第六話 事故が事件に変わる意味

 ADAMについて、何の手がかりも見つからず無駄に二週間もすごしてしまいました。ですから、路線を変更しまして、本当に貴斗達のあれが事故ではなく事件でありますと言う裏づけをする事にしました。

 どの様な経緯で貴斗と詩織君が転落死へと至りましたのかは麻里奈から教えてもらって居ます。

 弟は帰国後、記憶喪失に陥ったようで、その状態で詩織君と恋仲になりまして、三年間を過ごしたそうです。ですが、貴斗が被害を受けましたある交通事故により、記憶が戻ったらしく、体調の回復後、詩織君との仲を無効にしまして、他の女の子とお付き合いする事にしたらしく、彼女は弟の新しい恋人に苛烈なまでに嫉妬して仕舞ったらしく、その女の子を手に掛けてしまったとの事でした。

 昔から弟に強く依存していました詩織君でしたから、その貴斗の新しい恋人に激しく嫉妬する事も理解出来ます。しかし、彼女がそれを理由に人を殺して仕舞うほどの悪鬼で有る筈がないのです。

 まあ、それでですね、その女の子を死に至らしめてしまいました詩織君をFRCのあの屋上で貴斗が更に精神的に追い詰めて仕舞ったらしく、麻里奈には申し訳ない事をしてしまいましたが、この前、私がその屋上で体験した様な状態になり、二人とも・・・、落下。

 二人の転落に第三者が介入していたと言います事実は有りませんし、現場には第三者によります犯行の形跡はありません。

 それは麻里奈の調査によるものですから信じない訳には行かないでしょう。ただ、彼女は私に教えてくれなかったことがあります。

 それは二人の死後報告されました、死亡検証報告。弟も年下の幼馴染も身体内で何らかの拒絶反応が起きた時に分泌されます物質SA(Stimulation Acid)が検出されたとのことでした。

 二人とも完璧な移植と言いますものを受けていたようですが、その臓器がその時、その瞬間、何らかの因子が拒絶反応を引き起こしたのではないのかと、推測することが出来ます報告でした。しかし、一つだけ気がかりな事があります。

 貴斗と詩織君がRFCの屋上で逢うまで、彼女と会っていましたのは八神慎治君だそうです。

 彼が何らかの形で関与しているのではと勘ぐってしまいますし、彼がその場に留まっていたのなら二人をその様な状況に導かなかったやも知れません。

 ですから、彼が態とその場を去ったと仮定しまして、彼を疑いまして、その路線で調査するのも一つの手ですが、その様な方針で事を進めて行きましたら、麻里奈は一生口を聞いて呉れそうもありませんし、妹の翔子、彼女の親友で有ります八神佐京。

 その弟をその様な目で見ましたら、翔子に私のこの二度目の命を詰まれて仕舞うかも知れませんので、この考えは二度と浮上させない方が私の身の為でしょう。

 香澄君は二人を追う様に入水。

 私から見えます香澄君にとって貴斗と詩織君の存在は絶対条件。

 その二人がこの世界から旅立って仕舞ったのです彼女の心理状態から二人と同じ場所へ向かおうとするのもおかしくは無いのでしょうが・・・、だれか、彼女のその心を此方へ留めて下さる方は居なかったのでしょうか?それだけが心残りです。

 原因を麻里奈は聞かせて下さいませんでしたが何らかの影響で失意に陥りました宏之君は失踪し、発見されたときは心不全で無くなっていたそうです。

 それから、どの様な子なのか知りませんが涼崎春香君、貴斗の新しい恋人になった方で、なんと元、宏之君の彼女だった方だそうです。

 彼が失踪した理由はそこにあるのかもしれませんが、当人の心が見えるほど私は神様ではありませんので答えを見出します、推論すら立てられません。

 涼崎春香さんの事情も複雑で、概要だけを述べれば悲惨な事故に巻き込まれまして、幸運にも軽症ですんだようでしたが、理由知れずの長期無覚醒状態。

 三年と言います年月が経ちまして、やっとの事で目を覚ました彼女。

 どの様な顛末でその彼女は貴斗と恋仲に成られたのか誰も教えてくれる方は居ません。しかし、それが災いしまして、詩織君に・・・、・・・、・・・。

 涼崎春香君の妹で翠君といいます方が存在します。その彼女は現在、六年前、貴斗達の死後、一月も経ちません内に遭遇しました交通事故により今も目を覚ますことなく、病院のBedの上で時間を過ごしているそうです。

 不幸にも、翠君のご学友も一緒だったらしく、その方もまた同じ様な状況だそうです。

 香澄君、詩織君、貴斗、宏之君の四人はADAMに関係しており、春香君、翠君の涼崎姉妹と八神慎治君に関してのADAMに係わります情報は見つかりません。

 さて、今、整理しました情報から、ADAMに関連する事は簡単には行きそうもありませんので調査を行えそうな事柄は事故といいます記録が残されているそれです。


 私の目覚めから涼崎姉妹の事故から何か糸口が見つかると良いのですが、今は出来るだけ多くの情報を揃えまして、また、整理し、どの様に進むべきなのか決定する事にしましょう。


2011年2月19日、 土曜日

 今日は珍しく、土曜日にUNIOの任務がありませんでしたので、六年前の涼崎翠君とそのお友達であります結城弥生君と言う方が事故に遭遇しました場所。

 現場検証のために我が藤原親族が十割出資しております系列学園の一つ、聖稜学園高等部。

 その帰路、下り坂の終わり立ちまして周囲を一望していました。見通しの良い幅広の大通り。

 交通量は時間帯による変動がありまして学生等の下校時は通常でしたら行き交います車両は多く、通行人の方々も歩行に注意を払っていることでしょう。しかしながら、当時、彼女達が下校していました頃の道路状況はといいますと珍しく、走行する車が無かったそうです。

 理由は付近の道路を封鎖してまで行わなければなりませんでした公共事業が有ったからだそうです。

 その事業に付いてもどの様な事が行われていましたのか調べは付けてあります。

 なんでも、この地下を奔ります地下送電線の損傷と都市ガス線の配管に亀裂がありまして、放置していましたら大事故に繋がると判断しました三戸特別区都市開発機構は即急に対応との事で年始早々、その作業を開始したそうです。

 その工事の物資を運搬しておりました大型輸送車が彼女達を不幸にも襲ったとの事。

 事故を起こしてしまいましたその車両を運転して居た男性の方は連日の輸送の疲れで居眠り運転をして仕舞ったとの事で急に飛び出してきた彼女達を撥ねて仕舞ったとの事でした。

 運転手も撥ねた事に気が付かずに眠ったまま前方の建物に激突し、大怪我を負ったようでした。

 幸いと言ったらおかしいのでしょうが大抵の大型車両の交通事故の場合撥ね飛ばされるよりも、撥ねて仕舞った後に想像をしたくありませんが、車輪に巻き込まれて仕舞いまして、ぐちゃりとなる事が多いらしく、二人の様に助かる事は少ないと知り合いの交通課事故処理班の方が教えて下さいました。ですが、植物人間状態の彼女達を助かったと言葉にして良いものかと疑問に思うのですけど。

 隣には詰まらなそうに小さな欠伸をします麻里奈。

「麻里、詰まらないのでしたら、無理して私に付き合う事はありませんよ。家でゆっくりとVideo gameでもしていれば良いでしょうに」

 私はいつもと変わらない表情で、麻里奈へそのように伝えますと、彼女は余計に不機嫌な顔を私に見せながら、

「本当にリュウは鈍感なんだから、確かに私がここでリュウにして上げられる事が無くて、詰まんないけど、リュウリュウと一緒じゃ無くて、一人で家に篭っているほうがもっとつまらないのっ!ほんっとぉに、兄弟揃って彼女の心を分かって呉ないんだから。詩織ちゃんが貴斗君と付き合っていて気苦労が耐えなかったのが良く分かっちゃうわよ」

「どうも、すみませんでした、女心が理解出来なくて。ですが、麻里の今の一言、訂正させて下さい。確かに私は貴女に対する配慮が足らないかもしれませんが、これでも色々と努力はしていますし、弟はとても相手の心に敏感で、常に相手優先で行動していたはずですから、恋人となった詩織君に対して私と同じような態度を取るとは思えませんが」

