サイドキック(相棒)

影武者

サイドキック

ここは、2030年、ルイジアナ州、ニュ-オリンズ。


銃規制が出来てからもう5年、一般市民がだれも銃を持った時代は終わっていた。しかし、それでも、犯罪は後を絶たず、銃を使った犯罪もまだまだ無くならない。


ここ某署では、一人の敏腕刑事デカがいた。

ルイジアナ州では、彼の右に出るものは居ないと言われている程、銃の腕前は良い。

名はリックというのだが…


この男、気難しい上、何を考えているのやら分からない。彼と組まされた警官はみんな署を去っていく有様だ。


そして、本日は月初の新人の赴任の日となる。署では、毎月この頃になると重い雰囲気となる。自分が外れくじ(新人の面倒をみること)を引くんではないかと、ソワソワしている。のである。


そして、赴任して来たのは一人の女性警官であった。

当然、警察学校出たての新人である。


「今日から我が署に赴任する事となったキャリ-だ」

警察学校アカデミ-を主席で卒業、とまではいかんが、優秀な成績を納めておる」

「皆、よろしく頼むぞ」


「キャリ-です、よろしくお願いします」


署長の紹介の言葉に、彼女は一歩前へ出て挨拶をした。

警察学校アカデミ-を卒業したてと言う事だが、それにしてもでかい。身長は180cmを超えるだろう。

栗色のショ-トの髪がボーイッシュだ。年齢的には20才ぐらいだ。


しかし、木偶の坊という言葉がある通り、大きいと動作が遅いと思われがちだ。男性達からはからかいの声も聞こえていた。


「よぉ、おっきなベェィビィちゃん、優秀な成績ってお料理の方じゃないだろな」


その言葉にキャリーは笑顔を返すしかなかった。職務を行う上でのパ-トナ-を決める事になっていたが、この有様だ、すぐには決まらないだろう。


「おぅ、お客さんかい、随分失礼が過ぎるじゃないのか?」


その時、署の入り口で寄りかかる一人の男がいた。リックだ、早朝のパトロールから帰ってきたらしい。


「おお、じゃぁ、ここはリックにお願いしょう」


「え?…」


署長の言葉に一瞬、固まるリックであった。もしや、こいつ新人か?と、ゼスチャーで仲間に聞くと、みんな頷いた。


「キャリ-、彼が今日からパ-トナ-を組んでくれるそうだ。名はリックだ」


「なんだって?....」


署長がリックを紹介すると、リックは頭を抱えて座り込んでいた。リックはこれほど、自分の言った事に対して、後悔する事は無かったであろう。


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その日、パトロ-ルに出るに際し、リックはキャリ-のチェックをする事にした。署内にある射撃場で、正に、射撃の腕を見ようとしていた。リックの隣には、リックより背の高い彼女が立っていた。人の形をした標的が30m先に見える。そのレーンがいくつもあり、ちょっと不気味だ。


「いいか、今から銃の扱いについて話す」

「銃の扱いは慣れてるのか?」


コルト357マグナム、彼の差し出した銃であった。リックは、軽く手の平で2、3回銃を跳ねさせると、彼女へと投げた。2人共ヘッドホンをしているが、会話の為、片方は外していた。


「コルト357だ、今や大半の警官が使用している、回転式レボルバ-拳銃だ」


受け取った銃を、そっと両手で持ちチョトンとした表情をするキャリ-。それ程、銃の扱いに慣れているとは思えない。


「この、回転式レボルバ-拳銃の、2種類の撃ち方を知っているな」

警察学校アカデミ-でも習ったと思うが...」


そう言うリックに、キャリ-は恐る恐る頷いた。


「じゃぁ、引き金を引いて、射って見ろ」


そう言われ、標的に向かって構えるキャリ-。両足を肩幅より広く広げると、両手で銃を構えた。そして、狙いを定め撃鉄をゆっくりと引くと、引き金を引いた


バ-ン!


乾いた小さな爆発音が響く、テレビや映画と違って、あんな軽快な音は鳴らない。鼻先を硝煙の臭いが擽った。


「ひゅう! やるじゃないか」

「発射まで、3秒か」


見事に胸の真ん中を貫いたのを確認すると、リックはそれに感心していた。


「今のは、ダブルアクションによる発射だ」

「これは、1発射つのに、撃鉄を引いて、引き金を引くと言う、2アクションの動作がいる所から、来ている呼び名だ」

「セ-フティレバ-は、SEMI AUTOセミオ-トになっていた筈だ」


そう言われ、銃を確認するキャリ-。確かに、セミオ-トになっていた。


「次は、セ-フティレバ-を、AUTOオ-トにして、撃鉄は最初から起こしておけ」

「それで、続けて射ってみろ」


またもや、一方的にそう言われ、仕方なく構えるキャリ-。


バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バ-ンッ!


