第4話 松葉
練習を始めて1週間が経った。
病室に神楽君がギターを持ってやってきた。
「何でギター持ってるの?」
「俺もお前と一緒にコンサート出るから」
「えーー」
目が点になった。
神楽君がギターが上手いのは知っていた。
いや、神楽君のギターをきっかけに
ピアノを始めた。
あれは中学生2年生の時だった。
いつもより1時間早く起きてしまい、
暇だったので学校に行くことにした。
当然、2時間ぐらい学校にいないといけなくて
どうしようと悩んでいる時だった。
ジャーン
音が聞こえた。こんなに早く来てる人なんか
いるわけがない。
私はそう思い、音のする方へ向かった。
辿っていくと屋上についた。
屋上のドアを開けると神楽君がギターを
弾いていた。
『何してるの?』
『練習してる』
『ギター弾けるんだね』
『小学生の時からずっとやっている』
『何のために練習してるの?』
『文化祭で弾くんだ』
『えー凄い。頑張って』
私は他人事のように見ていた。
文化祭当日、神楽君の音は心に響いた。
いつかあんなふうになりたい。
そう思い、私はピアノを始めた。
それからの日々は神楽君と一緒に練習した。
鍵盤ハーモニカに慣れてきたところで、
いよいよピアノと対面した。
それは、病院の倉庫に眠っていた。
「初めまして。私は歌音です」
ピアノに挨拶して弾き始めた。
しかし、鍵盤ハーモニカとは
レベルが違った。
音の強弱や響きも違う。
さらには両手で弾かないといけない。
やっぱりブランクは大きかった。
思い通りに手が動かない。
何も進展がなく1週間が経ち、
残り7日となった。
どうしよう。もう無理かもしれない。
私はピアノの練習を辞めてしまった。
「ごめんね。私が上手に弾けなくて」
私はベットに寝転がった。
「何してんだよ!!お前!!」
神楽君がきてくれたが、
顔も合わせたくなかった。
「お前はいつもそうだよな。
あの時だって、
最後まで自信を持って演奏すれば
良かったのに。
いつもお前は嫌なことがあったら逃げ出す。
それで解決するのかよ。
現実逃避なんかしても後で後悔するのはお前だよ」
図星をつかれて、涙が溢れた。
その涙がベットに落ちて、消えた。
「私なんかがやったところで
何も出来ないんだよ。
神楽君は才能があるから出来るんだよ」
神楽君はため息をついた。
「俺だって才能は無かったよ。毎日、毎日、
朝早く来て練習したから今があるんだよ」
神楽君は毎日練習してたのか。
私は自分に悔しくなってきた。
「俺はお前の歌を聞きたい。
お前が奏でる全てを聞きたい。
だって俺は………」
突然、神楽君の声は消えた。
ふと、神楽君の顔を見たその時だった。
「お前のことが好きだから。
だから、もっと頑張ってくれよ。
線香花火のように輝いてくれよ」
『お前のことが好き』
その言葉が頭の中を10周ぐらいしている。
そして、顔が赤くなってしまった。
「じゃあ。頑張れよ」
神楽君は顔を隠しながら帰っていった。
神楽君の為にも頑張らないといけない。
『お前も、余命があと1ヶ月しかないんじゃなくて
1ヶ月もあるんだよ。
線香花火のようにどかーんと輝いてみろよ』
『俺はお前の歌を聞きたい。
お前が奏でる全てを聞きたい』
もう一度会いに行こう。
私はピアノの元に向かった。
「最高の演技をしてあげるから」
それから毎日8時間ぐらいやった。
手は豆まみれだった。
コンサート前日、
いつも通り練習しようとした時だった。
突然、頭が痛くなり、心臓が苦しくなった。
頭が真っ白になっていき、倒れてしまった。
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