第3話 不穏なアイを
「何かおかしなこと言いましたかね? “アイ”を作ってるだけですよ」
頭に疑問符しか浮かばない。どうやって、何のために、いつから……? 浮かび続けるそれらは、俺をどんどん蝕んでゆく。その様子を見ている璃は不思議そうに、でもなんとなく察したのか、顔を歪めた。
「そうですね、分かりやすく説明しますよ」
心底面倒くさそうに彼女は言う。俺はなんとなく、いやなんとなくではない、ただただ不快感がした。それは人として、大丈夫な説明とは言えなかったからだ。
「私、実は施設上がりでして。両親から温かい感情をもらった事ないんですよ。むしろ冷たいものはもらっていましたよ。その証拠に左目、弱視なんです」
ははは、と笑う彼女はひどく弱く見えた。
「だから、私は、私たちは同じ境遇を持っていて、この会社を作り上げた。そしてこの研究を進めたんですよ」
「この研究……もしかして、愛でも作る研究か?」
たらりと嫌な汗が頬を伝う。
「あはは、ご名答ですよ。無償の愛ってやつを作りたくって。でも作るにはやっぱり愛情たっぷり受け取った事のある“人”がいるんですよね」
この発言をしたとき、璃は室内のテレビをつけた。正直、ついた瞬間血迷ったのか、と思った。丁度、報道番組をしていたようで、話題は行方不明者の話で持ちきりだった。
『社畜、失踪か』
そんな見出しがでがでかと表示されて、辞表を出した社畜が次々に消えているという報道が入った。直感。これはうちの会社に関連しているのではないか、と。冷房はそこまで強くないはずが、氷室にいるかのように寒気がする。
それを満足げに聞いた璃はテレビを消し、こちらを見てからから、と笑った。
「だから、ね? 真白さんも、手伝ってくださいよ。……ほら、奥さん、平岡
手作りのお弁当を毎日持たせてくれていたなんて、素敵な奥様ですよね。だなんて付け足しながら、彼女は笑い続けた。
なんて事だ。うちの会社はここまでやばかったなんて。通りで、特殊科についての情報がないに等しいんだと感じた。ないわけじゃない。消されていたんだ。
「……協力なんぞしねぇ。だからといって
精一杯の悪人面で、彼女を、その先に見据える会社を、睨む。
「そんな覚悟で会社辞めるわけじゃねーんだわ。見せてやるよ、社畜の底力」
とは言ったものの、何も考えていないので、心の中ではずっと焦っているのだが。
それでも、俺はめげないし、辞めてやるんだ。
その“アイ”は何を視る 椿原 @Tubaki_0470
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