第五話 A D A M
十年ぶりの新年を麻里奈と過ごし、三日くらいから親しき方々へ、私の生存をお知らせします新年参りを始めていました。
UNIOの調査員に仕事なしで新年を向かえる事など稀でして、ほとんどの場合、任務を遂行している際に向かえますことがざらです。ですが、今年は年末年始にかけての仕事がありませんで、この様にのんびりと過ごしていました。
新年挨拶参りの私の姿は羽織袴、麻里奈は勿論着物です。
淡い色の翡翠色の着物がとても似合っていました。
ああ、そういえばですが、元旦の初詣の時、ご一緒していましたレイフィーナも着物を羽織っていましたね。
外国人であれほど日本の着物が似合います女性はそう居ないでしょうな程に似合っていました。
挨拶回り五日目の夕方、最後に訪問した場所の門に立ちまして、その前を眺めます私。
「ほら、何をためらっているのリュウ」
「躊躇ってなど居ませんよ」
和式門を開き、遠い玄関を目指しまして、そこに続きます庭をゆっくりと歩んで行く。
辿り着きました玄関の前にある呼び鈴を押しまして、家人に呼びかけました。
通用門が開錠されて居ましたので誰かが居る事は確かでしょう。
呼び鈴を押しましてから直ぐに備え付けられていますSpeakerから、
「どちら様にございましょうか」
丁寧で品があり馴染みの有ります声が私達へと伝わって来ました。
妹、翔子の物です。
私がまだこの家に居た頃は親族が訪問者の対応などする事はありませんでした。
使用人のお仕事でしたから。ですが、今は昔と事情が変わってしまって居ます。おっと、いけません妹の対応に答えませんと。
「翔子、貴女の兄であります藤原龍一ですよ」
「しょうこちゃぁ~~~ん、麻里奈も一緒よぉ~」
「少々、お待ち下さいませ。今そちらへ参りますので」
私独りで訪れましたら、無視されたでしょうけど、麻里奈が一緒なので、追い返される事はないようですね。
数分後、目の前の引きどの玄関が静かにゆっくりと開きますとそこには愛らしい私の妹が和服で姿を見せて下さいました。それから、妹は少し腰をかがめまして、足元に置いて降りました取手が付いています桶を持ちまして、その中にありました柄杓に水を汲みますと、静かに小刻みな足取りで私に近づき、柄杓を握りました手をゆっくりと高く上げたのでした。
この寒空の下、私の頭上から氷になる寸前の・・・、いいえ、氷の混ざっております冷水が降って来たのです。
理由は皆様もお分かりの通り、翔子の柄杓の中の水が私に掛けられていました。
妹のその行動に麻里奈は驚きもしません。
翔子の私に対するこの仕打ちに怒ったりはしません。
妹の行動に私の愛しき人は笑いをこらえていました。
何せ、麻里奈は私と翔子のどちらの味方に着きますか、と尋ねれば悲しいことですが妹を選ぶでしょう人ですからね。
妹のその行動に私も怒る事はありませんでした。
妹のその行動で彼女の中に鬱積しています物が少しでも晴れて下さるならと思います細やかな私の兄心です。
それに、桶に張って居ます水を全部掛けられなかっただけ増しと言うものですし。
「どうぞ、麻里奈様。それとそこの御付の方も、この敷居を跨ぎます勇気がお有りになりますなら、どうぞお入り下さい」
私には棘があります言葉に麻里奈は苦笑して、私よりも先に中へと進んで行きました。
私のこの実家の本館は全室和室。洋室は別館に少しばかりある程度です。
本館の客間へと妹に招かれますと、妹自身が座布団を出して下さいました。昔でしたら見る事が不可能な光景です。
「しばらく、お待ち下さい。洸大御爺様もおよびしますので」
待ちますこと、十分くらいでしょう私の祖父、藤原洸大と茶の道具を持ちました翔子が戻って来ました。
祖父の洸大が私と麻里奈の正面に用意されていました座布団へと静かに座り、私を眺める様な仕草を取りました。
今私の目に映ります祖父の姿、私の知っていました高齢でも茶目っ気がありまして溌剌としており、年齢を重ね、経験を積み増した威厳と自身の会社経営に誇りに満ちていましたあの頃とだいぶお変わりしていました。
翔子がお茶をたて始め、茶筌と茶碗のかすれる音が、静かな空間に響き始めました。
私の方から祖父へ、新年の挨拶を交わしまして、麻里奈もそれに続いてくれました。
祖父もそれに答えて下さいますように返して下さいました後、麻里奈の和服の着こなしを褒めて下さいました。
初めに立てられましたお茶が私の方へまわされた時に、祖父から言葉をくださるのです。
「のぉ、龍一よ。ここに戻ってくる気はないのか。麻里奈ちゃんと一緒に。みてみぃ、この広い屋敷に儂と翔子だけでは寂しすぎるのじゃよ・・・。翔子だけではちと力不足でのぉ・・・、お前にも会社の経営を任せたいのじゃ。いや、翔子、なにもお前を貶している訳じゃないぞ。周りの目がお前にきつすぎるから」
「大丈夫です、洸大御爺様の意をちゃんと判っておりますから。それにお兄様などいなくともやっていけます・・・」
「翔子も、この様に言っていることだし、わたしもまだ色々とありますので、その話しはまた今度あらためてしましょう。それに、才能が有ります人材なら幾らでも私どもの親族で経営します学校から集められると思いますが」
その様に口にしますと、翔子がきつく私を睨みました。
「・・・、確かに二人ではこの家に賑わいは欠けて居ますね。虎次郎叔父様や美鳳叔母様はまだ見つからないのですか?」
「生死すらわからんのじゃよ・・・」
「そうですか・・・、なら、どうせ、無駄なお金は無いでしょうけど、それでも一般よりはあるでしょうからまた使用人を雇えば良いでしょうに・・・」
私のその提案に祖父は何も答えを返しては下さらず、それから私はのけ者にされて仕舞い、麻里奈と妹、祖父だけで話しの華を咲かせて下さいました。
終始不機嫌でした翔子を含めました四人で夕食を摂り、午後、十時ごろを過ぎました頃に、
「良いか、龍一。お主はこの藤原家の者なのだぞ、何れはその名を背負わなければならぬ事を自覚するのじゃ、いいな?」
祖父のそれに答えを返しませんで、麻里奈と実家を後にするのでした。
麻里奈が運転します車中で、
「いいの、ちゃんと答えて上げなくて」
「麻里、貴女だって両親に反発してまで、UNIOに居るでしょうに。私のこれに口出しは無用です」
言い返しますと、彼女は軽く口を尖らせまして不貞腐れます表情を見せて下さいましたが、私はそれ以上言葉を出さないで、助手席の窓から外を眺め始めました。
2011年1月13日、 月曜日
私はUNIOの調査員としての仕事の合間、弟や彼女達の死が単なる事故で無いと思いつきましてから、あらゆる情報を集めまして、他殺である事に繋がります何か掴もうと躍起になっていました。
勿論、私の考えを知りました麻里奈も積極的に協力して下さいます。
この事を調べて行く内に貴斗、詩織君、香澄君以外の人物も同様の時期に死を向かえていた事を知ったのです。
一人は涼崎春香、もう一人は柏木宏之。
二人とも貴斗が帰国してからのご学友。
ただ、それだけではありません。
涼崎春香の両親は私の両親と旧知の中だった方で、柏木宏之に至りましては私の母親、美鈴の妹であります美奈の息子。所謂、従弟となります。
これだけ近しい者達の死がただの事故であるはずが無いですね。
私が何方かの策謀だと疑って仕舞うのはおかしく無いでしょう。
いや、そうでないはずがないのです、絶対に。
確信に満ちました思いはありまが、それを証明します証拠は未だ見つからずじまい。
午後はずっとUNIO日本支部事務所で去年までの海外出張の事後処理をしていました。
PCを扱う作業ですので私にとって苦ではなく、容易に作業を進める事が出来ましたが、処理しなければ成りません書類の量が大層ありますので本日中に終わる物ではありませんでした。
途中、途中に休憩を挟みながら、次々と書類の山を崩して行き、午後六時を廻りました頃、都内の外国人殺人事件に協力をしていました麻里奈が戻ってくるのです。
「大宮支部長、リュウリュウ。神宮寺麻里奈ただいまもどったわよぉ」
「お帰り、麻里奈君。調査は難航しそうかい?」
「麻里、お疲れ様」
私達は彼女に声を返しまして、彼女が今日の報告をしている間に、彼女の好きなHot-chocolateの準備に取り掛かりました。
序でですが、私同様にずっと書類整理に追われていまして、帰り支度をせずにまだ続けて行きそうな清隆にも柚子茶を入れて差し上げた。
麻里奈が大宮支部長への報告が終わりました頃に、彼女のDeskへWhip creamを乗せましたHot-chocolateを置き、その後にその正面に座って居ます清隆へ、柚子茶を。
「そとすごぉ~~~く、寒かったのよねぇ。あんがとう、リュウ」
「すまないな、お前にそんな事をさせて」
「気にする事ではありませんよ、清隆。手間な事ではありませんから」
「あれあれぇ、龍一君。清隆君や麻里奈君には出して、ここで一番えらい私にはないんですかねぇ?」
「支部長は霞でも食べていて下さい」
「なんと酷いお言葉、いいんだ、いいだあぁどうせ、私は窓際の支部長ですよぉ」
嘘っぽくその様な戯れな口にします大宮支部長の席の前に立ち、奇術を思わせるかのような動作をしまして、清隆と同じ柚子茶を出して差し上げました。
「うむっ、いい味と香りがしているねぇ」
出して差し上げた茶を啜り始めました支部長へ、私と麻里奈は帰宅を告げるとしました。
「はいはい、おつかれさぁ~~~ん、また明日も宜しく二人とも」と大宮支部長が、
「それでは二人ともまた明日」と清隆が、挨拶を返して下さいました。
霞ヶ関庁舎の駐車場、麻里奈の車の助手席に乗り込みますと、運転席に腰を下ろしました、彼女はEngineに火を入れます前に、後部座席を振り返りまして、何かの書類が入っているのでしょうA4の封筒を持ち出しますと、どうしてか躊躇いがちに、目を背けました顔で、そのかなり膨らみがあります封筒を私へと差し出して下さったのです。
それを受け取り、中身の書類を取り出しますと同時に、麻里奈はEngineを始動させまして、車を移動させました。
麻里奈が運転している中、私は彼女から渡されました書類の内容を確認していました。
その内容とは貴斗、詩織君、香澄君、涼崎春香君と柏木宏之君に関する通院記録と言うものでした。
どのような事故で怪我を負いまして、どの様な手術を受けまして、術後の経過どの様になりましたか、が綴られているものでした。
文面をしっかりと理解しながら、読み進めまして、その中の情報を整理して行きますと、五人の内、四人にある共通しました施術方式が取られて居ますことが把握出来ます。
隼瀬香澄君、生後三ヶ月、角膜移植と水晶体。
弟、貴斗と従弟の柏木宏之君、七歳の時、心臓転換移植。
藤宮詩織君は貴斗が私と両親と共に渡米した年の十四歳の夏の終わり頃に鼓膜移植。
涼崎春香君に関しては十七歳の夏に事故に遭遇してしまいその後、三年間も目を覚ます事がありませんでしたと言う記述と目覚めた後の経過と複雑な事情が書かれて居ました。・・・、移植と言います共通項は前者四人のみ、春香君に関してはその共通性は見当たりません。
それと四人の共通するもう一つ・・・、ADAMと書かれて居ます術式?
ADAMですか・・・、どこかで聞いたような言葉ですが・・・、・・・、私は右手で顔を覆いまして、その単語をどこで耳にしたのかを思い出そうと記憶を辿って見ました。・・・、・・・、・・・、・・・、くぅっ、ADAMと言います単語になかなか記憶が繋がりません。
僅かばかり胸中に苦しみを感じまして、手の中で隠していました顔を歪めてしまいました。それをどこで聞いたのかを思い出すのです。
それは去年の中東武器密売組織の壊滅作戦終了時に見つけました走書きの中にありました言葉がそれでした。
この資料を集めて下さった麻里奈が私にこれを見せる事に躊躇いを見せましたのはそのADAMという何かに関連していたからでしょうか・・・。
五人に関しまして、事細かく書かれて居ます紙面。
麻里奈がこれほどの資料をどこから入手したのか非常に気になる処ですが、これを私に見せて下さった事に感謝しまして、今は追及しない事にします。ですが、この資料の中の詩織君の項目。
彼女が鼓膜移植手術をしなければなりません過程に至りますある事件が如実に記載されていました。
じっくりと読んでしまうには心が痛くなって仕舞いそうなその内容。
貴斗はその事を知らないでしょう事件。
知ってしまえば父親に従いまして渡米して仕舞った事を後悔し自身を呪い、弟を闇に落としてしまいかねない、その様な事柄でした、あのシフォニー君の事件の時のように。
仮定になってしまいますが、貴斗がそれを知れば、それ以上の事態になりかねません事が書かれていたのです。
私もこの事件に関してここで語る事をしたくありません。ですが、孰、誰かが語ってくれるかもしれません・・、・・・、・・・。
麻里奈の住まいに到着しまして、中に入りますと私は、背広のPocketから赤と青で二つの賽子を取り出しまして、
「さて、麻里。今日の夕食の準備、私と貴女、どちらがしますか決めましょう」
「ええ、いいわよ。じゃあ、今日は数字が小さい方が勝ちって事にしよっ!」
麻里奈はその様に言葉にしながら掌を私の方へ出して下さいましたので、その中に赤い賽子一つを渡しました。
それから、二人同時に食卓上にそれを振ります。
お互いに狙ったわけではないのでしょうが、二つの賽子がぶつかり器用に食卓の上を廻り始めました。
いつもでしたらすぐに結果が分かるのですが、独楽の様に回転します赤と青のそれは暫く、その動作から開放される事はありませんでした。
時間を正確に測って居ませんのでどれだけ、経過したのは分かりませんが漸く、回転していました賽子がほぼ同じくらいの頃に静止しました。
赤が一、青が六です。お互いに賽子の目の両極端の値を示す。
「はっ、りゅうりゅうのまけぇ~~~、準備よろしくぅ~。出来るまでゲームしヨット」
麻里奈は嬉しそうにTVの電源を入れましてVideo Game機本体を取り出し始めました。
さて、私は麻里奈がそれで遊んでStressを発散しています間にささっと、夕食を作ってしまいましょう。
何を作るか考えながら台所へ向かいまして、冷蔵庫の中にある食材を確認していました。
私は料理をしながら、ADAMについて考えて見ました。
アダム、聖書に出てきます禁断の果実を口にしてしまいイヴと共に楽園を追放されましたのは有名なお話し。ですが、それはまったく無関係でしょう・・・。
確かに私の父、龍貴もADAMといいます名前の次世代動力源のProjectを立ち上げ、研究をしていましたが、此方の内容の物は医学関係で龍貴のそれとは別の物でありますことは間違いないのですが、どうも気になって仕方がありません。・・・、・・・、・・・、推理物のGameではありませんが、この謎を解くにはまだ情報が足りません、って事ですね。
三十分くらいで、用意して仕舞うつもりでしたが結局、一時間くらい掛かってしまい、食卓に料理が並びましたのは八時半ちょっとすぎです。
麻里奈は満足げにGameを中断しまして、Kitchen兼Diningの食卓の椅子に座ってから、知人のCanada出張からのお土産と年末に頂いたIce-wineの栓を開けまして、彼女のGlassにそれを三分の一の深さくらいまで注いで差し上げます。
「私の注いで呉れたんだから、リュウのは私が入れて上げる」
お互いのGlassにWineが注がれますと、それを手に持ちまして、軽く叩き合わせ、『乾杯』と私達の声が重なりました。
今日の私が用意しました夕食は蟹Cream-gratinと野菜の盛り合わせ。それと私も、麻里奈も白いご飯が恋しいので二口で食べられる大きさの御握り。
Diningの小さなTVの電源を入れまして適当に番組を選びますと、それを聞き流しますような感じで会話を始めました。
会話の多くは麻里奈が提供して下さる話題に、私がちゃんとした意見を述べる事が主です。
急がず、ゆったりと食事をしまして、それが終わり、片付けに入ろうと食器を重ねながら、私は麻里奈へ、訪ねていた。
「麻里、先ほどの資料ですが、貴女が揃えて下さったのですから、書面の内容をご存知と思います」
「うん」、彼女はどちらとも、判別しがたい頷きをして下さいます。
「ADAMといいます、言葉が何度も見受けられるのですが、麻里、その単語に心当たりは?」
「え?ああぁ、あははははっ。私の知って居るアダムは聖書の中の登場人物と、リュウのお父様、龍貴小父様の研究企画名のアダムしか知らないわ。手術の様式にそのアダムってのが使われたみたいだけど、私にはぜぇ~~~んぜん分からないし、知ぃ~らない」
あからさまに怪しい、麻里奈の言葉。ですが、深くは言及しません。
ADAM、それがどの様なものなのか知りたいのであれば、自分で調べればいいだけ事です。
ADAMと言う単語が私の辿り着きたいと思って居ます答えに関係する事なのか今は分かりませんけど、調べるだけ調べましょう。
さて、その情報の入手先なのですが私の家族が関係しているのですから祖父か、妹か。しかし、私が知らない事を妹、翔子が知っているとは思えませんし、仮に知っていたとしても、教えて下さらないでしょう、私には取り付く島も与えてくれないでしょう。
やはり、祖父の洸大に当たって見ましょう。
後は涼崎夫妻、隼瀬夫妻と柏木夫妻に順に廻りましょう。
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