第2話 はじめての魔法鍛錬

 四歳になった。

 いつものように山を散歩していると、目の前にでっかい熊が現れた。

 名前はたしか、ギガントグリズリーだったか。


「やっ!」


 適当に回し蹴りを食らわすと、熊は一撃でのびた。

 適当とはいっても、肉に余計なダメージを与えないよう、ハイキックで頭を狙い撃ちにはしたが。


 洞窟の食料がかなり目減りしていたので、何かしら食糧となるものを見つけたいと思っていたところだったのだ。

 獲物の方から現れてくれて非常にありがたい。


 担いでみた感じ、体重は1.4トンくらいなので、600キロくらいは肉がとれるだろう。

 これでしばらくは、我が家の食糧事情は安泰だ。

 ……毎日熊肉ばかりだと飽きるので、別の食糧を探すことをやめるつもりはないのだが。

 などと考えつつ、俺は熊を担いだまま洞窟へと帰った。



 ◇


 洞窟に戻ると、お母さんの雰囲気がいつもと違った。

 ちなみにここでいうお母さんとは、俺を拾ったでっかい生物のことだ。


「そろそろハダルも4才だからな。これからはお勉強も少しずつ始めていこう」


 昔は一単語すら理解できなかったお母さん特有の言語も、今じゃすっかり母語だ。

 週に一度は「将来のことも考えて」と捨てられる前の言語で話す日が設けられているが、それ以外は基本、竜語で話すことになっている。


 お勉強が何なのかは分からないが、何か新しいことが始まるようだ。

 楽しいことだったらいいな。


「まずは、魔法の使い方からいくとするか」


「うん!」


 魔法……お母さんがときどき使ってる不思議な力のことか。

 その単語が出てきて、俺の中の期待が一気に高まった。

 前から気になって自分でも使ってみたいと思ってたし、これはワクワクするぞ。


「そうだな……まずは手始めに竜の息吹あたりからいってみるか」


 お母さんはそう言って、最初に習得させてくれる魔法を決定した。

 ……ん? 竜の息吹?


「竜の息吹? あれってお母さんが何かを焼き尽くす時に吐く炎でしょ? あれ僕にも使えるの?」


 そもそもあれって魔法なのか。

 ドラゴン固有の特殊な呼吸法か何かだと思っていたのだが。


「ああ。口から出しているように見えて、あれも立派な魔法だからな。十分な魔力量があって、魔法陣さえ覚えれば、人間でも撃てるはずだ」


 疑問を抱いていると、お母さんはそう説明して魔法陣を見せてくれた。

 なるほど、そういうタイプの魔法だったのか。


「魔法陣を脳内に浮かべつつ、『あっちに向かって撃つ!』と意識すれば、魔法は発動することができる。地面に向けて放つと大惨事になるから、宙に向けて撃つのだよ」


「はーい!」


 言われた通り、頭の中にさっき見せてもらった魔法陣を思い浮かべる。

 イメージしやすいよう右手を上に掲げつつ、掌から息吹が飛んでいくよう意識してみた。


 すると……上空に向かって馬鹿でかい火炎放射が吹き荒れた。

 お母さんがやるやつと似たような雰囲気だし、多分成功だろう。


「なんと……一発で成功か」


 ふと見ると、お母さんが啞然としていた。


「ダメもとでこの難易度から教えてみたつもりがこれか。竜なら習得に平均で2年かかるというのに……人間の魔法制御力は恐ろしいな」


 お母さんは開いた口が塞がらないまま、空に残る煙を見つめている。

 あれ。かなり動揺しているようだが……なにかマズい事やってしまっただろうか。


「え……今のなんかまずかった?」


「そ、そそそんなことはないぞ! ただちょっと、私が初めて成功させた時より遥かに高火力だったから驚いただけでな。今のを放てるのは凄いことだ」


「そうなの?」


 よかった。

 一瞬ヒヤッとしたが、何もマズくはなかったようだ。

「凄いことだ」というのは親バカかリップサービスの類だろうが、とりあえず及第点を下回ってるってことはないんだろう。


 どうやら魔法の勉強は楽しくやれそうだ。


「お母さん、次は何を教えてくれるの?」


「そ、そうだな……ちょっと待っててくれ。まさかこのレベルとは思わなかったから、カリキュラムを考え直さないと……」


 その後も俺は、「竜の息吹」の収束度を上げてビーム状にした「竜閃光」を始めとし、様々な魔法を楽しく教えてもらった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る