 貴斗の性格や行動を思い出しながら、その様に返答を述べましたが、麻里奈は『知らないのは当人だけ』と言います仕草を見せて下さりながら言うのです。

「話したでしょ?貴斗君と詩織ちゃんが恋人同士だった三年間、ずっと貴斗君記憶喪失だったって」

「それが何か?・・・」と口にしましたが、直ぐに麻里奈の伝えたい事を理解したのです。

「もしかしまして、記憶喪失のせいで、その時の貴斗の性格が、昔の私に似ていたとかでしょうか?」

 麻里奈は正解ですと申しますように、誇らしげに大きく頷いて見せて下さいました。

「貴斗君、記憶喪失成り立てで、表情が乏しかったときは、誰かさんに似ていたし・・・、詩織ちゃんとリュウの弟君、お互いに成長して行く二人を見ていたらとっても嬉しかった。二人のやり取りを見ているのは面白いんだけど・・・。でも、やっぱり詩織ちゃんとっても大変そうだったわよ。昔の私達って、端から見るとそんな感じだったのかなっても思っちゃってもいたわ」

「申し訳ございませんでしたね。麻里奈に負担ばかり掛けさせてしまいまして」

 私は全く思っても居ないことを平気で口に出して言うのですが、彼女に見透かされて仕舞いまして、『はいはい、その言葉を聞く事が出来るだけで満足よ』と呆れながら言われて仕舞う始末です。

 当時の状況を覚えていそうな近隣の住人が居れば良いのですけど・・・?私の従妹に当たります瀬能綾君、瀬能家が務めます八嶋神社。

 それがこの辺りにあります事を思い出しますと、自然にそちらへと足が動き出しました。

 麻里奈の傍を離れますように歩みだす私へ、彼女は直ぐに追いつきまして、腕に彼女の腕を絡め、身を寄せて来ました。

 あまりべったりと寄り付かれますと歩きにくいのですが、何も彼女へ言わずして、神社へ向かったのです。

 それから、大よそ十五分。長く低傾斜であり、冬の寒さにずっと耐えているように見えます葉の有りません木々、連鳥居の間を通ります階段を登り終えますと、そこにはお掃除がよく行き届いている風の立派で広い境内が見えてまいりました。

 広場の奥の方には白の表着と緋の袴を纏いまして、箒を粛々と動かしております方がいました。

 遠くに見えます方なので実際の身長がどの程度か、はっきりと分かる事では有りませんが、周囲の物の大きさから察しますと、百七十は超えているでしょう方です。

 私達の来訪をお気づきになりましたその方は此方に振り返りまして、腰元まで伸びます長い髪を嫋やかになびかせました。そしてその方は私どもの方へ、それなりの速さで近づいてきます。

 徐々にその方の表情、輪郭がはっきりとしてまいりました。

 聡明そうで穏やかな眉。

 日本人では明らかに珍しい美しい紅玉を思わせます虹彩を持ちます目元の垂れております相貌。

 私の記憶の中にあります方に該当します表情と少なからず一致していますその方は私達の前まで来ますと、『パシンッ』と何事かと思わせますような破裂音を響かせたのでした。

 その音の原因は私の頬が力強く打たれたからでして、その目の前の人物の行為。

「ちょっと、いきな私のりリュウリュウに何するのよ」

「藤原家の縁の物ではありません麻里奈様にはご関係のない事ですの。龍一様、この様な場所で一体何をしているのですか?貴方様がお勤めしなければなりませぬ責務を果たさずしてですの。龍一様がしっかりとして下さらないから、臣彌兄様も達哉ちゃんも麻弥ちゃんもここを離れまして、藤原家の一企業の中で働かなければいけなくなって仕舞ったですの」

