第3話 ベッドの上
寝ることが何よりも好きだったが、普段は仕事があるので好きなだけ寝るというわけにもいかない。心ゆくまで眠れるのは休みの何よりの楽しみだった。目覚ましを気にせず寝坊をし、昼間でも眠たくなれば眠る。夜も大体、普通の時間にはベッドに入る。
何より幸せなのは、朝食とも昼食ともおやつともつかない食事を取った後、午後から夕方になるまでの昼寝だ。それも春先や秋頃といった、気温も心地よい季節はたまらない。少々不用心ではあるが窓を開け放して、ベッドやお気に入りのクッションに転がって気絶するように寝ることを、何度となく繰り返した。
それが起きたのも、そんな心地よい昼寝の時だった。そよそよとした風に吹かれて、眠りに引きずり込まれてからどれだけたったのか、「よく寝たな」という意識はありながら、目を開けることはせずに余韻に浸っていると、上の方から声がした。
「そろそろ行かないと」
「準備は出来ているし、大丈夫」
老人と、女性の声だった。自分はベッドの脇、本棚との隙間にクッションを使って転がっていたが、彼らの声は上から聞こえたので、どうやらベッドの上に並んでいるらしいと検討をつける。
「声はかけるか?」
「寝ているからいいでしょう」
「それもそうか」
「起きているのに」と思いつつ、なぜかこちらから声をかける気にはならなかった。彼らがのぞき込む気配がして、その時、「あれ」と目を開いた。誰もいなかった。しばらく、「彼らはどこに行ったのだろう」と考えていたが、そもそもこの部屋には自分以外誰もいなかったはずだし、いたとしても出て行く音は聞こえていない。ベッドの上の布団も、整えたまま崩れていなかった。
寝ることが至上の楽しみというの人間の言うことだ。何度かこの話をしたことはあるが、どうせ寝ぼけたのだろうと誰も信じてはくれなかった。自分でもそうかもしれないと思う。だが、のぞき込まれたときに頬に触れた長い髪の感触。あれは絶対、気のせいではない。
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