第14話 魔獣狩り 2

「もう魔獣が出没するエリアに近くなってきた」


指導役の例のミニスカート女騎士が告げに来た。


各チームはそれぞれ指導役の指示に従って、三々五々別れて森の奥に入っていくらしい。


「いいか? 何か一匹でも魔獣を仕留めたらそれでよし。終了だ。たとえ血吸い蝙蝠一匹でもだ」


血吸い蝙蝠!


あんまり知り合いになりたい相手ではない。


それくらいなら、いっそ何かの種類のドラゴンの方がマシだ。同じ空を飛ぶヤツらである。


仲間のフィデルがそう言ったら、例の女騎士に頭を殴られていた。かわいそうに。


「馬鹿者。そんなものでたら、全員死ぬわ」


「出るんですか?」


念のためアレンは聞いてみた。


ちょっと女騎士の声が優しくなった。


「大丈夫だ。出ないよ。ドラゴンが出るようなところに演習に来るわけないでしょ?坊や」


イラッとした。


「あ、お嬢ちゃんかな?」


「違います」


うっかり否定してしまった。


ダルクバートンとガストンが、かわいそうに、みたいな目つきでこっちをみてくる。


「そうか。ごめん。男子の制服だったね。あんまりかわいいもんで……」


いっそ、ドラゴン出てくんねえかなー……と、アレンは思った。どうも最近、口の利き方がおかしくなってきた完全に男子校のほかの生徒に毒されている。


ガストンが口元を押さえていた。笑っている。


声に出ていたらしい。


アレンはプイッと顔を逸らした。



アレンを中心に、チーム全体に生暖かい雰囲気が形成されている。


チームワークがよろしい!ことになるのかも知れなかったが、アレンとしては甚だ不愉快だった。



だが、そんな雰囲気も一瞬だった。


もう、道は途絶えて、下馬するほかなくなった。


「この中で感知能力に優れた者は?」


ちょっと顔を見合わせたが、五人のうちフィデルが手を上げた。


「魔獣の気配を感じ取ったら、すぐに言え」


「あの、魔獣の気配って……」


「とりあえず、知らないものの気配を感じたら教えてくれ。方向と感じをヒントとして言ってもらえれば、私でも感知できる。多分、全員感じ取れると思う」


アレンも含めて全員がうなずいた。


「魔獣の気配なんか、これまで一度も遭遇したことがないから知らないと思う。この機会に勉強できる」


アレンは自分の耳がピクリと動いたような気がした。


実際には耳は動かないのだが、小さいごく小さい生き物の気配がする。


「エマリンさん」


アレンは声を掛けた。女騎士の名前はエマリンと言った。


「右手の方に、多分、ここからウマ三頭分くらい離れたところに何かの気配がありますが、あれはなんでしょう?」


「ん?」


そいつはゴソゴソ動いていた。逃げようとしている。


アレンは気がついた。あれはウサギだ。普通の、魔獣ではない野ウサギだ。


「ウサギだ」


「ウサギですね」


二人は同時に声を出した。


女騎士はニコリと笑いかけた。


「フィデル? お前はどうだ?」


かわいそうなフィデルは顔を赤らめた。気がつかなかったのだろう。


「みんな、わかるな? あの気配はウサギだ」


それから出来るだけアレンは黙っていることにした。


気配というものは、伝わるのだとわかってきた。


知っている動物でも、森の中で感じる気配は少し違う。ウサギ、リス、ネズミ、小さな虫、蝶、動くもの、動かないもの。


その時、キーンという妙な警戒音にも似た音が途切れ途切れに聞こえてきた。


いや、音は実際にはしなかった。


だけど、何かが遠くにいるのだ。


アレンはフィデルの顔を見た。


何も感じた風はない。


「フィデル」


フィデルがアレンを見た。


「前の方。何かがいる」


フィデルはアレンの指先が指し示す先を睨んだ。


「小さい動物だ。こっちに気がついた」


「……どれくらい先なんだ?」


「わからない。ええと……多分、ウマ十頭分は先だ。だけど、気付かれた。こっちに向かってくる。あ、あれダメだ。多分、魔獣だ」


「え?」


「エマリン! 何か来る!」


そう言いながら、アレンは剣を抜いた。









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