第6話 本当の魔術師

話の順番を入れ替えて、冗長な部分を削りました。(2021/09/16)

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そんなある日。

『ちょっと気になったのでな、町の魔術教室に忍び込んで教材をちょこっと拝見してみたんじゃ』

「師匠、それって犯ざ…」

『まぁまぁ。そのおかげで生活魔術の事が大体わかったのだから、堅いことは言いっこなしじゃ。

それでな、生活魔術とやらは思っていたよりも相当程度の低いものだった』

「程度が低い?」

『うむ。基礎となる魔力感知や魔力操作の訓練もせずに、いきなり呪文の詠唱をやらせておってな、紙芝居を使って呪文によるイメージを補強することで魔力の動きを無意識のうちに生み出して、魔術の発動までたどり着かせておるのじゃ。

自分の意志で魔術を使っているというより、呪文によって魔術を使わされているようなもんだな、あれは』

「ふーん? なんだかすごく簡単そうですね」

『簡単なのは確かじゃ。素人が短期間でを使えるようになるには良い方法なのだが、魔術師を育てるようなものではないな。まぁ、目的がそもそも違うのだろう。その名の通り生活を便利にするだけが目的なら、とても良くできておるわ』

「年上の子たちが一巡りくらいで全部の生活魔術を覚えた、って聞いてたから、みんな僕よりすごい優秀なんだと思ってたんだけど、習ってることが全然違ったんだ」

『その通り。おぬしはになるための訓練を受けておるのじゃ。ただな、このことが周囲にバレると厄介なことになりそうなのだ』

「どうしてです?」

『魔法ギルドは生活魔術については無料で公開し普及させているが、それ以外のはギルド会員以外には一切公開しておらん。ギルド会員でもないおぬしがそれを使えるとなると、魔法ギルドが黙ってはおらんだろう』

「え~!僕、捕まっちゃうの!?」

『しょっ引かれるかどうかは分からんが、面倒なことになるのは間違いないじゃろ。バレないに越したことはない。十分に気を付けるのじゃぞ』

「わ、分かりました。けど、せっかく魔術を身につけたのに、大っぴらに使えないなんて~」

トホホだ…

『何とかおぬしをギルド会員にする方法を見つけよう。それまでの辛抱じゃ』

ぐぬぬ、魔法ギルドめぇ~

この時から僕は魔法ギルドが嫌いになった(完全な逆恨み)。


その後、師匠が生活魔術とよく似た、けれど本当の魔術を作って教えてくれた。

これなら呪文の詠唱さえ聞かれなければ生活魔術と見分けがつかないから、使っても大丈夫だろう、との事。

良かった!ありがとう、師匠!


◇◆◇◆◇◆◇◆


その後、何とか体外魔力の操作ができるようになった。

『では、体外魔力を使う方法を教えよう』

師匠の話によれば。

● 魔術は単発型、と持続型に分けられる。

● 発動時に込めた魔力だけで発動するのが単発型。今まで使っていた<蛍火>もどきがこれ。

● 発動中も魔力を供給することで、長時間発動し続けるのが持続型。師匠の使っている死霊術はほとんどこれ。

● 同じ魔術を単発型と持続型の両方で発動できるものも多い。<冷光>もそう。

● 単発型は体内魔力でも発動できるものがあるが、持続型はすぐに魔力欠乏症になるので、体外魔力を使う必要がある。


『と言うわけで、まずは簡単にできる<冷光>の単発型を、体外魔力で発動してみようか』

今までの<蛍火>もどき、もとい<冷光>をやり方はそのままに、体外魔力を操作して発動させてみた。

ちょっと難しかったがいつも通りに光が灯った。

すごい。ほとんど体内魔力を使わなかった。

『では、次は持続型の<冷光>の発動方法を教える。よくみて真似するんじゃ』

猫師匠が行使する魔術をよく見る。

体の前で魔力の渦が出来上がって、これに周囲の魔力が流れ込むのが分かる。

その渦に魔力の性質を変化させる処理が行われ、渦の一部が分岐してその先で魔術が発動した。

発生した光の球に、渦の魔力が流れ込むのが分かる。

なるほど、これならいつまででも発動し続けるだろう。

『分かったか?やってみろ』

見よう見まねでやってみたが上手くいかず、師匠から指摘を受けて修正する。

何度か練習して、ようやく発動に成功した。

『できたな。それを忘れんように。次は、それの止め方を教える』

持続型の停止方法は2つ。①渦を止める、②渦から分岐した流れを止める。

①は完全に止める時に使う。

②は一時停止に使い、その渦を使って再度発動させることが可能。

両方の止め方を練習して習得した。


『よし。ここまでよく頑張った。これで魔術師に必要な基礎的な技術はすべて揃った。魔術師見習いを卒業したと言っても良いだろう。知識はまだまだ全然だがな』

あれ?僕はいつの間にかちゃんとしたになっていたらしい。

修業は楽しかったし、できないと思うほど難しいこともなかったぞ?

『なんじゃ?変な顔をして』

「いえ、実感ないなー、と思ったので」

『それは、おぬしに予想以上の素質があったからじゃな。儂も驚いておる。自信を持つと良い。

明日からは、もう少し高度な魔術を習得してもらう。それが済んだら、いよいよ死霊術を教える』

おお~!それは楽しみだ。

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