第三話 The Fragment of ADAM
完全なる現場復帰を遂げました私、藤原龍一。
それから三ヶ月間、国内の任務が主で麻里奈や他署員と一緒に大宮支部長からの指令でテロ対策を中心とします抑制行動に励んでいました。
民衆は報道の表となる事件しか知る事の無い現状、実際、どれだけ多くが事件となる前にSAT部隊や公安の方々の手によって未然に片付けてくださっているか。
国民はもっと身近に危険が迫っている事を自覚して欲しいものですが・・・、皆様方はその様な事を意識せずとも生活できる様に社会を守ることが私の所属するUNIOの使命であり、警察機構も同様なのですがね。しかしながら、UNIOの守備範囲は広く、日本国内だけではないと言う事ですか。
2010年10月2日、土曜日
土日、祭日出勤も当然の私達は大宮支部長に呼び出されていました。
支部の部屋に入りますと三人の同僚がすでに到着をしていました。
大宮支部長はPCの書面を印刷したのだろうと思われるそれを細い目と渋い表情を作りながら見ているようです。
最後に訪れた私達の気配を知った上司はその書面を机の上に静かに置き、私達の方へ向き直し、視線を動かしまして私達を見て、口を動かすのでした。
「諸君らもニュースを見てもうすでに知っている事故だと思いますが、我が日本発、イラク到着だったはずの飛行機がインド洋上空で。先ほど本局からの通達で自爆テロである、との疑いが濃い。日本支部は直ちにその真偽を確かめられたし、とこの紙切れには書いてあります・・・、・・・、・・・」
「昨今のこの国は反政府活動主義者たちの温床になってしまっている事を諸君らも知って居るでしょうし、それらを叩いているのも我々のこの組織や公安特課の方々。その我々の目を掻い潜って、この様な事件が起きてしまったと言うのなら、由々しき事態である事を僕の口から言わなくとも分かるでしょう」
それから、長話好きであるはずの支部長は直ぐに話しを切り替え、捜査方針とその割り振りを私たちへ示したのです。
外務省を通さずUNIO本局からの直接通達ですので、公安との合同調査は出来ません。人員は雨宮織江、海道成美、神宮寺麻里奈、南原清隆と私、藤原龍一の五人だけです。
この人数で事件の原因究明は骨の折れることですが頑張らなくてはならないでしょう。
麻里奈と一緒に情報収集をしたいのですが、この人数では分散しませんと多くの情報を短期に集めるのは難しいですから、一人一人動くしか居ないのでしょうね・・・。そして、今、私の思った事をこの中で支部長の次に階級の高い清隆が言葉にしようとしました。
「僕がくちにしなくても、もうみんなは同じ事を考えているんだろうが、情報収集は個々で行おう」
「期間は(いつまでにするのさ?)?」と織江と成美が、
「あっ、すまん、すまん諸君に言い忘れていた。上への報告は今月末だからそれまでにはちゃちゃっと解決しちゃってね」
「マジ言ってんの支部長?この人数で末には結果を出せって?また、むちゃなぁ」
麻里奈は眉間に皺を寄せ、困惑しているようですね。
「文句は言わないでください、麻里奈君。いつもの事でしょうに」
支部長は不満を口にする彼女に小さな溜息を見せますと、整っている彼の口髭を撫でていました。
「無駄口を叩いている暇はありませんよ、麻里」
私はその様に言いながら彼女の肩を軽く叩きますと、直ぐに行動を開始しました。
急いで表に出ていた私に走って追いかけてきます、私の愛しの彼女。
「こら、まてぇりゅぅ、りゅぅ、私を置いてどこいくのよっ!」
彼女の言葉に私は振り返らず、軽く走る速度のまま駐車場へと向かっていました。
私は単独行動をする際、自動二輪を足代わりに使って居ます。
知り合いにちゃんと整備していた貰ったために駐車場に置いてある私のそれは綺麗なものでした。
私はそれに跨り、鍵を指し、エンジンを始動させますと、追いついてきました麻里奈がヘルメットをみにつけようとしています私の首を両手で絞めるように掴みますと、
「くぅおらぁ、龍っ!」
「何でしょうか、麻里?」
「どうせ、搭乗記録を調べに行くんでしょう?私も一緒に行くっ!」
「清隆の言葉を聞かなかったのですか?」
