第5話 レオンハルト様と視察へ

 12歳になられたレオンハルト様は、とうとう私の身長を追い越した。私はエルフ族なので、成長が緩やかなのですよね。

 レオンハルト様が12歳だから、私は27歳なはずなのに身長が150cmくらいだ。まだ伸びると信じたい。


 最近のレオンハルト様は、反抗期なのかとても無口なのです。でも、護衛のクラウスさん達とはたまにお話しているから、私がお話して頂けていないだけということなのだろう。


 そう考えたら落ち込んできた。そうか、私がお話して貰えていないだけだったのか。


(えっ、もしかして内心でもふもふしたいとかバレた!? だからなの!?)


 表情に出していないはずだったのだけど、おかしいな。そろそろお世話係りが必要なくなるのかな、なんて考えてさらに落ち込んでしまう。

 お世話係りだからレオンハルト様にお会い出来ているけれど、本来は私がお会いできる方ではないのだよね。


 最近は昼の間学園に通っているから、さらに私のお仕事が少なくなっているのだ。ここハニーナッツ王国では、12歳から15歳まで学校に通う事になっている。

 第一王子であるラインハルト様は今年卒業されて、今はブルクハルト国王様と一緒に公務をなさっている。ラインハルト様もすっかり大人になられて、とても素敵な男性になった。


 レオンハルト様は卒業後、宰相についてお仕事をする予定なのだそう。今の学校にいる間に婚約者も決まるだろうと聞いている。


 ラインハルト様の婚約者様はこの国の公爵令嬢だ。とても可愛らしい方でラインハルト様と並ぶととてもお似合いで、うっとりしてしまうほどだ。

 しかも、夜会などのお手伝いをしていた時に見かけたら、並んでいるお姿がとても素敵だった。夜会だけでも興奮したのに、あんな素敵なカップルを見られて目の保養なんて物じゃなかった。

 さすがに気絶はしないけれど、にやにやしてしまいそうで表情を保つのがとても大変だった。



 そろそろレオンハルト様が学校から戻られる時間だ。今日は騎士団で訓練を一緒に行う予定だ。私も一緒について行って、タオルと飲み物を準備して待っている予定。


 前世の記憶を思い出してから、見る物全て珍しくてとても楽しい。そして騎士団だなんて見たことなかったし、剣と魔法で戦うのを見るのはとても楽しかった。

 実際の戦闘になったらと思うと怖いけれど、訓練なら見ていられるからね。


 準備をしていたら、デニスさんに声を掛けられた。


「なあ、リーゼ。お前、結婚はしないのか?」


「結婚、ですか。興味ないですね~」


「えっ、彼氏はいないのかっ!?」


「ここにずっといるの知ってますよね? いませんよ」


「そ、そうか。好きなやつとかいないのか?」


「いませんね~。お世話係りを辞めた後にでも考えますよ~」


「そう、なのか」


 珍しく恋の話を聞きたいだなんて、デニスさんはどうしたんだろうか。もしかして、誰か好きな子が出来たとか!?


「もしかして、デニスさん。彼女が出来たんですか?」


「はあっ!? 違うぞっ!」


「それじゃ、好きな子でも出来たんですか? どんな子ですか?」


 ワクワクした顔で聞いてみたら、全然違うと即答された。せっかく話のネタになると思ったのに残念だ。

 別に恋愛に興味がないわけではない。だけど、今は可愛いレオンハルト様が成人するまでのお世話係りを続ける事の方が大事なのだ。

 あの可愛かった赤ちゃんのレオンハルト様にお会いした時に、そう心に決めたのだ。お世話係りを辞めるまではレオンハルト様に集中すると。


 だって、あのくま耳にくましっぽ。可愛すぎてもう十分です。他の人を見る余裕なんて生まれないくらいきゅんきゅんしちゃうんです。あのぴこぴこ動くお耳が見られなくなるなんて、耐えられませんっ!


「レオンハルト様、おかえりなさいませ」


「ん」


 無口にそれだけ言うけれど、お耳はぴこっぴこって動いているんだよね。そのギャップが可愛くてもう、それだけで幸せです。


「この後は騎士団との訓練でございます。お着替えを準備致しますね」


「ああ」


 レオンハルト様に身長は追い抜かれたけれど、お耳の動きはまだちゃんと見えるのだよね。これ以上大きくなると見えなくなりそうだ。成長は嬉しいけれど、見えなくなるのはちょっと、いや、かなり残念だ。今のうちに沢山可愛い所を見ておかないと!


 訓練が終わると、レオンハルト様の今日の予定は終了した。これからは自由な時間になる。だけど、明日から視察で王都から南西にある港町であるレイリアに行くので、私とカミラ侍女長で準備をしている。


「リーゼ。明日から視察に行くからよろしく頼む」


「畏まりました」


 キリっとしたレオンハルト様もとっても素敵なのです。表情や口ではきりっとしていても、お耳がぴこっぴこって動くんだよ。もう、本当にもふりたいっ!

 表情に出さないようにするのが本当に大変なのですよ。このギャップは本当にきゅんきゅんしちゃうんです。いつもブルクハルト国王様のお耳を見つめているクリスティーナ王妃様もきっと同じだと思うんです。



 次の日、朝から荷物を馬車に積み込みレイリアに向けて出発をする。私はレオンハルト様と同じ馬車に乗る事になった。

 護衛のクラウス様とデニスさんは馬車の外で馬に乗って、カールさんは馬車を走らせてくれています。


 今日は馬車の中で沢山レオンハルト様を眺められるので、とても嬉しいです。最近昼間は学園に行っているので、もふもふ成分が足りていないのです。今日はたっぷり眺めて、もふもふ成分を補充しなくてはなのです。

 ただ、あんまり顔をガン見するわけにはいかないので、視界の端でとても意識してみてるのです。


(はぁ、可愛い~。撫でたいっ、もふりたいっ!)


 表情に出さないようにしつつ、馬車の中でめちゃくちゃ堪能しました。後は、しっぽも本当は見たかった。座っているとしっぽは見えないからかなり残念です。


 夕方前にはレイリアの街に着いた。まずは宿で手続きをしてレオンハルト様のお部屋を整える。ちゃんとメイドとしてのお世話も出来るんですよ?

 いつもいつももふもふの事ばかり考えているわけでは……あるかも。基本的にもふもふばかり考えている気がする。駄々洩れてたら捕まってそうです。


「レオンハルト様。お茶をお入れしますね」


「ああ」


 最近は本当に無口になっちゃって、寂しい限りです。あんなにリーゼリーゼ! って言ってくれていたのにと残念に思う気持ちがあるけれど、それだけ成長したのだと喜ばなくてはいけない所でもあるのだよね。

 甥っ子達も大きくなってきて恰好付けていたりとても可愛かったなぁ。姪っ子はおしゃれさんになってて可愛かったしなぁ。そう思うとこの無口な感じも可愛く思えちゃうんだよね。


 レオンハルト様にお茶を入れてから、荷物の整理をして隣のメイド用の部屋へ向かう。いつまでも居ても邪魔になるからね。お夕飯まで少し時間があるので、私も宿の部屋で少しのんびり過ごします。


 明日は街の中の視察予定です。本当はこの街の領主の館にお世話になる予定だったのですが、レオンハルト様が宿に泊まる事に決めたみたいです。

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