 綾君は私の姿を見て驚くよりもまず、私が家督を継がない事に憤慨しているようでした。

 身長170cmを超えます彼女、腰に握りこぶしを当てまして、私に虹彩の綺麗な瞳を見せ、怒った表情を見せます彼女へ、

「私には家督を受け継ぎます才覚はありません。ですが、若し、それをしなければなりませんというのでしたら、今私の行っている事を成し遂げなければ、一歩も前に進めないのです。いま抱えています私の中の問題を有耶無耶にしたくは無いのです。ですから、いまはその為にも私のそれが成し遂げられますようにご協力下さい、綾君」

 私の未来を見透かしますような瞳で従妹は怒っています表情を和らげまして、柔和でおっとりしました顔に戻してくださいました。

「そのお言葉信じて宜しいですの?でしたら分かりましたの。綾の知っている事をお話ししましですの。龍一様はどの様な事をお聞きしたいですの」

 従妹の〟ですの〝語尾は変わらずの様でありまして、しかしながら、その口調に違和感を抱かないのは何時も不思議に思うことでした。

「もし、綾君が覚えていらしたらですが、2005年の一月の十一日目、火曜日の事です。三戸駅南口の大通りで人身事故がありました事を知っているでしょうか?」

「それは涼崎翠様と結城弥生様の事故のお話しですの?」

「ええ、それです」

 私は小さく頷きながら、その様に同意いたしました。麻里奈は聞く気がありませんようで境内の中の散歩の出かけて仕舞うのでした。

 その事故、第一通報者は結城弥生君の兄であります将臣君と言う方なのですが、もう一人、この瀬能綾君も。

 彼女はその時の事を克明に教えて下さいました。

「何か、不審思うような点はなかったのでしょうか」

 綾君のお話しして下さいましたことの中に何か見落としがありませんか、双眸を閉じまして探るような姿勢を取ります彼女。

「・・・、特に有りませんですの。ですが・・・、・・・、・・・

あれはとても偶然の事故とは思えませんですの」

「それは何らかしらの故意が含まれていたと言うことでしょうか?」

 私の問いかけに彼女はゆっくりと頷いて見せました。そして、更に、

「人々は夢を叶えますために、幸せになりますためにずっと努力して来ましたの。ですが、時にはその夢が一個人の運命を狂わすこともありますの・・・、それがどの様なことですのか良くお考えになって欲しいですの・・・」

 日本は太古の昔から国政に行き詰まりましたときに託宣といいます方法を執って来ました。

 この現代になりまして、科学立国と名を馳せるような国になりましてもそれは続いています。

 この国には国家お抱えの託宣師と呼ばれる方が数名おりまして、この神社の禰宜の総代がそれに当たります。

 私の叔母、麟はその才があるという事でここへ嫁ぐように乞われたのでした。

 財界に大きな影響力をもつ神社の官職と縁を繋げられるのでしたらと祖父もそれをお許しになったようでそして、その叔母の血を受け継ぎます綾君。

 彼女もまたその天賦があるのでしょう。

 本当に未来を見ることが可能なのか、それとも卓越しました情報収集能力とその集約した情報の解析からもっとも良い判断を選び神託としてお語りするのかは分かりませんが、彼女の頷きました事と最後の語りかけを否定したいと言います思いは不思議と沸き起こって来ません。

「龍一様、貴方は稀な才をお持ちの方ですの。この世界のあり方、進むべき道標を築き上げられますほどの才能ですの。ですが、いまの貴方様はその才を態と埋もれさせて仕舞っていますの。その龍一様の才の高みに周りの方々が着いて行く事が出来ませんこと、孤独と他の方々様からの疎外を恐れていますから」

