦闘系の必修科目全ての単位を無条件で出すよう学長に頼むとしよう」
どういうこったよそれ。
なんか俺、狙った魔物のチョイスが神ってたせいで買いかぶられてしまったみたいだな。
ま、それはそれでいいか。
単位が保証されるってことは、その分課外活動に注力しやすくなるってことだし。
せっかく頂いた評価を謙遜して覆してしまうのももったいないだろう。
俺は過大評価については気にしない方針にすることにし、クラスのみんなが待機している場所に戻った。
「こんなのと模擬戦したら、現役魔法師団長でさえ命が危ういわ……」
後ろから先生が何やらボソボソ喋っているような気がしたが、声が小さくてよく聞き取れなかった。
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