「目的が一緒なら一緒に行っても良いじゃない」
麻里奈は一度言い出すとなかなか引いて下さらないのを知って居ます。ですから諦め、予備のメットを座席下の収納場所から彼女用のそれを取り出し、渡していました。
彼女が後部座席に乗り、私の胴へ腕を回したのを確認しますと、Acceleratorを軽く回しまして、原動機の具合を確かめて見ました。
調子よさそうな快音がヘルメット越しの私の耳まで届きましたので、
「麻里、でますよ。しっかりと掴まっていて下さい」
私の言いに彼女の返事が戻ってきますとFull faceのVisorを下ろし、私の愛馬HONDA CBR1000RXRを車道へと走らせたのでした。
向かう場所は民間のAFDC(Air Flight Database Center=航空情報管理局)で、国内外の発着時の時刻調整や、到着、出立、搭乗者記録などがすべて蓄えられています場所です。
UNIOと言う機関は非常に知名度の低い職業で、警察手帳のような身分証明書はありますが、それを見せた所ですんなりと協力してくださる方は微塵にも居ないでしょう。
その様な訳で情報収集を行う場合は警察刑事課関係者の中で階級が警視以上の方と一緒に行動して頂くか、民間に各情報機関に人脈を敷いて置くかです。
今回の任務は極秘度が高いために、警察職員や各政府機関に協力は仰げず、民間を頼るほか無いので、知り合いが勤めて居ますその情報局へとmotorcycleを走らせていました。
その場所までMotorcycleなら三十分程度です。所在は品川区東海道本線沿い・・・、残念ながらそれ以外お教えする事は出来ません。
アフデック関東支部に到着した私達は駐車場にRXRを止めて、建物中へと移動しました。
中に入り、旧友と再会し、軽い会話を交えました後に、ここへ来訪しました用件を彼に告げました。
情報が書庫化されて居ますお陰で、旧友が数分、PCの前で作業してくださいますと、その結果がすぐに印刷されて来ました。
出てきました書面を彼と確認をする作業に時間をかけて居ます間、麻里奈は、彼女もこの場所に居る知り合いと楽しそうに会話を交えていたのです。
「間違いなかったでしょう、藤原。故人となってしまった方々ですけど、個人情報が明記されて居ますので取り扱いは注意してね。君の職業がどの様なものか知っているけど」
「ありがとう、感謝していますよ、鎮」
旧友に感謝の意を告げた後に、携帯電話を取り出しまして、他の同僚に搭乗者記録を入手した事を知らせていました。それから、五人集まり、搭乗者人数を私達の人数で割りまして捜査の分担を計ったのでした。
この時点で本格的な単独行動に移る事になりました私。
清隆がサイコロの出た目で割り振りが決定され、私が担当する事になりましたのは乗客、業務員含めて108人の内、業務員五名と五十音字で最後十六人の乗客分でした。
私は性格上外堀から埋めて行くほうでして、名簿の東京から遠い方から順に調べる事にしたのです。
定期的に同僚や麻里奈と連絡を取り、情報を交換し合いながら調査を始めて早、二週間。
いまだに、反政府主義活動家による事件であったと言います事実は浮上してきておりません。ですが、今まで調べてきました乗客の方々には奇妙な共通項が見えていたのです。
それは犯罪経歴を持ち、偏りました思想の持ち主の方々であります事です。そして、最後に訪れましたのは・・・、私の実家であります三戸特別区です。
足を運びたくなかったのですがねぇ、運が良く有りませんと、街中で、妹、翔子とばったり顔を合わせてしまうかもしれませんから。
「八神慎治・・・、うぅ?はて、何処かでお聞きしたお名前でしたね・・・」
私は住所を確認しながら記憶の海からその名前に引っかかる記憶をたどり始めました。
「ああ、そうでした。麻里がお話ししてくださいました、我が愛しの弟の親友だった方と名前の音は同じですね・・・、もし、同一人物でしたら・・・」
私は眉間によってしまった皺を左手の中指で摩りながら、これはあまりにも不幸な因果ですねと心の中で呟いてしまいました。
同一人物で無い事を祈りつつ、そのお宅へと向かわせてもらいました。
