第九章 小牧円の場合10
当日。
雨。ざんざかぶり。
にも関わらずお客さんの数は多かった。八時三〇分に体育館で開会式をやった後に一般解放。時間としては九時三十分からなのに、校門前には九時の時点でお客さんが既に待機していた。それも一人二人じゃなくて、数十人。あ、また増えた。
「……なんかあったの?」
「さあ。芸能人でも呼んだの? 高校の文化祭に?」
自分で言ってて藍も不思議そうだった。
わたしたちのクラスの出し物はお化け屋敷で、今はクラス中に暗幕が張られている。暗い。窓も開けてるとはいえ、禄に風が入ってこない。秋で雨も降ってるとはいえ、今年の残暑の影響もあってか、かなり暑かった。
ここは暗幕の裏のぽっかりと空いた場所。お化け役の人たちの控室みたいなもの。ちなみにわたしの役どころは、紐で吊るしたこんにゃくをお客さんにぶつけるという、よくわからない役割。怒られそうでやりたくない。それも午後からだ。
わたしたち、THE GIRLSの出番もそろそろ。今は教室に楽器を取りに来たところだった。他のメンバーはもう体育館、わたしはなんとなく藍に付いてきただけ。
集まってる人たちは若い人が多かった。傘のせいで全部は確認できないけど、十代から二十代くらいの男女、カップルと思しき人たちもいれば、普通の友達同士や、明らかに一人で来ている人もいる。どう見ても生徒の親には見えないし、生徒のお兄さんお姉さんにしたって、年齢の幅が広いような。
「なんかねー。最近人気の女の子がライブするんだって。ほら。知ってる? ステディ」
藍のグループとは別に属している女子がスマホの画面を見せてきた。確か名前は小井中陽菜(こいなかひな)さん。表示されているのは、シンプルなデザインのサイト――そのアーティストのサイトのようだ。
〈NEWS〉
〈九月十五日十一時! 鳥岡高校でライブやるから見に来てね!〉
新曲情報、サイト更新のお知らせなどに紛れ、一番上にその簡素なコメントがあった。
「うちの学校だ」
「誰これ」
「んー? 私もよくわかんなーい。ネットで活動してる人? なんかー、最近人気なんだって。人気って言っても、めちゃくちゃ再生されてるってわけでもないんだけどね? ライブも顔出しも一切してなかったらしいよ? ならわかんないよねー」
そう言って彼女はくすくすと口を抑えて笑った。喋り方はくだけているのに仕草はお上品な子だ。育ちがいいんだろうな。
よく見てみるとそのコメントの更新日は九月十四日――つまり昨日――いきなり書き込まれたみたいだった。前日に情報をアップしてこれだけのお客さんが集まっているということ。じゃあ、けっこうな人気なんだろう。
それにしても――ステディ? ステディ……どっかで聞いたような。あ。うっちゃんが聴いてたんだっけ? 最近人気って確かに言ってた気がする。
「ってことは、樹里亜の言ってた学年混交バンドってこれのこと?」
藍が独り言みたいに言った。
「それは……どうなのかな……わかんない。でもそれだけ人気あるんだったら、別でステージやるんじゃないの? ……そんなプログラム無かったけどさ」
「何にしてもむかつくー。あたしら前座みたいじゃん。よし、円。ぶっ潰せ。跡形も無く潰せ。不思議な踊りで骨抜きにしとけ」
「誰だかわかんないのに潰すも何もないよ……骨抜きってなに」
過激だなあ。それだけ藍も苛立ってるんだろうけど。気持ちは分かる。
ここまで頑張ってきたのに余計な茶々入れられた感じ?
「まあま。応援してるよー頑張ってねー」
わたしと藍のやり場のない気持ちも、陽菜さんの投げ掛けてくれたやわらかい微笑みで少しは癒やされる。
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