第5話 柳

目が覚めると医者と神楽君の声が聞こえた。

「この体調じゃコンサートは難しいですね」

「彼女は精一杯頑張ってるんです。

彼女は一度は音楽をやめたけど

ずっと昔から好きだったんです。

だから彼女に最後に

華を持たせてあげたいんです」

「本人の意思を聞きましょうかね。

ちょうど目が覚めたようなので」

私に意見が求められた。

私は……。

『お前も、余命があと

1ヶ月しかないんじゃなくて

1ヶ月もあるんだよ。

線香花火のようにどかーんと輝いてみろよ』

『俺はお前の歌を聞きたい。

お前が奏でる全てを聞きたい』

「やらせてください。

明日最高の演技にします」

「わかりました。頑張ってください」

「はい」

いよいよ当日を迎えた。

コンサート会場は多くの人で賑わっていた。

私はコンサート会場裏でその時を待っていた。

心臓の音が破裂しそうだった。

無理かもしれない。失敗したらどうしよう。

「緊張するなよ」

神楽君が肩を叩いてくれた。

「お前は誰よりも輝ける。

そして、みんなを笑顔にするんだ!」

「分かった」

私は会場へと向かった。

「みなさん。

今日は来てくれてありがとうございます」

この3ヶ月間ずっと練習してきた。

挫折もあったけど乗り越えてきた。

「弾く曲はカノンです」

お母さんがピアノが大好きだから

ついた名前だ。

息を吐いて手を鍵盤に置いた。

ギターがリードしてくれる中、音が響いた。

始まると景色が一気に変わった。

私の目の前には線香花火を

楽しむ神楽君がいた。

線香花火は静かに落ちていった。

『えー。線香花火って地味じゃない?』

そんな事を言った自分に言いたい。

線香花火は地味なんかじゃない。

僅かしかない命を諦める事なく、

最後まで燃え続ける。

私にとって線香花火は憧れになった。

今、輝いているかな?

最後まで燃え続けたい。

最後の音が響き渡り拍手が起こった。

中には涙を流す人までいた。

良かった。

「ありがとうございました」

と言った瞬間、私の意識はなくなってしまった。

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