第5話 人生初の魔術

自分で読み返しても冗長だなと思ったので、分量を半分くらいに減らしました。

さらに、主人公の姉の話を追加しました。(2021/09/16)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


いよいよ初めての魔術を習うということで、僕はワクワクしていた。

『人生初の魔術と言えば、定番の<冷光れいこう>だな』

「え?<蛍火>じゃないんですか?」

『ぬ? なんじゃその<蛍火>というのは』

「えーと、この辺の子供たちが最初に教わるのが、生活魔術の光系統<蛍火>のはずなんですけど」

『ふむ。これと同じかな? ほい』

猫姿の師匠が詠唱せずに魔術を発動させる。すげー、さすが師匠!

ふわりと白っぽい光が浮かび上がる。形はお皿のように平べったい。

「うわ、明るい!<蛍火>は黄緑色でもっと暗いし、平らじゃなくて丸いよ」

『なるほどのう。より簡素化して習得を容易にしたのかも知れん。こんな感じか』

師匠が再び魔術を発動させると、今度はよく見知った<蛍火>の明かりが現れた。

「あ、これです、これ」

『ふむ。見慣れない魔術を使って目立つのも良くないだろうし、こっちの<蛍火>を教えるとしよう』

「はい、お願いします」


『その前に。生活魔術とか光系統とか言っておったが、それは何なんじゃ?』

「え!師匠知らないんですか?」

『うむ。300年前にはそんな言葉は無かったな』

「えっと、魔法ギルドから無料で教えてもらえる魔術が生活魔術で、その中に光、闇、火、水、風、土の6系統の魔術が含まれてる、って話だったはずです」

『魔法ギルドか。確かにそのような組織を作ろうという話を聞いた覚えがあるのう。幽霊をやってる間に色々変わったようじゃ』

おおっと、師匠ってば実は時代遅れ?

『む!なんじゃその顔は。

安心せい。話を聞くにその生活魔術とやらは習得を簡単にするために、当時すでに知られていた魔術をより簡単に改変しただけのものだろうが、儂にかかれば難易度の調節なんぞ一瞬じゃ。

おぬしの出来具合に合わせて改変してくれよう』

「え? それってつまり、僕専用の魔術を作って教えてくれる、てことですか!」

『その通りじゃ』

流石です、師匠!


その後はひたすら練習。

猫師匠が<蛍火>をゆっくりと発動して、その魔力の動きを覚えさせられた。

そして、魔力操作を補助するための呪文を、師匠が僕に合わせて即興で作ってくれた。

この呪文を詠唱しながら魔力操作をすることでことで、僕も<蛍火>もどきの発動に成功した。

何度も練習すれば、いずれは詠唱無しでも発動できるようになるらしい。


それを聞いてやる気を出した僕が、続けて3回ほど魔術を発動したところで、急にくらくらと眩暈めまいがしてベッドに倒れ込んだ。

師匠曰く、”魔力欠乏症”と言うらしい。体内の魔力を消費しすぎると起こるのだそうだ。

しかも、この症状を感じてからも無理して体内魔力を消費すると、気絶するから気を付ける必要がある。

初心者は、寝る前にわざとこの症状を起こしてから寝るようにすると、使える体内魔力の量が増えるそうだ。

今後は毎晩やろうと思った。


体内魔力を使い過ぎると魔力欠乏症になるので、魔術師になるには周囲にある魔力(体外魔力という)を使う技術が必須になる。

今までやっていた魔力操作は体内魔力だけだったので、今後は体外魔力の操作も練習することになった。

猫師匠にゆっくりとやり方を見せてもらうと、体内魔力を少し放出してそれで周囲の魔力を動かして巻き込み、大きな流れを作っていた。

見るとやるでは大違い。難しい!

これも要練習だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


数日そんな感じで練習していたら、ちょうど<蛍火>もどきを発動したタイミングで部屋のドアが開いた。

「ただいま~、って、テオ!あんた魔術使えたの?」

といきなり入ってきたお姉ちゃんが、驚いた声を上げた。

お姉ちゃんは4つ上で、茶色の瞳、茶色の髪を1本の三つ編みにしている。

近所の裁縫屋で見習いをやっていてそっちに泊まり込むことも多く、最近は帰ってきてなかったので、油断してた。

まぁ、見られたものはしょうがない。

「まあね。使えるよ」

「10歳までは危ないから使っちゃダメって言われてるのに」

「大丈夫だよ。ちゃんと安全に気を付けてるから」

「本当に?絶対暴走させないようにね。魔術教室で暴走させた人がいてさ、頭がチリチリになってたんだよ。あれは笑ったわ」

笑いごとで済んだのか、それ?

「なんか、肝試し行った後からテオの様子がおかしいって噂になってたけど、こっそり魔術の練習してたのね。

やっぱり、動く剥製を見て怖くなったの?」

「いや、別に怖くなかったし」

「本当?悲鳴上げて逃げたって聞いたけど」

「それってポールだよ。あいつ肝試しの間ずっと悲鳴上げてたし。剥製の時も真っ先に飛び出してったし」

その後は、肝試しの話題に移ったので、これ以上魔術の事を聞かれることは無かった。


これからは、お姉ちゃんが帰ってくることも警戒しておかないとな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


そうして、練習の度に<蛍火>もどきを発動するのに使う呪文を短くしていき、とうとう師匠のように無詠唱で発動できるようになった。

「やった!できた」

『よくやった。こんなに早く無詠唱ができるとは。筋がいいのう』

褒められた。練習頑張ったので、うれしいぞ。

『体外魔力操作は、まだ無理か。では、魔術の”改変”をやってみるか』

「改変?」

『今やってる<蛍火>もどきを改変すると、こんなことができる』

猫師匠が魔術を発動させると、最初に見たお皿みたいな形の白い光が出現した。

「それって別の魔術じゃないんですか?」

『いいや。<蛍火>もどきと同じじゃ。と言うか、<冷光>という魔術を改変したのが<蛍火>もどきなんじゃ』


師匠の話によると。

● 魔術には発動の途中で条件を変えることができるものが多い。

● 同一の魔術で条件を変えて発動させることを”改変”という。

● <冷光>の場合は、光の色と強さ、形と大きさ(正確には面積)、出現場所、持続時間を変更できる。

● それぞれの条件を変えると、消費する魔力の量が増減する。組み合わせによっては莫大な魔力消費量になることがあるので注意。


『では実際に<冷光>の改変を試してみろ』

と言うことで改変の練習をした。

昼の光のように白く明るくしたり、形を帯状にしてみたり、出現場所を遠くしてみたり、といろいろやってみて魔力消費量の変化を感覚的に覚えた。

色々試してみた結果、使い勝手の良い改変を見つけた。

ランプのような黄色っぽい光で、帯状にして額の上に出現させると、顔を向けた方向だけが明るくなって使いやすく、魔力の効率がよさそうだ。

得意げに師匠に見せたところ。

『おお、自力でその鉢金型にたどり着くとは、やるではないか。野外で<冷光>を使う時は大体皆その形で使うんじゃ』

常識だったみたいだ。恥ずかしぃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る