第2話 肝試し本番
そして数日後の夜。
「えっと、『シクスの恩寵よ我が頭上に集いて光を灯せ』…よし成功ね」
サラが<
するとそれを見ていたトビが、唇を突き出して不満げな声を出す。
「いいなー、俺も魔術使いてー」
「フフフ、魔術は10歳になってから。もう少し我慢しなさい」
家をこっそり抜け出して空き地に集まった僕らの中で、10歳になっているのはサラだけだ。僕もちょっとだけうらやましい。
明るくなったので、手に持っていた燭台の火を吹き消す。
「ほら、見つからないうちにさっさと行こうよ」
ポールが不安げに辺りを見回しながら言うので、トビが先頭になって町外れへ向かう。
しばらく行くと突然建物が途切れて空き地が広がる場所に出る。
その空き地の向こうにツタに覆われたお屋敷が見える。石造りの塀に囲われていて立派に見えるが、近づいてよく見ると風化して歴史を感じさせる建物だ。
風が吹くと庭の木々や壁のツタの葉がザワザワと音を立てて不気味な雰囲気を醸し出している。
このお屋敷は少なくとも100年以上前からここにあり、草木が繁茂し半ば緑に埋もれてしまっている。
過去に何回も住人が変わって、そのたびに不幸な事件・事故が起こったため、呪われた館と恐れられ誰も住まなくなった。
さらに、所有するだけで呪われるとまことしやかにささやかれ、最終的に領主までもが所有権を放棄したため、この館は周囲の土地を含めて”空白地”となっている。
とは言え、住むのではなくちょっと訪問する程度では呪いらしき問題が起こらない事と、さらに不審者や危険な動物が住み着くことが不可能であるため、近隣の子供たちにとっては割と安全な肝試しスポットとなっている。
正門の脇にある通用口から忍び込んで、草の生い茂る馬車回しに分け入り、正面玄関にたどり着く。
「よし、いよいよだな」
「う~、不気味だなー」
鼻を膨らませてトビが、身を縮こまらせながらポールがささやく。
サラと僕は顔を見合わせて頷きあう。
トビが玄関扉に手を掛けると、ギギーっと音を立ててゆっくりと開いていく。
「「「「おお~」」」」
玄関ホールには色あせた絨毯が敷かれ、その真ん中には天井から落ちて壊れたシャンデリアが鎮座していた。
正面には二階への階段、左右には奥へと続く廊下が見える。
「ひゃぁ!」
突然ポールが悲鳴を上げる。
「どした!」
「何だ?」
「え?」
皆がポールの向いている方を見ると、闇の中にぼうっと浮かび上がる何かの姿が!
「鹿の
サラがさらっと正体を言いあてる。
「なんだ、脅かすなよ」
「だ、だって~」
トビがポールを小突く。
ポールは、体は大きいのに肝っ玉は一番小さかったりする。
年上の子供たちからの情報では、右側に食堂やキッチン、左側に応接室や書斎があり、二階は寝室や客室があるらしい。
おススメのコースは、1階右側→2階→1階左側だという事なので、右の廊下へ向かう。
ふとテオが玄関ホールから二階に続く階段を見上げると、立派なひげの生えた老人の幽霊を発見する。じっとこちらを見ている老人と目が合った気がした。
慌てて目をそらしてみんなについて行く。
食堂やキッチンを見て回り、時折上がるポールの悲鳴にびくっとしつつ玄関ホールへと戻る。
すると、廊下の先、玄関ホール側に先ほどの老人の幽霊が立ちはだかっていた。
当然、皆は気づかずにそのまま歩いていく。
(うーん、なんか嫌な予感がする。どうも僕の方をじっと見ているようなんだよな)
でも一人だけ立ち止まるのも変だし、無視してみんなに歩調を合わせて歩いていく。
なるべく幽霊と目を合わせないように、徐々に距離が近づいて、すれ違う寸前。
『おぬし、儂のことが見えておるじゃろ?』
と老人の声が頭の中に響く。
思わずビクッと身をこわばらせてしまった。
(あ、しまった)と思ったときにはもう遅く、老人の幽霊がニヤリと笑みを浮かべていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『いや、すまんな。怖がらせてしもうたかの。危険はないから安心せい』
老人の幽霊は僕の隣を歩きながらそう話しかけてきた。もちろん声は耳からではなく頭の中に直接届いている。
(いままでたくさん幽霊をみてきたけど、話しかけられたのは初めてだぞ!何だろう、この幽霊は?)
お話してみたいけど今はみんなもいるしなぁ、と思い幽霊とみんなの間で視線を往復させていると。
『なるほど。その者たちには隠しているのか。おぬしとはゆっくり話をしたい。どうじゃろう、近いうちにまたここに来られるか?』
こくりと頷く。
『そうかそうか。ああ、次は昼間に来るがよい。夜に家を抜け出しては親御さんが心配するじゃろうからな。ではな、待っておるぞ』
幽霊は嬉しそうにそう言うと、スーっとすべるように屋敷の奥へ飛んでいった。
(すごい!すごいぞ、初めてのしゃべる幽霊だ!)
僕は肝試しそっちのけでワクワクしていた。
その後は、館のあちこちにある動物の
「ちぇ、結局なんにもいなかったな」
トビがつまらなそうに言う。
「何もいなくてよかったよ~。早く帰ろう」
「そうね、これ以上は親にバレるかもしれないし帰りましょ」
肝試し終了の空気が流れる中、僕は鹿の
何やらこっちをニヤニヤと、まるで子供がいたずらを仕掛ける時のような表情で見ている。
すると、鹿の
「え?」
思わず声が漏れた。
他のみんなも僕が見ている方へ目を向け。
「な、なんだあれ!」
「ひぃぃ!」
「嘘でしょ!」
鹿がゆっくりと動き出し、奥の階段の方へ歩いていく。
「うへぇぇー!」
ポールが絶叫しながら玄関扉に飛びつき、一気に引き開けて外に飛び出していった。
あまりの素早さに一瞬あっけにとられたものの。
「おい、待てって!」
「一人じゃ危ないよ」
と言いながらトビとサラも後を追っていく。
僕が老人の方を見ると、晴れやかな笑顔を浮かべ『少年、また来るのだぞ』と声が聞こえた。
「はい。それではまた」
僕は苦笑いを返し、みんなの後を追った。
この後が大変だった。
ポールがギャン泣きして、なだめている間に自警団の巡回に見つかってしまい、夜に子供だけで出歩くとはけしからんと説教された。
さらに、家に送り届けられて親に引き渡され、親からも説教をくらうというコンボ。
さんざんな目に遭ってフラフラになりながらベッドに倒れ込んだ。
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