第2話 無礼にも程がある

 あれから二週間経った今日、特殊科からやっと返事が来た。いや、遅すぎない? とか思われるのも無理はないが、よく思い出してほしい。ここ、ブラック企業だから。仕事に追われてないやつのが、珍しいから。

 独り言激しいよね、って周りの奴らは俺を指差してコソコソ話している。そんな暇あるなら仕事すれば、なんて他人事のように呟く。まぁ、これものちに話のネタになるのだろう。また、ほざいてやがる、と。

 ちなみにこの二週間。休んでいたわけではない。ましてや、転職活動に勤しんでいたわけでもない。単純に有給申請通らなかったのである。このブラック企業めが。


 とりあえずお話ししようと言われ、指定された会議室に来ている訳だが。十分前に中に入ったせいか、人の気配はない。

 まずそもそも、特殊科……ってなんだ? 何やってる所なんだ? あまりにも情報がなさすぎて困惑している。でも、ひとつだけ分かったことがある。手紙、ーー俺は特殊科あてにパソコンから送ったのだがーーまさかのアナログで返ってきた。こんな情報社会でまだこんな返事が来るとは思わなかった。

 はぁ、と溜息一つ吐く。先方はまだこない。と思っていた。


 「どーも! お遅れ……はしてませんね! でもお待たせいたしました!」


なんて声が荒々しく開かれた扉の音と同時に来たものだから、飛び跳ねてしまった。恥ずかしい。

 相手は息切れしているようで、呼吸を整えようと深呼吸を繰り返している。ある程度整った所で

「えっと、何でアタシは呼び出されたんですっけ……? あ、そっか! 辞表代わりでしたっけ!」

だなんて言うものだから、こいつ大丈夫なやつか? と心配になる。

 「自己紹介が遅れました! アタシは、っと、わたくしは特別技術i部から来ました、木田璃きだあきともーします!」

「あぁ、はぁ……どうも。俺は平岡です。平岡真白」

 小学生を想起させるような自己紹介を聞いた後、平凡に返す。その筈だが、目の前の璃は何故か笑いを堪えている。

「……なにか?」

怪訝な表情を浮かべつつ問うと彼女はこう返した。

「いやぁ、真白って名前なのに、このブラック企業入ったんですかって思うと、笑えてきて」

「失礼だな!?」

ケラケラ、とは言わずカラカラと笑う彼女に呆れる。というより、初対面とは思えない空気が流れる。なんだか、無性に安心する。

 

 話が長かった為、ここで割愛させてもらう。なんやかんや第一印象をいじくりまわされた後、辞めたいという決意表明をした。うん、第一印象いじられるってなんだよ。おもっきり仕事外のことじゃねーかよ。

 辞めたいのは納得されたけれど、どこか納得していない様子だったので今度はこちらから聞いてみることにした。ずっと、存在を知ってからずっと知りたかった事を。


「特殊科って、何やってんだ?」


 先程までニコニコしていた璃の表情が瞬時に固まる。と同時に彼女が叩いていたキーボードから、パキッ、と嫌な音がした。もしかして地雷でも踏んだのだろうか。


「まぁー、聞かれたら話すしかないですよねぇ」


うーん、と悩む彼女の目には光など映ってない。浮かんでいるのはひどく濁った黒だけだった。


「一言で言えば“アイ”を作っている所です」


「……は?」


 俺は彼女が次の言葉を紡ぐまで、理解をすることができなかった。



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