拝啓 死のうとしている君へ
「お前、あの事誰にも言ってないだろうな」
「あぁ、あの下手くそな手紙のことかい?」
翌日。場所は教室前の廊下。人目に付くところで『遺書』の単語は出せない。
「……お前な」
睨み付ける彼女の目に、背筋が凍りそう。
「昨日、あのまま帰っちまうし。いつやるんだよ?」
女の子と放課後に予定があるってのに、遺書の書き方講座なのが最高にいただけない。
「あ。今日放課後、予定あった」
完全に忘れてた。
「おい、どうすんの……」
余りの計画性の無さ。彼女をまたしても呆れさせてしまう。
「LINEやってる?」
「やってない」
「わぁ」
食い気味な即答に変な声が漏れる。
「いや、さ。別に口説いてるとかじゃなくて連絡先ないと本の内容、送れないんだけど」
『LINEやってないから』とナンパを回避する
「Twitterならやってる。つか教えるって、結局本だよりなのかよ」
「嘘を教えるよりは良いかなって、つかTwitterやってんのか」
SNSの暗部だぞあれ。
「まぁいいや。確かアカウント持ってたからDMに書いて送って。添削する」
「うえぇ、オンライン講座みたい」
世にも奇妙な、死ぬための手紙の書き方を教える講座。冗談にもならないと思うのは僕だけだろうか。
*
放課後。
スマホを覗いていると、彼女からのメッセージ。
『以下、書いたやつ』
素っ気ない文面に画像がついてくる。
綺麗な字。文面も前ほど悪くない。
「だがなぁ」
誤字が少し。主文の書き出しのミス。末文と後付けが前後してしまっている。画像に編集を施す。赤線を引き、手紙の書き方を教える。
「よし」
本を見ながら、出来る限り正確に。
彼女の死の要因。その一端。
「律儀に書いちゃうんだもんな」
手紙の添削中、否応が無く見てしまった。
「……期待に答えられなくてごめんなさい、か」
またメッセージが入る。
『マナー講師っぽい』
付け加えられた絵文字は、不満げな表情。
「なんや、その顔は」
思わず、言葉が出ていた。
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