ワンピースを着た女
はるや
ワンピースを着た女
洗濯が終わる15分前に柔軟剤を入れに行かなければならない。厚い雲に覆われた朝の空は暗く、外はほんの少しだけ涼しい。一人暮らしになって洗濯する回数が減ったのに、こんな日に限って、曇りがちであるなと感じる。
ロックを解除し、柔軟剤を入れた。残りの時間を待たなければならない。コインランドリーの特徴ある臭いから逃れるようにして、外にある椅子に座った。通勤中のサラリーマンや登校中の小中学生たちが忙しなく右から左へ流れていく。思考は停止中で、ぼーっと流れを眺めていた。
ふと、彼らの行く方向とは逆に進んでくる綺麗な黒髪の女性に気づいた。同じ夏を過ごしているとは思えないほど肌が白く見える。猫背で背が丸まっており、下を向いていて表情はわからない。白いワンピースの華やかさはすっかり消えて、少し夜の香りを纏い、くたびれているように見えた。
ゆったりと、彼らの間を抜けて、私の少し前を過ぎ去り、消えていった。一日を始めようとするもの、一日を閉じようとするもの、そのコントラストに心が奪われ、去りゆく姿を眺めていた。
昨日に閉じ込めてきた何かが、夜を越えてこの世に生まれてしまったような気がした。
小さな頃は、一日一日で何かを覚えて帰ってきた。何もしてない日は無かった。しかし、今では過ぎる時間に身を任せ、共に流れていくような生活を送っている。時折、振り返ると、何も積み上げていない日々に気づく。後悔の念に苛まれる前に、感情を押し殺して眠る。翌日には、忘れている。
ずっと心の片隅に抑えていた感情が湧いてきた。
気づけば、洗濯は終わっていた。干し終わったら、今日は文を書こうと思う。
ワンピースを着た女 はるや @nofriends999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
O-Sunの心ついったー最新/O-Sun
★10 エッセイ・ノンフィクション 連載中 586話
音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集最新/酒井小言
★25 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3,115話
見守り日記最新/みずえ
★11 エッセイ・ノンフィクション 連載中 88話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます