第四章 小牧樹莉亜の場合1
友達が昨日、藤堂不妃の家からお姉ちゃんが出て来るところを目撃したというからいても立ってもいられなくなった。
私の姉は頼りにならない。
常に言いたいことを胸に秘め、家の中でもどこか私に遠慮していている。昔はもっと笑っていたし、一緒に遊んでくれたのに、近頃は部屋に籠もりっきりで、私の相手もしてくれない。
ゲームやりたい、どっか遊びに行こうよ、って言っても、生返事で口をもごもごさせてるだけ。
寧々も昔は仲が良かった筈なのに、最近は一緒にいるところを見ていない。
寧々に訊いたら
「私じゃないよ。むしろ向こうが、」
と言っていた。
最後まで言え。
寧々のそういうところは昔から嫌いだ。言い方が責任逃れ染みているならまだ良い方で、むしろ言うことを途中で止める癖がある。
そうじゃなかった。
お姉ちゃんのこと。
昨日家に遊びに来た友達の百合ちゃんの家は学校の近くにあって、つまりは藤堂不妃の家のすぐ真向かいにあるらしい。その藤堂不妃の家から昨日、見たことある人物が出てきて、それがうちの姉だったというのである。
危険信号。
藤堂不妃はうちの学校だと有名。私の友達にも何人か手を出された人がいるくらいで、人の趣向にとやかく言いたくは無いんだけど、そういうエッチなことって、もっと年齢が上がってからするべきだし、具体的に言うなら私は二十歳になるまでそういうことはしたくないし、されたくもない。
ましてや私の友達は元々男の子を好きだったのに、藤堂不妃のせいでそういう趣味に走ってしまったのは可哀想でもある。今後の人格形成、人生に悪影響を与え兼ねない。藤堂不妃が一途だったのなら、まだ許せるが、話を聞く限り、どうも彼女はそうじゃない。藤堂不妃について知っている情報は以上である。
そして――。
お姉ちゃんが藤堂不妃の家から出てきたという。
帰りが遅かった。死ね。じゃなかった。
お姉ちゃんにそんな奴が手を出すなど許される行為じゃない。
そして、お姉ちゃんの自転車を街の自転車屋さんに持って行き、修理を頼んだ帰り道、私はお姉ちゃんと藤堂不妃が一緒に歩いているのを発見した。白峰藍まで一緒にいたから本当に驚いた。
白峰藍。
彼女もまた有名だった。今はマシだけど、中学の頃なんてもっと酷かったらしい。気に入らないことがあればすぐに手をあげる足をあげる。私の友達の友達がそういえば以前、白峰藍から手を出されていた。勿論、物理的な意味で。
虐めの現場を目撃した白峰藍が文字通り飛び出して行ったらしい。いきなりドロップキックをあの短いスカートでしてきたのだとか。驚きだったのは、虐めの加害者である女子二人をノシて怪我させる程攻撃を繰り返した後、虐めの被害者も引っ叩いたという、その意味不明さ。
本人曰く『味方してやったのに動きもしやがんないからムカついた』
事件後一週間自宅謹慎。他にも、気に入らない女子を追い掛け回していたとかいう真偽不明の噂まで。なんでアレが退学になってないんだろう。
絶対に駄目。付き合う友達は選ばないと。アレは絶対頭のおかしいタイプ。
そうして、気づいたら飛び出していた。
理由を訊いて私の早とちりだと一瞬思ったけど、やっぱりもやもやした。
確かめなければならない。
そう思った。
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