第2話 蕾

キーンコーンカーンコーン

「これから体育の授業を始める。

気をつけ。礼」

「お願いします」

「今日は1500メートル走をします。

まずは体操をしてから詳しく言います」

1500M走。

その言葉を聞くだけで頭の中で

拒絶反応が起こっている。

走りたくない。いやだ。疲れたくない。

そんな思いは届くはずもなく、

体操が始まった。

隣の梨花をみると、絶望的な顔をしていた。

そうだ。みんな嫌いなんだよ。

体操が終わり、いよいよ地獄が始まった。

「ねえ、歌音、私と一緒に走ろうよ」

梨花が言ってきた。

持久走でのこの手の詐欺はよくある。

一緒に走ろうとか言っても

呆気なく差がつく。

人間、そんなものだ。

いざ走るとなると誰よりも勝ちたくなる。

「えー嫌だ」

梨花は陸上部に入っているため、足が速い。

私は帰宅部にずっといるため、足が遅い。

私が勝てるはずがない。

それどころか追いつく見込みもない。

逆に合わせてもらっても……。

梨花の顔が眩しかった。

「分かったよ」

梨花はスタートラインについた。

私も後を追うようにスタートラインに行った。

ドクドク

心臓の音がいつもより速くなっている。

「お願い。持ってくれ。私の体力」

ドン

突然肩を叩かれた。

「誰だよ!?」

後ろを振り返ると神楽(かぐら)君がいた。

「ビックリした?」

ビックリしたを通り越して、

心臓が止まりそうだった。

「うん」

「そう、緊張するなよ。大丈夫!

お前なら完走できるよ」

神楽君は私と幼なじみだ。

なんでも分かってくれる。

「よーーいドン」

一斉にスタートした。

神楽君は一気に飛ばして1位まで行った。

すごいな。

神楽君は頭も良くて運動神経もいい。

私とは次元が違う。

走り始めて5分が経ち、1000Mを過ぎたところ、

突然頭が真っ白になってきた。

「はあ、はあ、くる……しい」

次第に走るスピードも遅くなっていく。

気持ち悪くなってきた。

「もうだめだ」

私は地面に倒れてしまった。

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