晴れ間の夢
梅雨の晴れ間、という言葉が遠い異国にはあるといいます。
ある果物が実る頃に、夏に先駆けて訪れる雨季を指す名前だそうです。
麦秋、という言葉もあるそうです。”秋”といいながらそれは麦の実る初夏です。
農作物が実る時期はどこの国でも重要なのだと、見たこともまた、おそらくは生涯訪れることもないだろう土地に生きる人々への共感を覚えます。
その言葉のような、からりと日差しが降り注ぐ日がくると、現金にも胸が軽くなります。太陽の恵みで生きる生物としての本能でしょうか。
気象も自然の営みも、人の一喜一憂など関わりなく、ただそこに
こんな日は、実家の領地が懐かしく思い出されます。
不作になれば貧しさに悩まされるような土地柄ではありますが、それでも、あるいはそれゆえにこそ領主側も領民も互いに支えあって生きてきた場所であり、わたしもまたいずれ帰り、残りの生涯を送るはずの故郷なのです。
思いがけずに得た学園での学びの機会に、わたしが望んだのは社交界での人脈やそのための立ち居振る舞いを身に着けることではなく、領地が発展していくために必要な方策を学ぶことでした。
学園で身分の高い、あるいは資産家の結婚相手と出会い、援助してもらう――というにはそんな方に目にとめてもらうだけの美貌も才知もありません。
それでも今のわたしは侯爵閣下が約束してくれた援助をもとに学んだ方策を実現させる望みを抱いているのです。
言葉にしただけで、その途方もなさに正直、挫けそうになります。それでも。
◇◇◇◇◇◇
梅雨の晴れ間の青空に、わたしの胸ははずんでいました
今日は裏庭へ行けるでしょう。
別に天気の悪い日に来ることを禁じられているわけではありません。
ただ、外でなければ、あの人が仕事をしている時でなければ、わたしは手持ちぶさたになってしまうのです。
いつもの場所にいつものあの人はいました。
相も変わらずもっさりとした前髪と眼鏡が目元を隠しています。
ぱっと見、不機嫌そうな無愛想な雰囲気も変わりません。
「こんにちわ。……雨が、やみましたね」
「ああ。久しぶりだな。……晴れるのは」
前半分の言葉にどきりとした後、がくりとします。
さがったり、あがったり、風に揉まれる木の葉のような自分にため息がでそうです。
――いつか、もしもかなうなら、豊かになった領地を見てもらいたい人がいるのです。
胸をはって「ここがわたしの故郷です」と告げることができたなら――
それはどんなに幸福なことでしょう。
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