ある呪い ※別視点
オレたちの出会いは、オレが生まれてすぐの頃のことだった、と母上は言った。
無論オレにその記憶はないわけだが、当時三歳かそこらだったアイツはその時のことを覚えていると言って譲らない。
本当かよ、と思いつつ昔からすこぶるつきの秀才だったヤツのことだから満更でまかせでもないかもしれない。
もっとも
「生まれてすぐは、くしゃくしゃでゴブリンかと思った。人間に
などとうそぶくので、その信憑性にははなはだ疑問が残ると思っている。
オレは国王のただ一人の子どもとして生まれたのだが、ずっと長い間アイツが兄なのだと信じていた。
周りの誰かにそう言われたことがあったはずもないのだが、いつもオレのそばにいたことと、オレにぞんざいな口をきいても黙認されていたこと、そして二人で鏡を覗けばよく似た顔がならんでいたことでそう思い込んでしまったのだ。
この点についてアイツはオレの妄想力のたくましさには呆れる、と鼻で笑う。
いや、そんな不遜な態度、ふつう王子様にするヤツいないだろ?
実は身内で、って考えるほうが自然じゃないか。
それにあの頃、ごくごく身近で仕えている者以外からアイツは”いない者”扱いされていた。
確かにそこにいるのに、誰もアイツには目をむけない。声をかけない。イジメられたり、邪慳にされるわけじゃない。
ただ、空気のように無視される。
見えていない、というフリをみんなが示し合わせたようにしていた。
幼かったオレはそれがワザとだとは思わず、やがて、アイツには誰にも見えなくなる呪いがかかってるんだ。そしてその呪いを口にしたらいけないから、乳母や侍従も
そして、この呪いはオレがいつか解いてやる――と決意したその健気さを、アイツはもっとありがたがるべきだと思う。
実際、成長してから教えられた真実には、結構近いとこにあったと自負している。
アイツはオレの兄ではなく、ただし血縁者であり、しかしそれを公式には認められない存在だった。
この国にいながら、この国の正式な身分を持たず、祖国というべき国では本来あるべき身分は、オレに並ぶものだった。
実の母親はすでに亡く、父親はいるが親子とは認められず――
ある意味、呪われた身の上ではあったのだ。政治的な思惑という誰のものなのか姿さえ見えないモノの呪い。
その呪いは、オレに兄のような存在を与え、同時にオレから取り上げた。
ある日、アイツの姿が城から消えた。
元からいなかったみたいに、唐突に、何の跡も残さず。
わずかにアイツに関わっていた
いらだちと悲しみに泣き喚いているうちに母上が現れ、オレを静かに、しかしいつにない厳しさで𠮟りつけた。
その時、突きつけられた言葉をオレは今も忘れていない。
母上は言った。
「泣いてはなりません。騒いではなりません。
――あなたが泣けば、それがあの子を殺すことになるのです」
衝撃的な言葉に、それでも泣いてはいけないのだと悟ったオレは必死になって嗚咽をかみ殺した。アイツを死なせたくない一心で。
そして、その後、アイツとは二度と会うことはなかった。呪いが、アイツを奪っていったのだ。
――ということになっている。なのに。
今、ドレス姿でしれっとオレにくっついてくるコイツを誰か、どうにかしてくないだろうか。
ああ、また
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