一般家庭よりは大きな家宅に来ました私は、表札の名前を確認した後に、呼び鈴を押させていただき、誰か、在宅かどうかを窺いました。ですが、数分待っても返事は戻って来ませんゆえ、八神と言う方の親兄弟の職場を探りまして、そこへと向かったのでした。
済世会病院、その場所に彼の母親と姉が勤務しているらしく、彼女らの名前を耳にしました時には直ぐに気が付けず、頭痛を催してしまい暫く気分が悪い状態が続いたのです。
それが引くと、急にお二方の名前と記憶が一致し、表情では驚きを見せませんでしたが、内心は結構来ましたね・・・。
八神佐京、妹翔子と長い付き合いである方。
八神皇女、母親の美鈴と非常に親しかった方。まさか、彼女達の弟、ご子息が、貴斗の親友であったとは・・・。
私も幼少の頃より、八神家との交流はありましたが慎治なるご子息が居たとは知りませんでした・・・。
興味が無く眼中外だったのかもしれませんが・・・。
どれほど私の弟貴斗と親しい方であろうと私は慎治と言う子を知りませんので特に感傷が湧き上がってくる事もありませんので相手の心中など考慮せず話しを聞きだそうとしましたが、ものすごい剣幕で佐京によって摘み出されてしまいました。
「龍一君、貴方、いきていたのですか?」
「ええ、ご覧の通り、その様ですよ、愁。佐京はあのような感じでしたのでお話しを聞かせていただけませんでしたが、もし、貴方の知っている事があれば調査に協力してください」
私の言いに、しょうがないですね、とその様な顔付きを見せてくださいますと、調川愁は質問に答えてくださる姿勢に入ってくださいました。
彼に聞く事は、今まで廻った方々と一緒で搭乗目的、彼の物の考え方の二点だけです。あとは会話中、必要と思った事柄など。
「私の教える事の出来る情報はこの様なものです。お役に立てたでしょうか、龍一君」
「おおいに・・・」
「では、私の方からも一つ窺って良いですか?」
「内容次第ですが、どうぞ」
「貴方はどうして、生きているのです?九年前に射殺されたと聞きましたが」
調川愁医師躊躇いも見せずにはっきりとその様な事を私へと尋ねてきました。
「残念ながら、どのようにして私が生存したのか自身しりませんし、
そして、目が覚めたときには既に九年の歳月が経っていただけです・・・、では期間内に任務を終えなければなりませんので失礼させていただきます」
私の方から別れの挨拶を告げ、愁からの言葉の追従を許すことなく、その場から立ち去らせていただきました。
RXRの駐車しております場所まで移動しながら、愁が答えてくれた事を整理して見ました。八神慎治、彼だけが唯一、いままでの共通項の枠外にいます・・・。
八神家の方々には悪いのですが、彼が自爆テロと言います手段をとってしまったのではと考えてしまいますが、その様な事は無いでしょう、愁から聞かせていただいた慎治の性格では。
さて、東京に帰りまして、同僚と意見を交換した後に次の段階の検討を付けましょう。
昼食を独りで寂しくと摂った後に、霞ヶ関のUNIO支部へと期間していました。
私よりも前に戻っていましたのは海道成美と雨宮織江がお茶の準備をしていました。
「藤原さんも、いかがですか?」
糸目を更に細め柔和な笑みで織江が誘ってくださったので私も、笑みで返しながら、
「ええ、それでは頂きましょう」
「龍一、あんたの守備はどうだった?」
成美はCookieを銜えた状態で私の近況を尋ねてきましたが、
「行儀が悪いですよ、成美。その件に関しては清隆と麻里が戻ってきてからにしましょう。もうすぐお二方も戻ってくるでしょうから、それまで休憩です」
「なごんでるねぇ~~~、ああ、僕にも紅茶頂戴」
隣の部屋で調べ事をしていました大宮支部長が顔を見せますと、その様に私たちに声を向けながら、歩み寄ってきました。
成美が用意したお菓子が盛られて居ます籠の中の一つを取り出し、包装紙を開けるのでした。
支部長を含めまして、私達は仕事以外の会話を交え、それから大よそ三十分を過ぎない頃に麻里奈が、それから数分遅れますことで、清隆が戻り、調査結果の報告会を始めたのです。
「しかし、これは奇妙な事実だと思います。確かにイスラム系氏族に関する人物は一人も見つからないのではあるが・・・、搭乗者の経歴と、目的地へ向かった理由ですね。それと、一人だけ、オセロの盤目上、周りはすべて黒で一際、白く目立つ人物」
