見習い死霊術師編

弟子入り

第1話 肝試しに行こう

僕の名前はテオ。

貧乏でも裕福でもないごくごく平凡な一家の息子で、今年で8歳になる。栗色の髪に濃茶の瞳で、ごく普通の顔つき。

神童と言われるほど優秀ではなく、落ちこぼれと言われるほど劣っているわけでもない、あまり目立たない男の子だ。


でも、そんな僕には家族以外にはナイショにしている秘密がある。

「おっと」

足元に青白い淡い光がスーっと過ぎり、思わず避けてしまった。

「テオ、どうしたの?」

隣を歩いている幼馴染みのサラが不思議そうに問いかけてくる。


サラは、緩いウェーブのかかった紅い髪をポニーテールにまとめ、緑の瞳がくりっとしてて、快活そうな顔つきをしてる、そこそこの美少女。2つ年上で、近所の子供たちのリーダー的存在であるしっかり者だ。


「あー、いや。剣術の練習?」

「はぁ?いきなり、こんなところで?」

サラが残念な人を見るような目でこちらを見る。

ふぅ、なんとか誤魔化せたか。

僕がちらっと後ろを見ると、さっき避けた青白く光る猫っぽいモノが道を横切って路地の方に歩いていくのが見えた。

道行く人々はソレに注意を向けず、避けようともしない。

「テオ?」

「何でもない」

少し遅れていた足を速め、サラに追いつく。


サラと他愛のないおしゃべりをしつつ周囲に目をやると、数軒先の家の前に今度は人型の青白く光るモノが見えた。

道の反対から歩いてきた人はその人影に気付かずにぶつかる、と思った瞬間何事もなくすり抜けてそのまま歩き去っていった。


そう。どうやらこの青白い光るモノは僕以外の人には見えもせず触れもしないらしいのだ。

僕はこれをおとぎ話に出てくる”幽霊”だと考えている。死んだ人の想いが精霊の力によって形を得て親しい人の元へ帰ってくる、というアレだ。

まぁ実際には人だけじゃなく猫やネズミなどの動物の幽霊も結構見かけるけどね。


親の話によると、僕は生まれつき人には見えないモノが見えていたらしい。何もない所を目で追ったり触ろうとしたりしていたそうだ。

僕が言葉を話せるようになると、両親はその事実を確認できた。不安に思った両親は何人かの信用できる人物に相談したが有力な情報はなにもなく、実害がない限り気にしすぎない方が良いと諭された。

結果、僕に「それは他の人には見えていないから、あなたも見えないふりをしなさい」とることにしたそうだ。

そのおかげで、僕は奇異の目にさらされることなく、平穏な生活を送ることができている。今の所、よそ様にはバレていないはずだ。


「でね、トビたちが肝試しにお化け屋敷へ行こうって言ってるんだけどさ、どう思う?」

並んで歩くサラがそう尋ねてくる。

「うーん、お化け屋敷は呪いが危ないから近づくなって言われてるよね」

「そうだけどさ、今まで何も起きてないよね。肝試しは伝統行事みたいなもんだし」

「まー、確かにね」


この肝試しというのは、お兄さんお姉さんたちの世代からその話を聞きつけてきた奴が言い出しっぺとなり「次は僕らが!」という感じで代々受け継がれてきた。子供たちの伝統であり、ここいらの子供たちならば必ず一度は通る道だといわれている。

これに参加しなかった奴は”意気地なし”のレッテルを貼られて肩身の狭い思いをする、と言う話も聞くので参加しないという選択肢はない、のだが…

「でもさ、町で行方不明になった人たちがお化け屋敷に飲まれたんじゃないか、って噂もあるよね」

ここの所、町で何名か行方不明者が出ていて、それとお化け屋敷を結びつける噂が流れているという話を家族から聞いていた僕は、少し不安になったので言ってみた。


「あー、その噂って全然根拠なかったよ」

それを聞いたサラがきっぱりと断言する。

「え!もしかして調べたの?」

「もちろん!噂話に関しては任せてよ」

とサラはドヤ顔だ。

確かに、サラは噂好きなだけでなく情報収集にも秀でていて、「なんでそんな事知ってんだよ」といつも驚かされる。


「なら大丈夫かな。僕も行くよ」

「じゃあ決まりね。テオと私も参加ってことで」

「うん」

「それじゃ早速トビ達と詳しいこと話しましょ」

そうして僕たちは肝試しの計画を立てることになった。


まさかあんなことが起こるとも知らずに…


いやウソです、ちょっと思わせぶりなことを言ってみたかっただけです。

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