転回・展開 ※ 別視点

 アレクサ・モールトンが学園に姿を見せなくなった。


 過日、アレクサの教室で起こった一件については同じ教室の生徒以外には拡散せずに収束した。

 

 学園内の自治は生徒に託される――学園の建前ではそうなっている。実際、余程のことがなければその前提が侵されることはない。

 

 学園内で生じた問題は最終的に学園生徒会執行部が対応し、裁定し、解決する。ちなみに生徒会長はロバートであり、副会長はグロリアが勤めている。

 

 だが、今回の件に関して生徒会は公式な介入を避けた。というより事案そのものを黙殺した。

 実情をいえばグロリア、ロバート、さらにアレクサ本人の意向により関係者に口止めがされたのである


 そして事件の翌週から、王城近くの後見人の屋敷から通学していたアレクサは体調不良を理由として登校しなくなった。


 アレクサの不在、そして関わりの深いはずのロバートとグロリアの沈黙に、学園はかりそめの静けさの中におかれた。


◇◇◇◇◇


 アレクサの不在を知ってから、レイチェルの立場は宙に浮いたようになっている。


 アレクサが現れなくなったこととレイチェルのそれまでの行動が結び付けられて見られるのは当然のなりゆきではある。


 だが、学園の実力者たちが意図的に看過している事柄を表立って責めたてに来る者はなく、ただ遠巻きにされ、誰も近づいてこなかった。


 もともとグロリアとその親しい学友以外、交流のある相手などほぼ皆無だったのだから、大きな変化とは言えないかもしれない。途方に暮れるレイチェル自身の心情を除けば、の話だが。


 行き場のないレイチェルの気持ちは自然と裏庭へ向かう。

 なのに、雨が不定期に降る日が続いて裏庭へ行く理由をつけることが出来ない。


 『会いたい』と一度自覚してしまったことが、逆にレイチェルの足をすくませていた。

 

 ――その思いにもっと明確な形を与える勇気が、今のレイチェルにはまだない。


◇◇◇◇◇◇


 雨は、いつかやむ。


 ただ、人にはわからない。


 やんだはずの雨がいつ、また降り出すのか。


 晴れ間はほんの束の間にすぎないこともある。


 ――それでも、人は青空のまばゆさに、希望の夢を見ずにはいられない。



 いつしか

 彼女は、思いへと踏み出し――彼は、愚かさの結末を知る。

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