安全者間距離と至近距離

 日々の繰り返しルーチンワークに、裏庭行きを取り入れましたモブのレイチェルです。


 なんというか、孤独じゃないっていいですね――すみません。強がってましたがぼっちで嫌われ者でいることで予想以上にメンタル削られていたみたいです。


 件の『おにーさん』が「匿名希望」であることに乗っかって、事情を打ち明けそびれたままで『女子生徒A』として会っています。(え、いかがわしい意味はないですよ)


 その辺のことわたしの事情を気にならないふりなのか心底どうでもいいと思っているのか、探りもいれてこない『おにーさん』は、放置しつつもぽつぽつお話しはしてくれて、やっぱりいい人だなーと思います。


 お年頃の女子としては、出会ったばかりの男性に警戒すべきと思わないわけではないのですが――最初の時のいい話ぶち壊しクラッシュ発言もありましたしね――


 というか、ですね。『おにーさん』はわたしとの間に距離をとっているのです。物理的に。


 どうも極力、体に触れないようにしているらしく、え、そんなに嫌われてる……?と一瞬、地の底よりも深く落ちこんだのですが、


 「あのな、うかつに触っていいわけないだろうが。そのくらいの良識はあるんだよ」


 と素っ気なく言い捨てた時の首筋のあたりがうっすら赤く染まっていたようだったので、それ以上の追求はやめて浮上することにしました。


 うん、なんかわたしのポジションは「拾われた小犬」的な印象です。

 雨に濡れててほっとけなくて、ついつい……みたいな。


 ともかく同情でもなんでも、つけこめるところにつけこんでしまえとばかりに無邪気なふりで足しげく通いつつ、作業のお手伝いをかってでて勤しんでおります。(社会的距離ソーシャルディスタンスは保ちつつ!)


 貧乏伯爵家ですから、農繁期の人手の足りないときの手伝いだったり、目ぼしいものがなにもないので庭師や下働きにくっついて回るのが遊びだったりするそんな子ども時代だったのです。


 ティールームでカップ片手におほほ、うふふ、よりは正直、こちらのほうが落ち着きます。


 制服が汚れないようにと見かねた『おにーさん』が貸してくれるうわっぱりをはおって、外ボウキをがっさがっさしてると、仕事してるわ!という充足感があります。収入にはならないけどね!


 もう一方の作戦おしごとも放り出したりはしていません。どうにか無難に、こなしてはいるのです、が。


 突撃して、さっと刺してヒット・アンドさっと退く・アウェイで、とっとと逃げる――という流れはまあほぼ変わらないはずなのに。


対象者アレクサ嬢がこの頃、ますます手強くパワーアップな予感です……


 ふと気がつくと、至近距離。

 ふと気がつくと、頭なでなで。

 ふと気がつくと、わたしの髪をひと房、手にとり――自分の口元にそえて微笑んで。


 ゼロ距離の滴る色気攻撃に、ひやああ、と何度悲鳴を上げかけたことでしょう。

 同性同士とはいっても、巷の恋物語の主役クラスヒロインになぞらえられる美貌にその他大勢モブが太刀打ちできるはずもありません。

 視界に入っフェードインしてごめんなさい、と土下座したいくらいのいたたまれなさに野生の兎すらも追い越す勢いで、逃げ出すわたしに味をしめたのか。


 敵は過剰接触スキン・シップという荒業を身に着けてきたのです。


 こんなの勝つる気がしません――

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