第1話 最強の食事

 気がついたら俺は山の中に捨てられていた。

 原因は分からない。


 強いて言えば、思い当たることといえば昨日両親の機嫌が悪かったことくらいだろうか。

 あまり記憶は確かではないが、「くろかみ」とか「やまのかみ」とか「いみこ」とか、喧嘩の最中そんな単語がよく飛び交っていた気がする。

 それらが何を意味するのかはよく分からない。


 とにかく今分かるのは、自分が草木の生い茂る山の中にいること。

 そして、おそらくこのまま何もしないでいると高確率で死んでしまうであろうことだけだ。


 とはいえ、ろくに身体も動かせないのに何かできるわけでもなく。

 俺はただ、状況が変わるのをジッと待つしかできないでいた。



 なんかでっかい生物がやってきた。

 トカゲを思いっきり拡大したところに羽をつけたような生き物だが、なんとなくその生き物からは有無を言わせない威厳のようなものを感じる。


 このでっかい生物が敵なら自分は死ぬだろうし、味方なら確実に助かることだろう。

 直感で、俺はそう確信した。


 でっかい生物は若干震えながらしばらく俺を観察した。

 そんなに俺が珍しいのだろうか。


 などと思っていると……突如、でっかい生物は前足の爪を振り上げた。

 どうやら敵だったようだ。

 はい乙。俺の人生オワオワリ。

 俺は死を覚悟した。


 が――その爪は、一向に振り下ろされなかった。


 それどころか、でっかい生物は前足を下ろしたかと思うと、表情が若干柔和になった。

 一体何が起きているのかさっぱりだ。


 困惑していると、でっかい生物は俺に一つ魔法をかけた。

 それとともに、俺は自分の身体が宙に浮かび上がるような感触を覚える。


 でっかい生物は回れ右して、山の奥の方へと進み始めた。

 さっきの魔法の効果か、俺もそれに連動してでっかい生物についていく形となった。



 ◇



 しばらくすると、でっかい生物と俺は洞窟に着いた。

 洞窟の中に入ると、そこには夥しい量の金貨や宝石が積まれていた。


 俺は金貨の山の上で魔法を解かれ、そこで横になった。

 これがベッドとか言わないだろうな。

 ゴツゴツしてて寝心地が悪いぞ。


 などと思っていると……俺のお腹がグーと鳴った。

 でっかい生物が味方らしいことがはっきりし、緊張が解けたからだろう。

 それまで忘れていた空腹を、このタイミングで思い出したのだ。


 でも金貨なんて食べられないぞ。

 宝石となると尚更だ。


 なんとかして、でっかい生物に空腹のサインを送った方が良さそうだ。

 家にいた頃は、適当に泣き喚けば食事が用意されたもんだが……しかしこのでっかい生物は、果たしてそれを空腹のサインだと分かってくれるだろうか?


 そんなことを考えていると……。


縺願?む、お腹を縺吶>縺ヲ空かせておるのか


 でっかい生物は独り言を口にした。

 言語のようだが、何を言っているのかは分からない。


縺ォ繧薙£繧薙?縺ああ、そういえば人間ゅ°縺斐↓縺ッ縺シの赤子は母乳とかいう縺ォ繧?≧縺後>繧ものが必要なんだった


 マジで一単語たりとも理解できないが、でっかい生物の仕草からは、彼?彼女?が何かを思い出したであろうことが伝わってきた。


 かと思うと……でっかい生物は、全身から光を放ち。

 次の瞬間には、20歳くらいの人間の姿になっていた。


繧上°縺?↑縲ゅ§縺若いな。実年齢と人化」縺輔>縺セ縺サ縺?魔法の外見年齢はリンj繧薙¥縺励↑縺クせんのか


 人間の姿になっても尚、謎の言語で独り言つ元でっかい生物。


「……おっと。竜語じゃわからんか。ゆくゆくは教えていくとして……とりあえず今は、大陸共通語で話しておくとしよう」


 と思いきや。

 俺の不審がる表情でも感じ取ったのか、元でっかい生物は急に俺にも分かる言葉で話し始めた。


 さっきの言語は「りゅうご」なるものだったらしい。


「ほらほらハダル。ご飯だぞ」


 元でっかい生物はそう言って、母乳を飲ませようとしてきた。

 ……こんな得体の知れない生物の母乳なんか飲んで無事でいられるのか?

 不安はあったが、空腹が勝った。

 俺はその生物の母乳を口にした。


 ――すると。


おぎゃあ!?何だこれ!?


 飲んだ直後、身体に強烈な違和感が走った。

 全身が異常に熱い。

 悪気はなかったのだろうが、やはりでっかい生物の母乳は人間には毒だったか。


 と、一時は死を覚悟した俺だったが……身体の熱さは、一分もすると引いていった。

 そして今度は、全身に力が漲ってきた。


 力の漲り具合はかつてないほどで、俺は今の自分なら何でもできそうな感触を覚えた。


おぎゃ力が…………おぎゃあ!力が湧いてくる!


 試しに立ち上がって、歩こうとしてみる。

 いつもはよちよち歩きしかできないのに、今の俺は走ることすらできた。

 それも、周囲の景色がみるみる変わるような速度でだ。


 勢いがついて止まれないということもなく、俺は洞窟の外に生えてた木の目の前でピタッと減速、静止することができた。

 敏捷性もバツグンのようだ。


 そして何を思ったか、俺は目の前の直径40センチほどの木に軽く殴りかかった。

 なんとなく、今の俺ならこの木をへし折れてしまう気がしたので、試してみたくなったのだ。

 案の定、木は殴ったところからメキメキと音を立てて倒れた。


 でっかい生物の母乳、すげえ。


「全く……人間の赤子とは、ワンパクなものだな」


 気づけば隣に依然人の姿のでっかい生物がいて、俺は頭を撫でられた。

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