第7話 レオンハルト様の卒業

 とうとうこの日が来た。今日はレオンハルト様の卒業式だ。

 私はなんとかレオンハルト様が卒業式の日までここに居る事が出来た。今日は朝からカミラ侍女長と卒業式の準備をしている。


「今日でこの制服姿を見るのも最後なのですね~」


「ああ、そうだな」


 いつも以上に素敵にセットされたレオンハルト様は、とても素敵です!


「ふふっ、いつも以上に素敵です!」


「ああ、ありがとう。では、行ってくる」


「「行ってらっしゃいませ」」


 女性ではないから、着飾る所が少ないのがちょっと残念な感じだよね。だって、この世界の貴族の女性はドレスなんだよ?

 男性なんて自分でも終わらせられるくらいしか準備がないんだもの、残念過ぎるよね。


 14歳になったレオンハルト様は、以前より少しお話をしてくださるようになった気がする。今日の卒業式と卒業パーティーを終えると、1週間後にレオンハルト様の15歳の誕生パーティーが待っている。


「そういえば、レオンハルト様の婚約はどうなっているのですかね?」


「そうね。レオンハルト様の婚約発表は誕生パーティーの辺りだと思うわよ」


「わわっ、そうなのですね~。どこのご令嬢と婚約なさるのか楽しみですね~」


「そ、そうね?」


 カミラ侍女長に微妙な顔をされたのだけど、何でだろう?

 良くわからないけれど、レオンハルト様がお帰りになるまで誕生パーティーの準備をしましょうか。

 カミラ侍女長と一緒にパーティーの準備を進める。王子様の誕生パーティーなので、準備をする事も沢山あるんだよね。


 でも、辞める前にこんなに素敵なパーティーを見られるし、レオンハルト様の成人のお祝いをして差し上げる事が出来るのはとても幸せだ。

 その前に必要なくなるかと思ったけれど、意外と一緒に居る事が出来たので良かった。


 最近はレオンハルト様のお耳としっぽをついつい視界の端で追ってしまっていたんだよね。この15年見続けて来たものの、飽きる事なく見つめてしまうのよね。私のもふもふ好きも、ここまでくるとやばすぎる気がする。


 夕方になってレオンハルト様が帰ってきた。少し疲れた顔をしていたけれど、嬉しそうな顔がとても印象的だった。



 1週間経って今日はレオンハルト様の誕生パーティーの日だ。朝から準備をしていたら、レオンハルト様に呼び止められた。


「リーゼ、少し付き合って貰えるか?」


「はい。カミラ侍女長、少しお願いしても宜しいですか?」


「ええ、ゆっくり行ってらっしゃい」


 ニコリととても良い笑顔で送り出された。レオンハルト様に付いて行くと、王族しか入れない庭園に着いた。ここにはレオンハルト様が小さい頃によく来ていたから、とて懐かしい。最後にもう一度見られてとても嬉しい。

 庭園の中に進んだレオンハルト様がこちらに振り返る。振り返ったレオンハルト様は、とても真剣な顔をしている。一体どうしたのだろうか?


 突然、レオンハルト様は私の前に跪いた。


「えっ? レオンハルト様?」


「リーゼ。俺と結婚して欲しい」


「えぇっ!? で、でも今日婚約発表されるのでは?」


「ああ。俺はリーゼ以外と結婚する気がないから、リーゼとの婚約だな」


「えぇぇっ!? 聞いてませんよ!?」


「ああ、本当は卒業式の日に言うつもりだったんだけど、なかなか言い出せなくて今日になってしまったんだよな」


 まさかレオンハルト様が私に求婚するとは思わなかったけれど、どうしたら良いのだろうか。そもそも私はお世話係りだし、エルフだし身分も種族も違う。


「で、でも、レオンハルト様と私では身分が違いすぎます。私はただのお世話係りですよ? それにエルフです」


「そんな事は誰も気にしてないから大丈夫だ」


「えっ?」


「俺は小さい頃からリーゼしか好きじゃなかったし、両親にもすでに許可を貰っている。俺はリーゼ以外とは結婚しないとな」


 まさか、小さい頃からのリーゼを嫁にしてやる! が本気だったとは思わなかった。それに国王様も王妃様も許可しているとかびっくり過ぎる。


「いえいえ、でもダメですよ」


「リーゼは昔、俺に言った言葉を忘れたのか? 俺が大きくなった時も同じ気持ちだったらと答えてくれたのは、嘘だったのか?」


「い、いえ、忘れてませんっ。大きくなったらとか小さい子は良く言うじゃないですか!」


「……じゃあ、リーゼは俺に噓をついたのか? 俺は、凄く嬉しかったのに……」


 そう言うと、レオンハルト様は下を向いて震えている。まさか泣かせた!?