1発目は、胸の真ん中を貫いたが、2発目からは、かろうじて標的に当たる程度だった。連続射ち、と言うのは、発射時の振動で手がぶれる。その為、1発目以降は命中しにくいと言う事は誰にでもある事だ。弾倉内の弾丸は全て射ち尽くされていた。


「今のが、シングルアクションだ」

「弾の発射時の反動で次の撃鉄を起こし、引き金のみで連射できる」

「構えて、射つまで、0.5秒」


射撃訓練なら嫌と言う程、警察学校アカデミ-でやっている。なぜ、こんな事を、今更説明するのかと、キャリ-は考えていた。


「よし、ブリッドを弾倉に詰めろ」


何時終わるのかと考えながら、キャリ-は弾を込め出した。そして、最後の1発を込め終わった時。リックが横から、手を出した。


「おっと、最後の1発は抜いておけ」


「え、なぜなんです?」


リックの言葉に、キャリ-は耳を疑った。新米の自分にとって、弾薬の補給は少しでもしなくても済む様に、1発でも多く装填したい所だ。それとも、よくある暴発防止の為なのか、と考えていた。


「さっき、その事をやった筈だ」

「お前の場合、ダブル3秒、シングル0.5秒だ」

銃受けホルスタ-へは、撃鉄を倒して納める」

「1発目から、シングルアクションは?」


リックは自分の目線より上にある彼女の顔に、人差し指を突きつけて恐い顔をしていた。彼女に回答を求めているのだ。その威圧に、彼女は慌てて返事をする。


「射てません!」


「そうだ」

「それに、1発目を空にしておくと...」

「お前の場合、実際に弾が出るまで、6秒かかる訳だ。これは、他人でも同じ事」


それを言われた時、彼女にも、リックの言おうとしている事が分かった。


「銃を奪われた時の対策ですか?」


「その通り、」

「自分が撃つ時は、弾倉を1つ分回して撃てばいい」

「...じゃあ、パトロ-ルへ行くか!」


この所、警官が銃を奪われ、射たれている事件が多発している。銃規制が厳しくなり、銃が入手しにくくなっている為である。キャリ-は、射つ事よりも、銃を奪われる危機

感を持てと理解していた。


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ニュ-オリンズの街をパトカ-で巡回する2人。この街も、銃が消えてから、凶悪犯は減ったが、相変わらず麻薬は横行していた。


ふと、路地裏で屯する青年達に気付くリック。彼の顔つきが変わった。


「いくぞ」


そう言って車を止め、降りるリック、キャリ-も遅れながらもそれに続いた。そこには4名の青年達がいた。リックが、警察バッヂを提示した左手をかざし、路地を進む。右手は、腰にあるホルスタ-へ伸びている。


「よーし、それまでだ。警察だ」

「お前達、薬をやっていたな」


その言葉と同時に、慌てて逃げ出す4人。とっさに路地から、建物の中へと逃げ込んだ。それを追いかける2人。


「まて!」


リックは入り口まで駆け寄ると、外から入り口に沿って張り付いた。銃を抜くと、中の気配を感じ取ろうとしていた。そして、キャリ-へ'来い'と合図を送る。


自分のすぐ後ろに付いた彼女を確認すると、小さな声で指示するリック。


「20秒後に、中に入れ。いいな」


彼女が頷くと、すぐさま、裏口へと駆けて行った。彼女にとって、初めての仕事だ。緊張のあまり、足が竦んでいる程だった。


「19、20...20秒経った」


そう呟くと、入り口から素早く中へと入る彼女だった。スラム街と違い建物の中は明るかった。逃げた4人の姿を求めて、奥へと向かう彼女。


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リックは反対側から、連中を追跡する。用心深く辺りを気にしながら進むが、その背後をいつの間にか取られていた。殴りかかるその人物に、容赦なく反撃するリックだった。あっと言う間に、相手を羽交い締めにすると、素早く手錠を取り出すリック。


「後の3人は?...」


取り押さえながら、低い声で言う彼に、青年は苦しくて言葉に出来ないでいた。その後ろに、少し距離を置いて、キャリ-が姿を現した。


「リック!!」


彼の姿を見つけ大声で叫ぶ彼女であった。


「バカ! 大声出すな!」


リックがそう言ったかと思うと、キャリ-の前に1人姿を現し、彼女は痛恨の1撃を喰らった。持っていた銃は弾き飛ばされ、自分自身も勢いで倒されていた。まだ、手錠を架けていないリックは、手が離せなかった。


次の瞬間、キャリ-の銃を拾ったのは、彼女自身ではなかった。銃を構えると、ニヤリとその青年は笑った。


この様子を見ていたリック、1発抜いてあったのが、功を奏した。そう考えていた。


...もたついている間に、飛びかかれ!...


そう念じていた。しかし、彼の考えは甘かった。青年は、構えた銃を見つめると、更に不気味に微笑んだ。そして、弾倉を1つ送るのであった。


...しまった! 1発目が空なのに気づいたな...


そう思った時である、キャリ-が何を考えたのか、青年へと、飛びかかった。当然、その引き金は引かれていた。


カチッ


弾は出なかった。そして、彼女の膝蹴りが見事命中した。その光景を見た他の2人は、一目散に逃げて行った。


「おい、どう言う事だ」


口を開けて唖然とする彼、何があったのかと驚いていた。


「あなたが考える事は、他の誰かも同じ事を考えているってことですよ」

「わたし、気になって実は2発抜いておいたんです」


そう言う彼女に、リックは完敗であった。度胸があると言うか、なかなかの新人である。彼の顔には、何故か、笑顔がこぼれていた。


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次の日、6番街で発砲事件があった。早速リックは現場に急行する事となった。ジャケット(防弾チョッキ)を取り、署を出るリック。しかし、何か忘れている気がした。署に戻り署内を見渡す彼。


「キャリ-、何やっている、早く用意しろ! 仕事だ」


「あっ、はい!!」


キャリ-もジャケットを取ると、遅れながらも後へと続く。署内の警官達は首を傾げていた。それは、リックがサイドキック(相棒)と認めた言葉だった。

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サイドキック(相棒) 影武者 @ogukage

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