二ホンオオカミのテツ 🐺

上月くるを

第1話 プロローグ



 ニホンオオカミは、もうずいぶん長いこと、ひとりぼっちでした。🐺🌠🌙🍃


 オオカミの周囲から、ふざけ合ったりガサゴソ動きまわったりする気配が消えて、どれくらいの歳月が過ぎ去ったのか、オオカミにはわからなくなっていました。


 オオカミは、自分がテツという名前だったことすら忘れかけていました。

 あまりに長いこと、だれにも呼ばれず、だれをも呼びませんでしたから。


 オオカミは、ときどき、骨がキシキシ鳴るようなさびしさを感じました。


 峠のうえに出たおぼろ月に、なつかしい家族の面影を追ってみる春の宵。🌕

 シャクナゲの花びらにひと粒のしずくをのせ、最後の星が消えた夏の朝。🌸

 落葉を踏む自分の足音に、思わずハッとふりかえってみる秋のたそがれ。🍁

 吹き荒れる木枯しに背中をなぶられながら、丸くなって眠る冬の夜ふけ。❄


 冷たくて堅い孤独は、オオカミを容赦なくカリカリと噛みくだきました。

 オオカミはもはや何のために生きているのかわからなくなっていました。

 胸の奥に巣くった虚しさの糸を、細く長く吐き出しながら、オオカミは、

 

 ――ああ、ぼくは、ひとりぼっちだ。💦

 

 よろめくように思いました。(ノД`)・゜・。

  

 オオカミがいまここに生き、悩み、考え、感じ、とまどい、さびしがり、寒がり、腹をすかせ、怖がっていることを、だれひとり、知っていてくれないのですから。


 これでもぼくは、生きているといえるだろうか……。

 

 ――ウォ~ン、ウォン、ウォ~ン。

 

 オオカミは真っ赤に潤んだ目で夜空を見上げ、悲しげな声をふりしぼりました。


 いつもの夜にも増して、満天の星ぼしはあんなにも楽しそうにさんざめいているというのに、今宵に限って、月はなぜか、そのかけらすら見せてくれないのです。🌟🌟


 オオカミの遠吠えは、山の木々をふるわせ、谷を這い、崖にぶつかって、いましも眠りにつこうとしていた森の動物たちの耳をいっせいにピクピクそばだたせながら、銀の砂をザッと撒いたような天の川の星くずに、虚しく吸いこまれてゆきました。🌌

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