第9話 特待生合格をしていた

 入学試験の日から十日が経った。


 今日は合格発表の日。

 俺は借りている宿で朝食を済ませると、早速結果を確認しにいくことにした。


「出かけるので、一旦鍵をお返しします」


「はい、いってらっしゃいませ」


 ロビーにて、受付嬢に部屋の鍵を一時返却する。


 この宿を借りる期間を延長するか、それとも今日限りでチェックアウトすることになるか……全てはこの後見に行く結果次第だな。

 この宿は、学園から徒歩五分というアクセスの良さで選んだ宿。

 合格してたらこのまま借り続けるし、不合格だったらこれ以上いる理由がなくなるのでチェックアウトするというわけだ。


 今回はゼルギウス王立魔法学園単願だからな。

 滑り止めを受けていないので、不合格はすなわち浪人生活の始まりを意味する。

 お母さんの洞窟で宅浪するか、どこかの予備校に入塾するかは未定だが……予備校はたいてい専用の寮があるらしいので、いずれにしてもこの宿とはおさらばとなるのだ。


 剣術試験がアレだったからな……正直自信はないが、魔術試験でクリエイティブ試験方式を選んだのが吉と出ていることを祈りたい。


 などと考えながら歩いていると、学園正門前に到着してしまった。

 正門の両隣には一個ずつ掲示板が出されていて、門の右側のは普通の合格者の掲示板、門の左側のは成績上位者の掲示板となっているようだ。


 まだ朝早くだというのに、すでに受験生やその親と思われる人だかりが両掲示板前にできている。

 なんなら前日の夜から門の前で待機する猛者すらいるらしいとのことだから、実に恐ろしい話だ。


 あまり人混みに近づきたくないので、5メートルほど離れた場所から透視望遠魔法を発動して掲示板を確認する。

 もちろん、確認するのは右側の普通の合格者の掲示板の方だ。


「俺の受験番号……俺の受験番号……」


 見落としがないよう、一つ一つの番号を虱潰しに確認していく。

 が……結果は残酷なもので、俺の受験番号はそこにはなかった。


 これで浪人確定か。

 やっぱり、模擬問題集を解き始めるのが一か月前だったのがよくなかったんだろうな。

 もちろん一番の原因は剣術だろうが、筆記の方だって、俺が解けている気になっていただけで実は解けていなかったのかもしれない。


 気晴らしに余計な科目を解くのも、2科目じゃなくて1科目に抑えておけば、もっと見直しの時間が取れたかも……。

 いまさら思い悩んでもしょうがないことが、どうしてもグルグルと頭の中を渦巻いてしまう。


 ……帰ろう。

 そう思った時……近くを通りすがった受験生の二人組が、こんなことを口にしているのが聞こえてきた。


「なあ。あの特待生合格の生徒、点数おかしくなかったか?」

「ほんとそれな。特に魔術試験のアレ、もはやバグだろ」


 ……他人の点数の話で盛り上がれるとか、やっぱ合格者は心の余裕が違いますこと。

 こちとらこんなに落ち込んでいるというのに。


 とはいえ……そんな話が聞こえてくると、嫌でも自分も気になってしまう。

 俺は透視望遠魔法を再発動し、成績上位者掲示板の方を確認した。


 こちらは普通の掲示板とは違い、各科目の具体的な点数まで開示されているようだ。

 並び順も受験番号順とかではなく、総合得点の高い者から順に上から並んでいる。


 上位三名の受験番号と点数は赤字で書かれていて、その三人が特待生合格者のようだ。

 さっきの二人の会話からして、点数がおかしい奴はこの中にいるのだろう。


 見ていくと……何が異常かは一目で分かった。

 一人だけ、魔術試験の得点が300点もあったのだ。


「……誤植か?」


 一瞬そう思ったが、よく見ると下に小さい字で補足が書かれていた。


『特例によりクリエイティブ点上限突破』


 どうやら誤植ではないようだ。

 点数は馬鹿げているが、採点者は大真面目にこの点数をつけたらしい。


 変わった事もあるもんだ、などと思いつつ、俺はこの場を後にしようとした。

 ――が、その時。


 得点の隣に、俺は更なる衝撃の事実を目にすることとなった。


「あれ、この受験番号……」


 念のため、自分の受験票を再確認する。

 ……間違いない。

 これ、自分の番号だ。


 実は合格してた、なんてことが分かれば普通は大喜びするところなのだろうが、得点が得点だけになかなか実感がついてこなかった。


 嬉しいのはもちろん嬉しいけど……なんでこんな点数になったんだろう?


 重力操作装置なんて、あの魔石で作れる範囲でならそこそこハイレベルってだけで、別にそれ自体が大した魔道具ではないはずだ。

 上限30点分の追加点がつくくらいならまだしも、わざわざ上限突破なんてことにした意図は何なのだろう?


 もしかしたら……あの試験の本質、「いかに他の受験者が作らない魔道具を選ぶか」というところにあったのかもしれないな。

 多少大げさではあったが、あの時の試験官の反応からは、少なくとも重力操作装置が他の受験者とよく被るようなものではなかったことは明らかだったし。


 おそらく、人があんまり作らない魔道具作ったから好感度上がったのだろう。

 私情で成績が決まっていいのかはツッコミどころだが、まあ自分が得してる分には余計なことは言わないのが吉だ。


 ちなみに他の科目の点数も見てみると、なんとあの剣術試験までもが満点だった。

 思ったよりも経費がたくさん降りて、俺が折ってしまったやつより良い剣が買えたとかだろうか。


 真相は分からないことだらけだが、とりあえず「受かった」と分かった以上は、これからの学園生活に向けて気持ちを切り替えることが大切だ。

 俺は「合格者はこちら」と書かれた順路に従って入学案内などを受け取ると、宿に直帰した。

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