清隆は私達の持ち寄った意見を纏め上げ、言葉を出していました。
右翼的な考えを持ち、軽度から重度までの犯罪経歴を持つ方々、そして、なんらかの催しへの参加のためにイラクへと向かっていたと言う事実。
その中で黒になりえない人物、八神慎治。
この組み合わせは何らかの意図を思わせるのですが、現状得られています情報では明確な答えを出すことは不可能です。
私が胸中で私なりの考えをまとめて居ますと、清隆がこの件の結論を述べてしまっていました。そして、それを聞きました麻里奈が急に怒り出す。
「たしかに、状況的にはそれも考えられるわっ!でもね、八神慎治君はそんな事をするような子じゃないの。それ以上、故人になってしまった彼の事を悪く言うと、清隆、幾ら立場が私より上でも」
麻里奈がその先の言葉を出す前に、私が止めに入り、
「清隆、すみませんね、麻里が暴走してしまったようで」
今にも殴りかかりそうな麻里奈を抑え、同僚に謝罪していますと、
「りゅうっ、貴方ね。慎治君は貴斗ちゃんの親友だった男の子よ、
そんな彼が、幾ら搭乗者みんながあくどい連中だったからって」
幾ら、心優しい貴斗の親友だったからと言いまして、その彼が悪人じゃないとは言い切れません・・・、ですが、あの佐京の弟であり、皇女のご子息で有るなら、悪人には成りえないでしょう・・・。
「私も、清隆の結論どうかとおもいます。寧ろ、招待状とやらを送りつけました人物こそが怪しいのでは?八神慎治の潔白である証拠は私に探させてください。ですから、後残り一週間は招待状がらみで捜査を、と私は提言させていただきます」
「しょうがないですね、僕より切れ者の藤原が言うのなら、その様に行動しましょう」
「じゅぁ、諸君、方針が決まったところで寝る間も惜しんで、いい結果を出してくださいよ」
最後に緑茶をすすりながら大宮支部長は私達へその様にお願いをするのでした。
調査の最後の週、織江、清隆、成美、麻里奈、そして、私、龍一の五人は数時間おきに連絡を入れあいながら、集めた情報の共有と行動方針を時列で柔軟に変更していました。
それから、捜査終了一日前までに分かった事は、招待状と私達が口にしていましたものは懸賞の当選による海外旅行。その懸賞を企画運営した会社はOne of a Hundred million Chance Enterprise(OHMCE=通称オーマス社と呼ばれているようです)と言います国内では数年前からそれなりに有名になった会社です。
懸賞の当選の確率であれほど奇妙な組み合わせになるものでしょうかと私達五人は誰しもその様に思いました。
それにその方達が本当にその様な懸賞に応募したのでしょうかと言う疑問です。
Internetが発達する数年前までは葉書による応募が普通でして、送り主が本当にその懸賞に送ったかどうか、懸賞会社に赴き、それを見せていただければ宜しいのですが、現在はOnline懸賞が盛んとなり、本人が本当に応募したのかどうかを調べる事は容易ではありません。
Serverのdatabaseにはお亡くなりになられた方々の応募記録が残っていましたし、どの場所から懸賞に応募したのかを特定するIP Addressと呼んで居ますものも調べさせていただきました。
偽装はありません、自宅や、道徳的にどうかと思いますが、勤務先の会社、公的役所などから、Accessしたようでした。
当選枠は百名と第二次抽選が二名。
当選しませんでした方々を含め、約十五万人もの応募があったようです。
当選率は約0.07%と極めて低いのです。
その様な条件の下、彼のような人物等が当選を果たす様な確率は不確定要素が絡みますので限りなく零に近いでしょう。
当選Programに何か不正があったことは間違いありません。
UNIO調査員の権限を最大に利用しまして、オーマス社のこの企画担当にそのprogramを見せていただきました・・・・、しかし、programの中にはそれらしき仕掛けはどこにも見当たらず、
「どうみたって、怪しいのにっ!」
成美は喚きながらLCDの両端を掴み画面を揺らしていました。
「簡単なことです。企画が終わった後にプログラムの変更が行われたのでしょう」
「それもおかしいんじゃない、龍。だって、応募が終了したのがさっきの企画さんの話しから今年の三月で、抽選をこれで実行されたのが翌月の四月第二週よね。見てよ、最終更新日付は二〇一〇年三月三十一日」
麻里奈がそんなこと出来ないでしょうと言います表情を私に向けますが、私が答えますより早く、織江が言うのです。
「その様な事はございませんわ、最終更新日の日付ですら、コンピュータの知識をお持ちの方でしたら容易です」
丁寧な口調と物腰でややおっとりと麻里奈へ返してくださいました。
製作者、Programmerに聞こうにも派遣社員だったらしく、契約が切れ、他の所へ、異動したとの事。
そのProgrammerを探し出すこと、それが現在の私達の捜査内容です。
それとですが、懸賞の内容は『一度は行ってみよう!!見所の中東、ヨーロッパ。名所巡り一ヶ月の旅』で、その懸賞の提供会社はSSI(ジィーと読むらしいです)、Sun Source Intelligenceと呼ばれます、幅広い分野に渡って業績を伸ばしているようですが主に医療関係に貢献しています人材派遣会社だそうで、更に社の利益を社会に還元する意味で慈善事業なども積極的に行っている所らしいです、清隆と成美の調査結果からの情報ですがね。
調査打ち切り、一時間前の皆様からの連絡(大宮支部長により、本日の午後、六時までとなっております)
「まったくだめだわ、足取りがおえないっ!」
焦りと苛立ちの色を声に乗せる麻里奈、
「偽名、偽装・・・、多段、契約・・・、迷路に迷い込んでしまったか、僕達は」
冷静な態度、それが伝わってきますに口調の清隆、
「八艘飛燕、実在する方なのでしょうか」
困惑した口調でややゆっくりめに言葉にします織江が、
「もし、この人物がイスラム関係者だったらでもぉ・・・、どうしてあんな人選をしたのかな、やっぱ関係ないの?」
混乱気味で焦りのあります喋りの成美、そして、私は、
「Checkmateです」
私の声に、同時通話が可能な最新型の携帯電話から驚きの言葉が聞こえてきました。
八艘飛燕なる男性は現在、三重県鳥羽市の市役所に勤務していると言うのを突き止めました。
つい先日まで飛燕と別の派遣先で働いていた同僚の方から得た情報でして、神戸から大急ぎで、鳥羽まで足を運んだのでした。
ですが、時間は午後五時を廻っており、多くの役所で勤める方々は帰宅しておりましたが、運よく彼はまだ残っていたのです。
他に残っている職員の方に窺い、彼を呼んでいただき、
「ええ、私が八艘飛燕ですが、何か御用ですか」
私の年齢と近しく思えますその彼は右手に左の肘を乗せ、立てた腕の先にある左手の人差し指と親指で顎を押さえます姿、冷静な声で私に応じてくれるのでした。
その様な飛燕に私が彼を訪ねにきた理由をはっきりと伝えますと、
「それは心外ですね。どのような理由があって私が多くの人達の命を奪うと言うのです?甚だおかしい事を貴方は不躾にも語ってくれるものです。もし、貴方が警察と類似の調査機関の方なら、私にその様な疑いを掛けるのであれば、それ相応の情報を提示した上で、疑ってもらいたいものだ」
無実無根の事を言われ腹が立って居ますとその様な視線を私へと向けまして言葉を終えるのでした。
確かに、この男性の返答は最もであり、反論の余地はありません。
何せ、彼を探し出すことが最優先事項になってしまっていたために彼の人物像以外の情報、航空機事故で亡くなった方々との関連性捜査を怠ってしまった事は明白ですからね。
ただ、私が昔からもっていました才能?それはUNIOに勤務する事で更に強化されたものがあります。
相手が嘘を吐いているかどうかを、見抜く事。表情や、仕草で見抜く風な物ではありません。
対峙しています方から滲み出て来るといいますのか、その方の持つ気、醸し出します雰囲気?と言って宜しいのでしょうか?どの様に表面上を冷静に装って隠しましても負の思念や思惑と言った物を感じるのです。まるで野生の動物の嗅覚の様にです。
「他に御用は?」
「いいえ、不機嫌な思いをさせて申し訳ございません・・・、・・・、・・・」
彼に声をかけますと、私の横をすり抜け、外へ向かおうとしました。そして、私と彼の背中が見合ったとき、
「今は見逃してしまうことになりますが、またお会いしましょう」
去り際の彼に呟いたのです。
飛燕は私のそれに反論も、憤慨する事もしませんで、何事も耳にしていませんでした風に行ってしまわれました。しかし、私がこの場で彼を強引にでも捕らえなかった事を後悔するのはずっと先の事です。
違いますね、捕らえるのではなくこの場で息の根を止めなかった事を・・・。その機会を私は見す見す逃してしまうのでした。
「さて、皆様が欲しかった情報は得られませんでした。どのようにした物ですか・・・」
悩みながら東京へと戻る事にしました。
新幹線で東京への帰路中、同僚の方々が連絡をくださいましたが、私の偽りのない返答に心底呆れていました。ですが、今回の調査はあくまでもあの航空機事故がテロによるものかどうかを突き止める事で、上層部にそうではなかったと報告すればいいだけです。
私の直感ではテロとは無縁だって訴えて居ますし、調書の内容を操作すればいかようにもなります。
東京に戻りますと霞ヶ関の事務所には麻里奈だけが私の帰りを待っていてくださいました。
同僚からの託『調書は藤原龍一第二級捜査官が全責任を持って作成する事』と一緒にです。
皆様に期待をさせてしまって、出た結果があれでは仕方が無いでしょう・・・。ここは甘んじてその罰を受けるとしますか・・・。
数時間後、半分くらい書き上げたところで、
「終わるまで一緒に居てくださるのなら、手伝ってくださっても宜しいでしょうに、麻里」
穏やかな笑みを向け、頼み込んで見ます。
「だぁ~~~めっ」
「麻里奈・・・、愛していますよ」
「なっ、なに急にそんなこと言い出して、そんな甘い言葉で誘ってもだめなものは、だめ」
昔、貴斗の気を引くために使って見た表情を麻里奈に見せますと、彼女は顔を少なからず赤らめまして、私から目を逸らし、
「そっ、そんな可愛らしく、しょんぼりした顔を見せたってだめなだから・・・、でも、龍もそんな表情をするんだって知ることが出来たのは嬉しいけど・・・」
「(´・ω・`)しょぼ、しょぼぉ~~~ん」
一般の方にはすでに古い知識ですが最近お気に入りになりました顔文字とやらを使って見ました。で、麻里奈の反応はと言いますと、
「(,,゚⊿゚)、龍一っ、用紙にそんな事を書いて顔の前に出しても・・・、だめよ」
彼女も同様、机の上にばら撒いていました用紙を一枚とり、驚きの表情で応戦です。
「( ̄Д ̄)エー、矢張り、陥落出来ませんか・・・。だめなんですかねぇ」
麻里奈は大きな溜息を吐きまして、
「龍が喜んでもらえるようなことなら、本当は何だって手伝って上げたいのは山々なんだけど、みんなで決めた事を守らないのは・・・、私の性格を知ってるでしょう、龍。それに私達日本支部はたった五人しか職員が居ないの。チームワークは大事なのよ。そういうのも龍が一番良く知っていること名だから、我侭なし」
麻里奈はそれだけ口にしますと終始、本当に手伝ってくれる事はありませんでした。
ですが、夕食、夜食も準備してくださいましたしり、合間、合間、休憩の度に飲み物を用意してくださったりと気を遣って頂いたりした訳で、無事報告書は仕上がった訳です。
2010年11月30日、火曜日
私と麻里奈はPakistan-Karachiから南西200milesのインド洋海上で海中探索の準備をしていました。
まだ、どこの捜査機関も回収出来て居ない航空機事故のFDR(Flight Data Recorder)とCVR(Cockpit Voice Recorder)の引き揚げ。
位置通報発信機が故障しているらしく発見が困難となっているようです。
小型船舶の甲板、手摺の近場に座りながら海面に糸をたらして居る私。
更にLaptopのKeyboardを結構な速さで操作していました。
「龍、なにやっているの?」
「ええ、目標物がどの辺りに潜んでいそうかを確率分布で表示するソフトウェアを即席で作成しているんです。しかし、驚きましたねぇ、最近の小型のPCのこの高性能さ。素晴らしいですよ」
