拝啓 死のうとしている君へ

「お前、あの事誰にも言ってないだろうな」


「あぁ、あの下手くそな手紙のことかい?」


 翌日。場所は教室前の廊下。人目に付くところで『遺書』の単語は出せない。


「……お前な」


 睨み付ける彼女の目に、背筋が凍りそう。


「昨日、あのまま帰っちまうし。いつやるんだよ?」


 女の子と放課後に予定があるってのに、遺書の書き方講座なのが最高にいただけない。


「あ。今日放課後、予定あった」


 完全に忘れてた。


「おい、どうすんの……」


 余りの計画性の無さ。彼女をまたしても呆れさせてしまう。


「LINEやってる?」


「やってない」


「わぁ」


 食い気味な即答に変な声が漏れる。


「いや、さ。別に口説いてるとかじゃなくて連絡先ないと本の内容、送れないんだけど」


 『LINEやってないから』とナンパを回避するすべがあると何かで見た。


「Twitterならやってる。つか教えるって、結局本だよりなのかよ」


「嘘を教えるよりは良いかなって、つかTwitterやってんのか」


 SNSの暗部だぞあれ。


「まぁいいや。確かアカウント持ってたからDMに書いて送って。添削する」


「うえぇ、オンライン講座みたい」


 世にも奇妙な、の手紙の書き方を教える講座。冗談にもならないと思うのは僕だけだろうか。



放課後。

 

 スマホを覗いていると、彼女からのメッセージ。


『以下、書いたやつ』


 素っ気ない文面に画像がついてくる。

 綺麗な字。文面も前ほど悪くない。


「だがなぁ」


 誤字が少し。主文の書き出しのミス。末文と後付けが前後してしまっている。画像に編集を施す。赤線を引き、の書き方を教える。


「よし」


 本を見ながら、出来る限り正確に。

 彼女の死の要因。その一端。


「律儀に書いちゃうんだもんな」


 手紙の添削中、否応が無く見てしまった。


「……に答えられなくてごめんなさい、か」


 またメッセージが入る。


『マナー講師っぽい』


 付け加えられた絵文字は、不満げな表情。


「なんや、その顔は」


 思わず、言葉が出ていた。




 





 

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