「綾君、貴女のその言っている意味が分かりかねますが。それに人一人で世界の情勢を変えられるほどこの世界は単純でも簡単でも無いですよ」

 私の返答にまた見透かすような姿勢と瞳で綾君は言葉を続けました。

「はい、龍一様一人ではむりですの」

「先ほどとは矛盾した事を口にしますね」

「お分かりになっていますのに、龍一様。貴方様のお力と、今の貴方様と共に歩もうとする方々、そして、それに連なる皆様とならですの。

龍一様、今は亡き貴斗様、詩織様や香澄様達が思い描きました未来を。

貴斗様が龍一様に、龍一様に笑顔を絶やさないで欲しいと願いました誠の理由をお考えくださいですの」

 従妹はその様に言葉を締めまして、にっこりと私へと微笑むのでした。

 それに対します私の返答は、面の鼻元辺りを左の人差し指と中指を添えますような感じで、掌で覆いますと、

「善処はして見ましょう。ですから、綾君、なにか私の望む情報が手に入りましたらご提供下さい」

 周囲を見渡しますと、遠くの方で暇そうに市街を眺めています麻里奈が見えました。

 私がそちらに向かおうと体を反転させようとしました頃に従妹は何かを思い出しましたようなはっとした表情をお作りになりました。

「綾君、どうかなさいましたか?」

「随分昔の事でしたので、今回の龍一様がお調べになられています事と関係が分かりませんの。ですが、麟お母様が事故でお亡くなりする数日前ですの。綾に『もし、私が事故でなくなるような事がありましたら、美鈴さんに今の研究を中止するようにお伝えして下さい』と、ですの」

 なにやら、死ぬことが分かっていまして、綾君に託をしますような、麟叔母様の言葉。

 母の研究とは本当にどの様なものでしたのか知って置くべきだと判断するに値する彼女の言葉を聞けました私は、綾君に礼を述べ、麻里奈の処へ歩みだした。

 時計を覗きますと十二時半を指す直前でした。

 麻里奈を誘いまして近くの喫茶店トマトといいます香澄君の親戚が経営しております飲食店へと二十年ぶりくらいに足を運ばせていただきました。

 喫茶店トマトの処まで来ますと、喫茶店トマトと大きく掲げられています看板が立っていました。

 ですが、もうそこは私の知っているお店、喫茶店ではなく、Restaurantとお呼びして良いほどの大きさになっていました。

 今まで隣にいました麻里奈は、陽気な表情を作っています。

「ケェ~~~キ、ケェーキ」

 嬉しそうに小さく口にしながら、中に入って行くのです。

 私の知っていました二十年前のこのお店は紅茶と手造りcakeとお昼時だけ食事を出すお店でした。

 さて、今はどの様になっているのか興味深いところです。

 ここのcakeと紅茶の味は格別ですから。私は心の中でその様に思いながら先に中に入って行きました麻里奈を追ったのでした。


2011年2月20日、 日曜日

 綾君に会った翌日、私は春香君の事故の検証のためまた、その付近にあります百貨店の屋上へ訪れていました。

 本日も昨日と変わらず、麻里奈が一緒でした。

 当時と今の立っております場所から眺められます風景は殆ど変わっていませんことをFenceに寄りかかりまして、私とは別の場所を向いています麻里奈が教えて下さいました。

 普通に入手しました当時の事故、その原因はこの三戸で暗躍します外国籍のMafiaと地元の暴力団の抗争によりますものだとなっており、外から持ち込まれた未知の新種の麻薬を広められないようにとその阻止を謀った時に起きた事故で春香君はそれに偶然巻き込まれて仕舞った事になります。

 薬を輸送する小型輸送車が暴力団員の放ちました拳銃の弾丸に被弾し、起きてしまいました事故。

 その使用した拳銃がその暴力団事務所から見つかったとの理由だけで事故の片を付けてしまいました警察。

 使用されました拳銃の形式はピエトロ・ベレッタ社製M92、有効射程五〇m。

 実際に押収されました物を見せていただきました。

 たしかに、M92でしたが、正式にはM92 Long range customです。

 銃身を長くしまして、掃射されます弾丸の軌道安定と飛距離の向上が図られました稀な物でした。有効射程は約一二〇mです。

 私はDepartment storeの屋上から、実際に車が転倒した位置を眺め、ここからの距離を測って見ました。

 難しい計算など必要ありません。私の経験則から大よその距離を瞬時に弾き出してくれます。

 一〇〇mあるか、ないかです。しかしながら、仮令、使用拳銃の有効射程内ですからと言いまして、動く標的の車輪だけを狙い打つことなど、誰もが出来ます芸当ではないのです。

