第3話 幽霊の正体と弟子入り
結局次の日は親に外出禁止を言い渡されたので、家の中でおとなしくしていた。
あの老人は何だったのかなとか、どうして鹿の剥製が動いたのかなとか、昨晩見たものについて想像を巡らせているうちに一日が終わった。
そして明くる日、謹慎の解けた僕は真っ先にお化け屋敷へと向かった。
お化け屋敷の周りは昼間でも人通りが無く閑散としている。
きょろきょろと周囲を見回して目撃者がいないことを確認して素早く通用門から侵入した。
今回は一応お招きに与っているので、玄関扉のノッカーをコンコンコンコンと鳴らした。
すると扉の表面からにゅ~っと老人の上半身が現れた。
さすがに面食らっていると、『よう来たの』と笑いながら言って中に引っ込んでいった。
このご老人、かなり悪戯好きのようだ。
やれやれと思いつつ扉を開けて中に入る。
玄関ホールに立った老人が丁寧にお辞儀して。
『あらためて、ようこそ少年。儂はライナス・エルウッドという。もうかれこれ300年ほど幽霊をやっておる』
さ、300年!途方もない年数に思わず固まってしまった。
おっと、いけない。
「えっと、僕はテオです。8歳です。よろしくお願いします」
礼儀作法とかよくわかんないので、見よう見まねで両手を胸の前で重ねて軽く頭を下げる。
『ほう、礼儀正しいのう。いい所の坊ちゃんかな?』
「いいえ。大人がやってたのを真似しただけで」
『そうかそうか。よくできておったぞ』
どうやら上手くいったらしい。
『なにぶんこの屋敷は生きた人間が生活するようになっとらんでな、何のもてなしもできず、すまんの』
「あ、いえ、大丈夫です」
そりゃそうだよな。100年以上人が住んでないんだから。あー、水筒でも持ってくればよかったか。
『キッチンの魔道具を使えばきれいな水だけは出せるぞ。自由に使うとよい』
「はい、ありがとうございます」
魔道具!すごい、そんな高価なものがあるんだ。あとで使ってみよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、応接室に移動していろいろと話を聞いた。
ライナスさんは約350年前に活躍していた魔術師で、世間には知られていない”死霊術”という特殊な魔術の専門家だったそうだ。
死霊術は僕のように幽霊を見ることのできる人間(”霊視能力者”というらしい)以外には習得できないため弟子を取ろうにもその才能を持つ人を探すところから始める必要がある。
しかし彼は運悪く自分以外の霊視能力者に出会うことができず、死霊術を絶やさぬために自らを幽霊化する秘術を開発し、死後も幽霊としてこの世にとどまり弟子探しを続けていた。
幽霊としての自分を維持するための仕掛けがこの屋敷の地下にあるためここから遠く離れることはできず、死霊術を使って”
その間3人の霊視能力者を発見していたものの、霊視能力者は迫害を受けやすく自分の能力を忌み嫌う場合が多いため、ことごとく勧誘に失敗。
今回たまたま肝試しに訪れた僕が霊視能力者だったため、声を掛けたということだった。
お膝元のこの町で僕が見つかっていなかったのは、それだけ”見えないふり”が上手かったということだろうか。
話を聞き終わって、この屋敷は300年くらい前のものなのかと本筋から外れたところで驚いたりもしたが、要するに早い話が。
「つまり、世にも珍しい死霊術という魔術を使える才能が僕にあるってことですよね!しかも100年に一人くらいの希少な才能が!」
『ま、まぁ。そういうことじゃ』
僕の剣幕に少し引き気味だけど、そんなの気にしてられない。
平々凡々で何のとりえもないのが取り柄みたいな僕に、こんなすごい才能があっただなんて!
「やります!死霊術師に僕はなります!」
ずずいっと身を乗り出す僕に、後ろにのけぞりながら。
『お、おぉ…そうか、それは良かった。
それでは、今日からおぬしは儂の弟子じゃ。よく励むように』
とライナスさん、いや師匠が言った。
「はい!よろしくお願いします、師匠!」
こうして僕は、師匠の300年越しの初弟子となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後の雑談で判明したが、このお化け屋敷の呪われた噂の数々は案の定、悪戯好きの師匠の仕業だったらしい。
目的はこの地下にある、師匠の生命線といえる魔道具を守るためだったらしいが、ついつい興が乗ってしまい脅かすのに趣向を凝らし過ぎてしまったのだとか。
直接危害を加えるようなことはしていないそうだが、それで発狂したり、ぽっくり逝ったりするような脅かし方ってどんだけ…
この屋敷周辺は
そこで、師匠は猫型の”
使鬼は術者が使役する幽霊の事で、簡単な命令を実行させたり、感覚を共有して遠くのものを見聞きしたり、遠隔で魔術を発動させたりすることができるのだそうだ。
使鬼を通じて師匠と会話もできるので、これにより自宅にいる間も修業できる体制が整った。
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