「私がレオンハルト様に嘘なんて言うわけありませんっ!」


 ついそう叫んでしまったら、顔を上げたレオンハルト様はにやりと笑った。


「よしっ! じゃあ、俺と結婚するよな!」


「えっ!? 泣いてたのでは?」


「俺が泣くわけないだろ。リーゼは俺のだ、誰にもやらない」


 そういって近づいてくるレオンハルト様に、じりじりと後ろに下がる私。下がっていると、背中が木にぶつかって下がれなくなった。そして、私の顔の横にはレオンハルト様の手があって、いつの間にか壁ドン状態に!?

 頭はパニックでもう何も考えられないし、どうしたら良いの!?


「リーゼ、一生俺の側に居てくれ。俺が好きなのはリーゼだけだ」


「レオンハルト様……」


 結局頷くしかなく、私はレオンハルト様の婚約者になった。それから、レオンハルト様のパーティーの準備に戻ろうと思ったら、カミラ侍女長に捕まった。


「カミラ侍女長?」


「ふふっ、やっとくっついたのね。リーゼはこっちよ!」


「えぇぇぇぇっ!?」


 カミラ侍女長に連れて行かれ、お風呂に入れられ、他のメイドさん達に散々磨かれてドレスを着せられた。


「カミラ侍女長~、私は一体どうしたら?」


「あら、今日の主役の1人なのだから、堂々としてなさい」


「えっ!? 主役はレオンハルト様ですよね?」


「ふふっ、今日は婚約の発表もあるって言ったでしょう? 婚約者であるリーゼも主役なのよ、頑張りなさいっ」


「い、いきなりは無理ですーっ!!」


 まさかこんな展開になるなんて思わなかった。綺麗なドレスを着せたいとは思った事はあるけれど、着たいなんて思った事なかったのにっ!

 一応、マナーもダンスも出来ない訳ではない。お世話係りだから、やる事はきちんと出来るのですよ? それでも、いきなりパーティーに出ろはハードルが高すぎるっ。



「あら、そういえば、リーゼ様と呼ばなきゃかしらね」


「止めてください~」


「ふふっ」


 カミラ侍女長に絶対に遊ばれてる! そんな事をしていたら、ドアがノックされた。入ってきたのはクリスティーナ王妃様だった。


「あら、リーゼちゃんったら可愛いわっ!」


「クリスティーナ王妃様! あの、えっと?」


「ふふっ、大丈夫よ。レオから聞いてるわ。レオったら、今日まで言えなかったんですってね。これから大変だけど、レオをよろしくね」


「こ、こちらこそよろしくお願い致します」


「ふふっ、今まで通りで良いわよ。昔からレオはリーゼちゃんの事大好きだったものね。リーゼちゃんが結婚相手で私達も嬉しいのよ」


「あ、ありがとうございます」


 王妃様にも喜ばれていると分かって、とても嬉しい。少しすると、またドアがノックされた。

 今度はレオンハルト様が来た。中に入ってきたレオンハルト様は、私を見て固まった。


「レオンハルト様?」


「あ、ああ、すまない。リーゼがあまりにも綺麗で……」


「えと……レオンハルト様も、その、素敵です」


 思わず2人で照れてしまった。レオンハルト様に見つめられて、とても恥ずかしい。というか私の方が遥かに年上なのに、おかしいな。


「そういえば、私レオンハルト様よりかなり年上なのですが、良いのですか?」


「リーゼの年齢なんて気にした事はないぞ。それにリーゼはエルフ族だからちょうど良いだろう?」


「ふふっ、そうよ~。リーゼちゃんは昔っから全然変わらないわ! それに、レオったら赤ちゃんの時からリーゼ一筋だものね~」


「母上っ、ばらさないでくださいっ!」


「うふふ。初恋が実って良かったわねぇ~。リーゼちゃんを幸せにしてあげるのよ?」


「それはもちろんです!」


「あ、ありがとうございます。私もレオンハルト様を幸せに出来るように頑張ります」


「さあ、そろそろ行くわよ」


「リーゼ、行くぞ」


「ありがとうございます。レオンハルト様、よろしくお願い致します」


 差し出されたレオンハルト様の手に、私の手を乗せて誕生パーティーへ向かう。

 誕生パーティーで無事に婚約発表もされて、私はレオンハルト様の婚約者になった。その日から、私の生活は物凄く変わった。

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