 飛距離が伸びれば、伸びますほど、ほんの僅かなぶれで、着弾点は随分と変わってしまうものですから、暴力団員程度の力量でその様な事が出来るとは到底思えません。

 その様な芸当が出来るとしたら、ある漫画の主人公くらいでしょうか・・・。え?私ですか。さあ、どうでしょうか・・・。

 私も自ら集めました情報の分析によりまして相当の手練れの方が二つの組織を貶めます為に画策した事件の様に判断しております。

 第三者の介入があったに違いないと。

 当時から事件を追っていましたのなら、その第三者に繋がります情報も手に入ったでしょうが、今となっては困難極まりないことです・・・。しかし、難しいからと言いまして諦めませんがね。

 これからの捜査対象に含めて置くべき事項です。ですが、まだこれだけでは、貴斗達が誰かの手によりまして殺害された物だと決められます証拠にはなりません。

 何か、もっと、決定的なつながりが必要である事は言うまでも無いのです。

「麻里、お昼にしましょう」

「じゃぁ、今日もトマトにしよっ」

「また、洋菓子がお目当てですか。私もトマトのそれは嫌いではありませんが」

 柔和な表情でお答えしながら、麻里奈と並び、そのお店へと向かったのでした。


2011年2月27日、 土曜日

 更に一週間が過ぎましてUNIOの仕事で外交調査のために単独で行動していましたときに事前に調べて起きました祖父と妹が同じ場所に居ません時間を見計らいまして、祖父へと接触していました。

 高齢ながらも人前に立ちます祖父は威厳と行動力に満ちて居るように見えました。

 人の上に立つに相応しいその姿。

 その様な祖父を持ちます私はその事に昔から誇りを持っていました。

 今もお変りがありませんそれを拝見する事が出来ましてとても嬉しく思います・・・、と祖父の感想を述べている場合ではありません。

 会議が終わり、秘書を隣に静かに茶をすすって居ます祖父へと近づきますと彼が私に気付きまして、言葉をくださるのでした。

「龍一か・・・、私の後を継ぐための見物でも来おったのか。・・・、・・・、・・・、その様子じゃと違うようじゃな。悲しいことじゃのぉ」

「ええ、その年でもその洞察力のすごさ。尊敬しますよ、洸大爺さん」

「褒めてくれても、何も出しちゃやらんよ、儂の会社の重役の席以外は。・・・、・・・、美智子君少しばかり席を外してくれんか?」

 祖父のそれを聞きました秘書は軽く、私と祖父へお辞儀をしますと、静かな足取りで会議室を退出して下さいました。

「で、どの様な話しでここに来たのじゃ、龍一よ」

「時間が惜しいので率直に聞きますので隠さず、答えて下さると助かります。ADAMについて」

 祖父は見透かすような鋭い視線で、綺麗に整いました長めの顎鬚をさすりながら、私から視線を逸らし、窓から見えます遠くを望んでいました。

「儂の息子、龍貴の研究の一環で儂の会社の企画であったそれと・・・、美鈴ちゃんの研究もそんな計画名だったような気もするが、科学重工から、研究施設と多額の研究支援金を出資してもいたのじゃが、どの様な研究だったのか儂は一切関与しておらん。おぬしも知っておろう、我が家系男子、一人たりとも医療生化学系に疎い事を、儂の息子、龍貴。孫のお主も、無論、儂もじゃ」

「その様ですね。私も、母が生命工学の権威と知って居ましても、まったく興味を持たずに父の研究に興味を持ちまして、そのお手伝いをさせて頂いたくらいですから・・・、で、その母が立案した計画と言いますのはまだ続いているのでしょうか?」

「うむ、今も続いておるようじゃぞ、施設は動いておる。その研究成果は十五年前に新しい事業として展開した藤原医療総研(FMDF=Fujiwara MeDical Factory)に大きく、貢献してもらっているようじゃからな」

「そうですか、でしたなら、その施設の運営状況と人員名簿をお見せいただきたいのですが」

「なぜ、そんなものが必要なのじゃ?お主は今の所、わし等の所へは戻ってくるつもり無いんじゃろう?その様な物を調べて何に使おうと言うのじゃ」

「すべての謎が解けたら、爺さんにもお教えしましょう。探している物が確証するまでは余計な混乱を招きたくありませんので、今は何も聞かないでください」

「しょうがないのぉ、可愛い孫のお願いを聞かないわけには行かぬか・・・、と言いたいところなのじゃが、さっきも言ったように我が家系の男子は医療生化学系に興味がわかないのでな、美鈴ちゃんが居た頃は彼女が全ての指揮をしていたしじゃな、美鈴ちゃんが居らん様になってからは、代理で暫く、セレナーディアとう女史でな、美鈴ちゃんが妹以外で一番仲良くて、信頼していた同僚が運営を引き受けてくれてじゃな・・・、今は医療部門の会長に就任した・・・、翔子じゃ」

 最後に耳にしました名前で私は、顔を隠しまして悩みました・・・。

「爺さん、ご存知の通り、私はどうも翔子と反りが合わないようです。その資料、洸大爺さんから、妹に準備していただくようお願いしていただけ無いでしょうか?」

「いやじゃよぉ、色々とどうして、その資料が必要なのか聞かれるであろうし、翔子を騙して、頼みたくも無いぞ。翔子はまめじゃから、やる事が細かくとのぉ、今はその細かさがいっそう強くなって、融通も効かんのじゃよ、誰かのせいでな」

 祖父洸大は最後の言葉を述べました後、ちらりと私の方へ目を向けていました。祖父の言葉に出しました『誰のせい』とは、間違いよう無く私の事でしょうね。

「では、その研究に今も携わって居ます、方、誰かご存知無いでしょうか、爺さん」

「美鈴ちゃんの妹の美奈ちゃんとその旦那の司じゃよ」

 美奈叔母様ですか、都合がいいです。柏木夫妻とはお会いして、聞きたい事がありましたので丁度いいですね。

「柏木夫婦に会う事はだめじゃぞ。何せ、二人のお子さんを不幸にも亡くした所に、死んでいたと誰もが思っておったお主が、生きていたとあってはどんな感情になるか、わかったものじゃないからのう」

「そうですか?どのような事態になるかはお会いして見なくては分からないでしょう。シュレディガーの箱の中の猫と一緒です」

「そう言うと思ったよ、まったく龍一はそこらへん、躊躇わず行動しようとする姿勢が龍貴と一緒じゃ、まったく」

「ええ、それは若い頃の洸大爺さんだってその様な振る舞いをして居なかったとはとても思えませが、何せ、同じ血筋ですから。では、私はこれにて失礼させていただきます。無理をしないようにして下さい。倒れられては翔子が心配するでしょうし・・・、無論私もですから」

 私はその様に別れの挨拶をしますと、会議室を足早に出ていました。

 腕時計で時間を確認します・・・、失敗しました。

 祖父との会話が予定より長くしてしまったせいで、十七時をさしていました。

 一階の出入り口付近、周囲を確認しまして移動します、人々に見知った顔がありませんか注意深く眺めますと、該当者がきびきびとしました足取りで、私が通ろうとします進路へ向かってくるのです。まだ、相手は私の事に気が付いていない様子です。

 何故、私がこの様な行動をしなければならないのかと、私自身、疑問に感じつつも素早く、身を隠せるような場所へ、さりげなく移動しますと、その方が通り過ぎるのを待ちました。

 誰から、私は身を隠したのですか?推理すれば簡単に分かることですよ。暇つぶしにでも考えて見て下さい・・・。

 私は祖父を迎えに来たのであろう、その方の背中を遠くで、見送りながら、外へと出ていました。

 もう、午後五時を過ぎて居ますので建物の外は街頭照明と行き交います車のHead lightが映えますような暗さになっていました。

 さて、私も東京に戻りまして、今日は内勤を勤めて居ます麻里奈が仕事を完了していないのであればお手伝いして上げましょうとその様な事を考えながらMotorcycleにのりまして、霞ヶ関のUNIO日本支部へと走らせていました。

 柏木夫妻から一体どの様なお話しを聞けるでしょう。

 事故を事件として、扱えます何か示唆するものと出会えるでしょうか?

 それとADAMと呼ばれますそれが一体どの様なものか明確になるのでしょうか?

 その答えは夫妻と会う事が出来るのであれば自ずと導かれることでしょう。

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