第10話 インターンに参加してみた
合格発表の翌々日。
入学手続きなども終わり、のんびりと王都を散策していた俺は……ふらっと立ち寄った定食屋の壁に、こんな貼り紙がしてあるのを見つけた。
『ゼルギウス生よ、実際の仕事を通して最高峰の建築技術を学ぼう。 バンブーインサイド建設ワンデイインターン』
それを見て、俺は思い出した。
お母さんの言っていた、「人間社会での処世術」を。
「学生のうちは、とにかくガクチカを作るのだ。それが将来、ホワイトな職場で働けることに繋がるからな」
ガクチカ――学生時代、力を入れたこと。
志望動機と並ぶ、採用面接における頻出質問の一つだ。
中身は学業でも課外活動でも何でもいいが、「どれだけ尽力し、どのような実績を残せたか」によって、人事からの評価は大きく変わってくる。
尽力度合いや実績が高ければ高いほど、競争倍率の高い職場の人事からも非凡だと見なされる確率が高まるので、一生懸命やっておきなさいというのだ。
ホワイトな職場は、知名度にもよるので一概には言えないが、基本的に狭き門だ。
そしてお母さん曰く、人間の幸福度は「年間休日125日、有休取得率90%、平均残業時間10時間以内」より良い環境の職場で働けるかどうかに大きく左右されるとのこと。
つまり今どれだけ積極的に学業やインターンに取り組むかは、将来幸せに働ける職場に就けるかどうかに関わる、最重要事項だというわけだ。
またもう一つお母さんが言ってたのは、「ガクチカの内容は何でもいいと言われているが、実際には業職種によってウケがいい内容は変わってくるので、できるだけ多彩な経験をして『自分のどの側面を見せるか』を逐次変えられる方が有利だ」とのこと。
言い換えれば、ブラックな職場が多い業職種であっても、「短期インターンに限れば」経験してみる価値はあるということだ。
体験できる職種は……施工管理か。
施工管理、通称「セコカン」はお母さん曰く残業が多くなりがちで、よほど建築が好きにならない限りやめといたほうがいいとのこと。
だがたった一日のインターンなら、多彩な経験を積むという意味において、やっておくのも悪くはないだろう。
どうせ入学式は一か月後なので、それまで暇だし。
などと考えつつ、俺は頼んだメニューが届くまでの間に募集要項などをメモった。
そしてご飯を食べ終えると、早速俺は参加の準備をした。
◇
五日後。
無事俺はインターンの内定をもらうことができたので、実際に職務を体験してみることとなった。
呼ばれた場所は、バンブーインサイド建設本社。
始業時間まで待っていると、俺たちインターン生には一束の書類が渡された。
1ページ目の見出しには、「工程管理」と書かれてある。
次のページ以降は「品質管理」「原価管理」……と続いている。
「ウチは一次請けだからな。こういうのを作るのが主な仕事になる。読んだら実際現場を見に行ってもらうから、内容を頭に入れるように」
まず工程管理のページからザッと読んでいくと、そこにはどんな工期でどの下請けに何を割り振るかが細かく書かれていた。
それを読み終わると、俺はページをめくって品質管理の部分に目を通し始める。
ふむふむ、一階部分はとにかく頑丈さ重視でミスリルーアダマンタイト合金筋コンクリートを使うのか。
二階部分以上は、ある程度の耐久性を保ちつつも軽い材料に切り替えるために鉄ーミスリル合金を骨組みに使う、と。
そこまで読んで、俺はふと一つ疑問が浮かんだ。
「すみません。これ――なんで一階部分にオリハルコンーアダマンタイト合金、二階以上にミスリルーオリハルコン合金を使わないんですか?」
頑丈さ重視ならミスリルーアダマンタイト合金よりオリハルコンーアダマンタイト合金の方が上だし、ミスリルーオリハルコン合金は鉄ーミスリル合金より頑丈な上に軽い。
なのになぜ、この組み合わせの金属なのか。
「ふっ……学生らしい質問だな」
すると職員は、「これだから素人は」と言わんばかりの目つきでそう返した。
「次のページを見ればわかるだろう」
次のページ……原価管理表か。
ふむふむ、このページはクライアントのの予算をオーバーしないように材料を決定するためにあるようだ。
現行の材料で予算はギリギリっぽいし、おそらくこの職員は、この材料でないと予算をオーバーしてしまうからこれを使うんだと言いたいのだろう。
だが――疑問は残る。
「予算内に納めないとビジネスにならない、ということですね。それは分かりました。ただ……この表、おかしくないですか?」
「どういうことだ?」
「ミスリルーアダマンタイト合金、なんでこんなに高いのでしょうか」
「そりゃあアダマンタイトが貴重な金属だからに決まっているだろう」
「え……割と簡単に作れませんか?」
「は? 作る? 一体何を言って……」
何を言ってって……錬金魔法を使えば一瞬だよねっていう話でしかないのだが。
まさかそれを知らないってことはないだろうし、実際にやって見せてどこがダメなのか聞いてみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます