リメンバーロック☆KANJI

ム月 北斗

リメンバーロック☆メタル・オーガ

これはありえたかもしれない西暦2021年・・・よりちょっと前のお話


5年前・・・俺は大学を中退して上京した。


スッキリしない終わり方だったけどな・・・


東京の音楽専門の情報誌の出版業者に努めた


これまでに数多くのバンドを目の当たりにした


どいつもこいつも「輝いてる」やつらばっかりだ


熱心に働いた、書いて書いて書きまくって・・・


すると、業界で超が付くほど有名な人物『大河内おおこうち 義光よしみつ』さんに声を掛けられた


近くのライブハウスで名のあるバンドがライブをするらしい


俺にきっといい影響を与えてくれるんだとか・・・


誘われるがまま俺は大河内さんと共にライブハウスへ向かった―――――


ライブハウス「ロック&ソウル」


小さなステージとバーのある大人向けの店のようだ


俺と大河内さんはカウンター席に座った


「マスター、彼がこの間話していた子だよ。」


大河内さんが俺をカウンターの向かいにいるマスターに紹介した


軽く会釈するとマスターが返す


「よく来たね、そろそろライブが始まるんだ、楽しんで行っておくれ。」


言い終えると同時にステージ前が騒がしくなる


バンドの応援グッズだろうか、サイリウムやうちわを持った女の子たちがはしゃいでいる


ステージには全体的に青色でキメた、いわゆる『ビジュアル系』のバンドグループが立っていた


「彼らはね、宮城県の『ご当地ロッカー』なんだよ。」


ご当地ロッカー・・・覚えがある、あふれ出る地元への愛を歌うロックバンドだ


ボーカルだろうか、マイクを掴み言った


「みんな、今日は来てくれてありがとう。今日はちょっと友達に頼まれてね、俺達の熱い地元愛ローカルソウルが君たちの胸に熱く響くことを願うよ。」


なんだかアツいやつらだ・・・きっとすごい歌を歌うに違いない


「聞いてくれ・・・『紗叉華魔ささかま』で、『竹雀矛ちくじゃくぼっこ』。」


曲名が微妙に謎い・・・いや、曲は詩が命だ、曲名なんて所詮飾r・・・


「笹かまあああああああああああああああああ!!!!!」


突然上げられたシャウトは、まさかの「笹かま」


えぇ…こんなのでいったい誰の胸に響くって言うんd・・・


ステージ前に陣取っている女の子たちから黄色い声援が彼らに向かって送られていた


ウソでしょ・・・今時の女の子ってがいいのか・・・


ひたすらに「笹かま」を連呼する彼らに呆れていると、横にいた大河内さんに声を掛けられた


「いい曲だ・・・実にいい。君もそう思わないかい、幹司かんじ君?」


「いや…俺は別に何も・・・」


「本当かい?君にはこういったアツい曲に?」


そう言われて俺は大学時代の頃を思い出した


入学したその日に友人に誘われて、大学の軽音サークルに入った時のことを・・・


楽器なんてまともに触ったことが無い俺に、先輩や同級生、友人たちが教えてくれたこと。


先輩たちが引退した後、俺はサークルのメンバーでバンドを組んだこと。


思い出しながら彼らの歌が耳に入る


沸々と・・・俺の中でアツい何かが込み上げてくる・・・


「幹司!」


不意に誰かに呼びかけられる。振り向くとそこには俺をサークルに誘ってくれた友人のしゅんがいた。


「隼・・・」


「探したぜ、幹司。あいつらの歌、お前の心に響いてるだろ?」


なにも言い返せない・・・


俺は・・・地元愛がなかなか通じなくて悩んで・・・それでバンドを・・・


「戻って来いよ、幹司!お前の地元愛、また轟かせようぜ!」


「隼、俺は・・・でも・・・」


悩んだ、胸の張り裂けそうな痛みに耐えて。


そんな俺の背中を押すように大河内さんが声を掛けた


「幹司君。夢ってのはね、『終わり』がないんだよ。諦めたって、折れたって。時が経つとね、巡り巡ってまた。」


大河内さんの言葉にハッと目が覚める


地元愛が涙となって湧きあがり溢れ出る


「大河内さん・・・俺・・・俺・・・!」


大河内さんは何も言わずに頷いた



半年後


東京のデカい公園で、とある野外コンサートが始まった


ご当地ロックフェスティバル『O・MI・A・GE↑↑』


日本で最初に地元愛を歌ったロックバンドが復活したという情報を聞きつけ


たくさんのご当地ロッカーファンが訪れていた。満員御礼ってやつだ。


コンサートの司会が挨拶を始めた


「地元愛溢れる皆さま!お待たせしました!今宵は伝説のご当地ロッカー復活も祝う最高のフェスです!幕が上がれば始まりです、アゲアゲでいこうぜ!!」


大歓声が地鳴りのように響き渡る


幕の向こうにはたくさんのファンがいる・・・やべぇぜ・・・手の震えが止まらねえ。


隣に立つ『SHU☆Nしゅん』が俺の肩を叩く


『大丈夫だ』アイサインで俺を落ち着かせてくれる


後ろには共に地元愛を奏でる仲間が二人・・・


そうだ・・・俺には今!『仲間』がいる!!


幕が上がる、俺をたくさんのスポットライトが照らす


ファンからは大波のように押し寄せる大歓声


俺はもう負けねえ・・・俺はもう諦めねえ!!


「行くぜお前ら!!」


観客に向けて俺の地元愛をありったけの魂を込めて解き放つ!!


「チマキイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


俺を送り出してくれた虎徹じいちゃん、聞こえるか


俺は・・・俺には・・・


最高の『どやぐ』がいるぜ・・・!


ご当地ロッカー『超合金メタルNAMAHAGEオーガ』の幕が今!再び上がる!!

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リメンバーロック☆KANJI ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

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