第8話 最初の使鬼
そしていよいよ実践訓練のため、お化け屋敷に赴く。
「師匠、お久しぶりです」
髭の老人姿の師匠にあいさつする。
『おお、そうじゃったのう。こっちの本体で会うのはしばらくぶりだ』
うん、猫の姿に慣れちゃったから、すごい違和感があるよ。
初めての使鬼として、屋敷でよく見かけるネズミの幽霊を使うことになった。
食堂に向かう。
師匠の猫型使鬼がネズミの幽霊をこちらに追い込んでくれる。
それを<霊体操作>の魔術を発動して待ち構えていた僕が捕まえる。
「よっと、捕まえた!」
『よし。念話を試してみるのじゃ』
「はい」
<念話>を発動してネズミの幽霊につなぐと『怖い、喰われる』という思念が伝わってきた。
「大丈夫だよ、安心して」
と話しかけてはみたものの、ネズミくんは余計に混乱している。
困っていると。
『ネズミ相手に丁寧な交渉は無意味じゃぞ。力を見せつけて屈服させるのが効果的なんじゃ』
あー、なるほど。動物の世界ってそんな感じする。
<霊体操作>の”手”でちょっとニギニギしながら、「言う事聞け~」と念を送ると、途端におとなしくなった。
『もう大丈夫じゃ。使役できるぞ』
「あ、こんなのでいいんだ」
気構えていただけに、ちょっと拍子抜けだった。
気を取り直して、<使鬼使役>の魔術を発動させる。
「お?」
何やら自分とネズミ幽霊の間に見えない何かがつながった感触があった。これが霊糸リンクだろう。
『上手くいったようだな。何か指示してみよ』
ネズミくんに僕の足元をぐるぐる回るように指示すると、その通りに走り出した。
「わ!すごい」
その後も、ジャンプさせたり死んだふりさせたり、と指示を出して動きを確かめた。
『無事に使鬼ができたな、おめでとう。それでは、使鬼について詳しく教えよう』
師匠のお話の要点をまとめたメモがこちら。
● 使鬼の保有について
使鬼を活動させるには術者が霊糸リンクを通じて魔力を提供する必要がある。周囲の魔力を使う場合でも、術者自身の魔力を少量混ぜる必要があるため、体内魔力の消費を無しにはできない。
保有する数の上限は術者の能力によって異なるため、<使鬼使役>が失敗する時の感触で初めて分かる。
使鬼を手放す場合、<使鬼解放>の魔術を使い、霊糸リンクを解除する必要がある。
● 使鬼自体の基本能力
霊体なので一般人には見えない、障害物をすり抜ける、浮遊して移動できる。
さらに死霊術による付加機能として、念動力(成人女性程度の力で物を動かす)、恐怖(精神攻撃)、霊衝撃(要は体当たりで敵の霊体に直接ダメージを与え、眩暈や気絶を引き起こす)、などがあるが術者の魔力を消費する。
● 休眠状態
使鬼の意識を停止した状態にして球形に圧縮し、術者の霊体に埋め込んで収納することができる。収納状態では使鬼を維持するための魔力供給が不要となるため、術者の魔力を温存できる。
また、収納状態でのみ使鬼の霊体が受けた損傷を全快させることができる。
休眠状態を解除すると、再び使鬼が元の姿で現れて活動を開始する。
● 霊糸通信
術者と使鬼の距離に関係なく、霊糸リンクを介して情報のやり取りが可能。思念、五感、魔力感知・操作、霊視能力など色々なものを通すことができる。
応用としては双方向念話、感覚共有(主に視聴覚)、遠隔での魔術発動、完全共有(使鬼を術者が直接操る)などがある。
● 使鬼自身の魔術
使鬼自身も魔術は使えるが、自身の魔力を使うタイプの魔術は魔力不足で発動しない。周囲の魔力を利用する魔術のみ使用可能。
● 憑依と傀儡
使鬼や幽霊は、霊体と相性の良い物体に入り込み、それを身体のように操る能力を持つ。これが憑依。
死霊術にはこの憑依を強化した<
確かに、ネズミくんが使鬼になってから体内魔力が消費されている感じはしていた。微々たるものなので1日くらいなら出しっぱなしでも大丈夫だろう。
早速、休眠状態を試してみた。ネズミくんが球体になりながら僕の方に飛んできて、スーッと胸の中に消えていった。
なるほど、僕の中のどこかにネズミくんの存在を感じる。
『ネズミくん出てこい』
と念じると胸から球体が飛び出し、ネズミくんの幽霊となった。
今度は念動力の実験。
その辺に転がっていたスプーンを示し。
「ネズミくん、あのスプーンを動かしてごらん」
と指示する。
『キュ(分かった)』
ネズミくんはタタタッ(足音はしなかったけど、そういう感じ)と走っていき、うんしょ、うんしょ、とスプーンを押していた。
うん、可愛い。
じゃなくて!うーん、予想と違った。
確かにスプーンはズリズリっと音を立てて動いてはいるから、念動力は機能している。
でも、そうじゃないんだ。
もっと、こう、手をかざして、えいっ、フワフワ、って感じで頼む。
念話でイメージを伝えると、ネズミくんは後足2本で立ち上がり、前足をかざして気合を入れた。
『チュ(えいっ)』
よし、カワイイ。
今度はスプーンがふわりと宙に浮いて、まさにイメージ通りとなった。
指示もかなり具体的に伝わることが分かり、有意義な実験だった。
次は霊糸通信だな。視覚共有をやってみよう。
ネズミくんの視覚と同期すると、自分の視界にネズミくんの視界が重なって、クラクラしてよろけた。
『わっはっは、目を開けたまま視覚共有したんじゃろ? 初心者は必ず通る道じゃ』
師匠に笑われてしまった。そういうのは先に言っておいてほしい。
椅子に座って目を閉じると、ネズミくんの視界だけが見える状態になった。
おお!周りが全部巨大だ。
よし、ネズミくん適当に走り回ってくれたまえ。
しばらく走るネズミくんの視界を眺めていると、なんだか気分が悪くなってきた。
急いで感覚共有を解除する。
「うえー、気持ち悪い」
『なんじゃ酔ったのか?』
「いや、お酒は飲んでないです」
『違う違う、乗り物酔いの事じゃ』
「乗り物にも乗ってないのに?」
『ああ。視覚の共有をした場合、たまに乗り物酔いになる奴がおるんじゃ。まぁ、慣れれば大丈夫になるらしいが』
「う~ん、慣れるまでこの気持ち悪さに耐えなきゃいけないのか…」
いくら魔術の練習が好きな僕でも、これはちょっとキツイなぁ。
『そういえば、以前乗り物酔いには鎮静の魔術が効くと聞いたことがある。試してみたらどうじゃ』
「うん」
藁にもすがる思いで、早速<精神干渉/鎮静>を発動させる。
「あー、少し楽になったかも」
これなら視覚共有の練習もがんばれる、かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます