第11話 死を手繰る


 ボクは目を覚ます。

 凝り固まったら体を解すため、大きく伸びをしようとしたが、腕が上がらない。ボクの手足が、縄で椅子に縛り付けられているようだ。


 光が届かぬ部屋に、拘束されて捨てられたのか…暇だな。


 何も出来ずに呆けていると、部屋のドアが開く。

 そこから、真っ黒な軍服で身を包み、顔の右半分を仮面で隠した黒髪の少女が入って来た。


「ん!やっと起きたね。僕は君を誘拐したただの一般吸血鬼だよ!

 名前は―事情があって名乗れないから、適当にAちゃんって呼んで。」


 彼女―Aが自己紹介をする。

 台詞の端々にツッコミどころがあるが、それについては言及しないでいよう。一々反応していたら面倒くさい。


「誘拐の目的。」


 ボクは彼女に問い掛ける。

―わざわざボクのことを拐う目的が見当たらない。別に戦闘力が高い訳でもないし、身代金も期待出来ない。何故だ?


「君には素質があるから、一度殺して、僕の部下にしようかな、と。」


死術師ネクロマンサー、死者を束ねるもの。自ら手を下した者を蘇生させ、操ることの出来る禁術の使い手。

 戦力の増強のため、ボク―あの戦場で最も弱くて、支配しやすい奴―を誘拐をしたのか。


「死にたくは、ないかな。」


 思わず、言葉が漏れる。


ーだが、果たしてこれは本心なのだろうか。

 ボクには過去の記憶がない。そして守るべきものもない。拘りもない。思い残しもない。

―死んでも、同じなんじゃないか?


「大丈夫、可愛い顔はそのままに残しておくよ。

―僕は準備をしておくから、ここで待っていてね。」


 彼女はそう言い残して、この場を去った。

―ここでじっとしていても良いことは無いだろう。ボクはここから逃げ出すために、縄を解き始めた。






―苦節すること数十分。やっと縄が解けた。早く逃げないと―


 だが、焦って行動した結果、あいつに見つかってしまったら本末転倒だ。周囲を警戒しつつ、慎重に脱出口を探そう。


 部屋から出てみたが、廊下にも光は届かず、暗い。しかも湿気が高く、気分が悪くなる。

―まぁ、暗い上に人通りが少ないから、隠密には適しているのだが。



―監視網を掻い潜りながら廊下を進んでいると、景色が変わってきた。

 そこには、暴れる魔獣を閉じ込めた牢屋が沢山あった。一部の魔獣には改造が施されていたり、体の一部が不自然に無くなっていたりと、実験に使われた形跡が残っている。

 これは、Aの趣味だろうか。随分と悪趣味なモノだな。



―他の部屋とは違う、金属製の扉が見えた。

 罠の可能性もあるが、入るべきだろう。


 扉を開け、部屋を見渡す。

―書類や本が詰まった棚。ペンなどが置かれたデスク―ここは事務室か?


 ボクは、机に置かれた手帳なようなものに目を通す。書いてあることは―日記か?


―やっと完成した。僕達の研究が実を結んだ―

―あの研究は、今までの常識を覆す。これがあればエネルギー問題は解決するであろう―

―あれは、一つの国を除き、全世界で使われ始めた。特に先進国や資源の少ない国にとっては、革命的なエネルギーだろう―

―だが、懸念点がある。あれは、エネルギー保存の法則が成り立たっていない―否、成り立っているはずなのだ。だが、何処から取り出しているのかわからないのだ―


「見ーつけた。」


 本を読んでいて周囲の警戒を怠ったボクは、口を布で覆われ、意識を落としてしまった。



 

―再び、ボクは目を覚ます。

 辺りを見渡すと、解剖に使うだろう道具や手術用の照明などが視界に移った。

―立ち上がろうとしたが、手足を動かせない。

 視線を手首の方に向けると、ボクの腕が枷のようなもので拘束されていた。


「ん、やっと麻酔が切れたかな?」


 ボクが起きたことに気づいて、黒服の女が反応する。

 

「ボクが眠っている間に一体何をした。」


 ボクはAを睨み付け、問い掛ける。


「肉体の改良を少し加えたかな。

―ちゃんと、君の要望通り、殺さずにね。

 例えば、今のままだと、君の体には魔力が流れないから、魔力が通るようにしたよ。これで君も魔法が使えるようになったよ。」


―もう既に、ボクの体を弄ったのか―それを阻止するために逃げ出したのだが、手遅れだったか。

 殺されていたら、彼女の下僕に成らざるを得なかったから、まだ不幸中の幸いなのだが―


「―目的は何だ。」


 ネクロマンスしてボクを支配下に置かない。

 だとしたら、何のために改造を施す?


「単刀直入に言う。僕は君の力が欲しい。だから、人族を裏切って僕達、不死族アンデッドの仲間にならないか?」

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荒レル世界ノ戦奇録 ゆずれもん @Natu-Mikan126

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