第7話 初めての死霊術

それから2巡り(16日)ほどで、いくつかの重要な魔術を習得した。


● <身体強化> 体内の魔力を循環させ身体能力を高める汎用魔術。

筋力、持久力、五感、反応速度などを向上させることができる。僕の場合、霊視能力も強化できる。

特定の分野を強化するときは<身体強化/筋力>や<身体強化/視覚>のように表記する。


● <精神干渉> 自分や他者の精神に影響を及ぼす汎用魔術。

不安や恐怖を増幅させる精神攻撃から、逆に精神を落ち着かせる治療行為まで幅広い応用ができる。

派生魔術として、言葉を介さず相互に意思を伝える<念話>、嘘偽りを検知する<真実の口>、契約違反を防ぐ<信用のくさび>等がある。

本来、僕のような見習い魔術師には習得できない難しい魔術なのだが、霊視能力によって精神の大本である霊体を認識できる僕にとって、それほど難しくはなかった。


● <紱霊ふつりょう> 人間に害をなす悪霊を退治する唯一の魔術とされ、非常に優秀な魔術師でも習得は困難で、この大陸でも数名しか使い手がいないと言われている。

だが、霊視能力者である僕にとってはむしろ簡単な魔術だった。


これらの魔術が死霊術の基礎となるということで、みっちりと訓練させられた。

苦労のかいあって師匠から合格点をもらったので、いよいよ今日からは死霊術を学ぶこととなった。

ここまで来るのに1期節(40日)もかかってしまった。

『いやいや、これだけ早く魔術を習得できる者などそうそうおらんぞ。自信をもつがよい』

「でも1期節は僕にとっては長かったです。僕の才能が活かせる死霊術ってものを早く知りたかったから」

『それほど待望されれば師匠冥利につきるというものじゃ。それではまずは基礎知識から教えていこう』


猫姿の師匠の話を聞きながら要点をメモにまとめた。

● 幽霊は魔力と霊体でできてる

● 霊体は霊素が集まってできてる

● 霊素は生命を持つものが生きている間、その体の中で増えていく

● 霊素(や霊体)は霊視能力者にしか感知できない

● 霊素は、生物の記憶とか感情といった精神的な要素の根本だと考えられている(魔術の<精神干渉>と霊視能力の関係より)

● 生物が死ぬと、その体から霊体(霊素の塊)が抜け出す(これは以前僕も見たことがある)

● この死亡時に出てくる霊体を”死霊”という

● 通常の死霊は徐々に霊素が拡散し、2~3日で完全に消滅する

● 死霊術を使うと死霊を魔力で固定化し、人工的に幽霊を作ることが可能

● 天然物の幽霊は、死霊が強い想念で魔力に干渉し自らを固定化して生じると考えられている

● 死霊術は霊体(幽霊や死霊)を使役して役立てるための魔術や技術の事

● 使役された霊体のことを”使鬼しき”と呼ぶ


僕にしか見えなかったあの青白く光るモノの正体をようやく知ることができた。

今まで漠然とあれは死と関係ありそうと思っていたが、まさにその通りだったんだな。


「ちょっと気になったんですが」

『なんじゃ?』

「師匠の使鬼は動物だったけど、もしかして人の幽霊も使役できるのですか?」

『もちろんじゃ。複雑な作業もできるし優秀じゃぞ』

「それって、その、良いんでしょうか?」

『ふむ、倫理的にということかのう。基本的には本人と交渉し納得の上で使鬼になってもらうのでな、普通に使用人を雇うのとそう変わらんぞ。

そのあたりは生者であろうと死者であろうと使う側次第。つまりおぬしの心持次第じゃな』

「そっか。うん、確かに。僕次第か」

『そうじゃ、この話をしておこう。

かつて、我らの死霊術とは無関係に、自力で死霊術を編み出した魔術師が現れたことがある。其奴そやつは死霊術を悪用して死者の霊を強引に使役し事件を起こした。使役した霊を率いてある地方の都市を占拠して支配下に置き、好き放題に悪事をなしたのじゃ。しかし、其奴そやつは我らの先達によって討滅された。

おぬしならそのような過ちは犯さぬと思っておるよ』

「うん、絶対にそんなことしないと誓います」

『うむ、よろしい。では、死霊術の実践に移ろう。

死霊術は使鬼を手に入れねば始まらん。入手方法は①幽霊と交渉する、②死霊と交渉するの2通りじゃ』

「え、どっちも同じなんじゃないですか?」

『いやいや、全然違うぞ。

幽霊の場合は強い想念、恨みや無念などだな、そういった感情が強いので話をするだけでも大変じゃ。その代わり探せばそこらじゅうで見つけることができるという利点がある。

一方、死霊は死んですぐなので生前の知性や人格が残っており話はしやすい。しかし数日で消滅するからのう、出会える可能性が低いのが難点じゃ。

このようにそれぞれ一長一短があるのじゃ。

交渉では主に<念話>を使って説得したり、交換条件を話し合うことになる。

幽霊の場合、話が通じず暴れたり逃げ出す事もあるから、それを押さえつけるために<霊体操作>の魔術があると便利じゃな。

そして交渉が成立すれば使鬼とするための契約を交わす。そのための魔術が<使鬼使役しきしえき>じゃ。

まずはこれらの魔術を習得してもらおうかの』

「はい」


<霊体操作>は<紱霊>の魔術の応用というか、それを汎用的にした魔術だった。

<紱霊>では特殊な魔力の”手”を生み出して、霊体を引きちぎって霧散させるのだが、これに手加減を加えて押さえつけるとか、変形させるとか繊細な操作を可能とした魔術だ。


<使鬼使役>は、契約遵守じゅんしゅのための<信用のくさび>と、主従の霊体の間に霊素の繋がりを作る操作など(他にもあるが説明は後日)をひとまとめにした魔術だ。

この霊素の繋がりを”霊糸れいしリンク”と呼ぶ。

霊糸リンクのおかげで、使鬼はどんなに離れていても存在を感知できるし、念話的な意思疎通ができる(魔術の<念話>は距離が離れると使えない)。


練習は師匠が作り出した専用の魔力の塊に対して行った。模倣もほう霊体といって、師匠が霊体そっくりの反応を返すように細かく操作してくれるそうだ。

これらの魔術を短縮詠唱できるまで繰り返し練習して習得した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る