第3話 牡丹
「大丈夫か?大丈夫か?」
声が遥か遠くで聞こえてきた。
私はどうなったんだっけ?
思い出そうとしたが何も出てこない。
そもそも私は生きているのか?
恐る恐る目を開けてみると目の前に
神楽君がいた。
「よかったー。目が覚めたか」
「私何があったの?」
「覚えてないのかよ。
1500M走で倒れたんだよ」
「そうか」
私は昔から貧血気味で体も弱かった。
体育をするたびに倒れては
病院に運ばれていた。
でも、神楽君はいつも
隣にいてくれるから頑張れる。
コトコト
足音が聞こえてきて、
ドアから看護師がやってきた。
「姫野歌音さんですよね?
話したいことがあるんですが、
2人にしてもらいませんか?」
神楽君は急いで外に出て行ったと
入れ替わりで医者が入ってきた。
「結論から言わせてもらうと、姫野さんは
病気を持っていて、それがどんどん悪化しています。
このままだと、余命は1ヶ月です」
私の頭は真っ黒になった。
1ヶ月?1ヶ月?
私はあと1ヶ月しか生きられないの?
あまりにも突然過ぎて理解できない。
声を震わせながら
「ほ、本当なんですか?」
「手術が成功すれば1年は生きられると
思いますが、
手術もレベル的には厳しいと思います」
仮に手術が成功しても、
1年しか生きられない?
私はもう死ぬのか。
怖さが押し寄せてきた。
死んだらどうなるんだろう?
死への恐怖を身近に感じた。
「わかりました」
涙がこぼれ落ちた。
1人なるとさらに悲しくつらくなる。
月がベットを照らしている夜。
私は1人で涙を流していた。
もう駄目だ。もう死にたい。
私に希望という2文字はどこにも無かった。
あるのは絶望だけだった。
「元気か?」
ドアの方を見ると神楽君が立っていた。
夜の面接は基本禁止だ。
神楽君はどこから入ってきたのか?
「そっちこそ大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だよ。
窓から侵入してきたから」
窓から侵入なんてどこも大丈夫じゃないよ!
そんなツッコミを入れようとしたが
そんな元気はなかった。
「なあ、花火しようぜ」
「花火?何で?」
「何となくだよ。ほらいくよ」
私は腕を掴まれて屋上に行かされた。
涼しい風と星が輝く中、
神楽君は手持ち花火に火をつけていた。
「いくよー」
火がついた瞬間、
花火は色鮮やかに輝き始めた。
「うわーすげーよ。お前もやってみろよ」
神楽君は何をやっても楽しそうだ。
私も火をつけてみた。
私の花火は青色に輝いた。
「うわー綺麗だね」
絶望から解放されたみたいだった。
それから30分が経っただろうか。
色々な花火を試してみた。
「なあ、線香花火しようぜ」
「えー。線香花火って地味じゃない?」
私は昔から線香花火が大嫌いだった。
「地味じゃないよ」
神楽君は線香花火に火をつけた。
赤く光出した線香花火は10秒もすると落ちた。
「やっぱり地味だよ。
わずか数秒燃えたらすぐに消えるんだよ。
まるで私みたいだ」
私の口から滑るように出てきた。
私は昔から病気を持っていて、夢も希望もない。
どうせ線香花火のように消えるんだろうな。
もっと打ち上げ花火ぐらい
楽しい人生を送れたらな。
私は生まれてきてよかったのか?
私はいったいどうすればよかったのか?
自分はいつも消極的だ。
「いや、地味じゃ無いよ。
線香花火ってすごいよな。
僅か数十秒なのに、最後の1秒まで光り輝き、
僕たちを笑顔にしてくれる。
それって凄いことだと思うんだよなー」
私は言葉も出なかった。
そんな風に考えたことが無かった。
「お前も、余命があと1ヶ月
しかないんじゃなくて
1ヶ月もあるんだよ。
線香花火のようにどかーんと輝いてみろよ」
私の目が潤い、気持ちが一気に変わった。
そうだ。まだ1ヶ月もあるんだ。
「って何で余命が少ないこと知ってるの?」
「こっそり聞いてたんだよ。
最初聞いた時はビックリしたよ。
どうにか元気付けようと思って……」
「ありがとう」
「お前、音楽好きだったよな?」
「うん」
私は音楽が昔から好きだった。
はじめは失敗ばっかりで泣き出していたけど
だんだん慣れてきて上手く弾けるようになった。
中学生になり、コンサートがあった。
みんなが見にきていて、緊張していた。
いざ、曲が始まると手が震え、失敗が相次いだ。
最後のサビが始まるというところでまさかの
ど忘れしてしまい、曲が止まってしまった。
その夜、私は両親から怒られ、
先生からも怒られ、
ピアノを辞めてしまった。
でも、今でも授業中に手が動くことがある。
「コンサートを開くとかどう?」
「コンサートか。頑張ってみるわ」
「頑張れ。応援してるよ」
コンサートが今日から3週間後、病院で開かれる。
ポスターが貼られ、私は病室で鍵盤ハーモニカで
練習することにした。
みんなに笑顔を届けられるように。
あの時のリベンジを果たすために。
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