「私には詳しく分からないけど、貴斗君もその分野得意だったようだけど、龍もすごいわね」
私は麻里奈のその言葉に双眸を瞼で隠し、穏やかな笑みのまま、顔を横に振り、
「何を言っているのです、麻里。私に出来る事は、貴にとって当たり前の事。寧ろ、貴斗の方が、私などより、理系の才能はずば抜けているでしょう。その事も麻里は知っていると思いましたが」
私の最愛の弟、貴斗は十四歳の年齢で、父、龍貴の強制で米国へと連れ出されてしまいました。
弟にとっての新天地の第一印象は最悪なものになってしまい幾度も惨事に巡り合ってしまいましたが、龍貴の『もし、それ程日本に戻りたいのならこれから通う大学を主席は望まんが、優秀な成績で卒業して見せろ』の命令を精進するためのばねにし、高校の学位を半年で修得し、十七歳の終わりには実際に卒業一歩手前まで上り詰めていたのですから、どれほど努力を重ねましても天賦の才が備わって居なければ達成できないことです。
翔子が居ないために道化を演じる必要が無かったこと、貴斗の幼馴染達の処に早く戻りたいといいます強い願いも弟の才能に拍車をかけていたようですが・・・。しかし、どうしてでしょう、父、龍貴は私や翔子にかなりの自由奔放に行動する事に理解を持ってくれていたのですが、弟だけには非常に厳しかったのです。
「ふふ、また龍の貴斗君自慢が始まったわ。ほんと、弟ちゃんのことになると、龍一嬉しそうね。間違った路線に入ると禁断の兄弟愛なんて・・・、でも、絵になるかも、うふふっ」
どの様な事をご想像して、彼女は私をからかうようにその様に言ってくださっている。
「それはそれで面白いですね」と朗らかに笑って返す私でした。
手摺から海面へと吊るされて居ます流速計の統計が取れましたところで、私のsoftwareのbuild&compileも終わり、後は実行するだけでした。
必要だったDataは航空機が爆発の仕方や、当時の大破の状況、破片の大きさや分散率、海面からの高度、当時の風速、事故からの経過日数、それまでの海流の変化、物理法則に関連する情報。
それらが今総て揃いLaptopの画面上に表示されている付近の海域に赤、黄色、緑の点が分布し始めました。0%から30%未満は緑、30%から70%未満は黄色、赤は残りの範囲です。
私の経験上、探し物は確率の低い所に潜んでいる。
不確定要素と言うものです。不確定要素はありえない場所に大きく作用するらしいと確率を物理学的に研究している友人が言っていました。
緑の分布した場所を更に計算させ最も低い場所を特定し、その場所の探索開始です。
低確率の場所を最新の遠隔操作小型潜水艇でPin-pointで探す事約半日、目的の物が割りと簡単に探せてしまった事に同伴していた船員の方々は驚きの色を隠せないようでした。
更に私はProgramを改良しまして、人などがもし仮に漂流した場合、その漂着先がどの辺りになるかを予想する物を組んで見ました。
その結果から得られる海岸沿いの街を転々とし、漂流した方々が居ないかと言います目撃情報にも着手しました。
此方の探索はFDRが見つかったように簡単には行きませんでした。
この様な行動をし、大よそ二週間の時が過ぎる2010年の12月11日、土曜日。
私と麻里奈はOman国の首都Masqat、東海岸に足を踏み入れていました。
無論UNIOを通しまして正式な入国手続きを踏まえた上です。
小さな国ですから政府に初めはそちらに漂着者、漂流物がここ最近の有無が国民から届いていないかを確認して見ました。
ですが、朗報は無く、今度は流れ着きそうな物静かな景色が長く続きます湾に移動して、人を見かけましたら尋ねて見るといいます手法に変更して行くのです。
「えっ・・・、あ」
「どうしたの、龍?」
私も麻里奈も職業上、母国語、英語以外に他の言語も話せるようにしていたのです。
ここOman国の主要言語の一つArabicはその会話できる言葉の一つでしたが、
「麻里、すみません、どうしてなのでしょうか・・・、アラビックを忘れてしまいました。ですので・・・」
その様に伝えますと、驚き、左手を口に当てるような仕草をしますと、
「さっきまで話していたじゃない・・・、どうしたの急に・・・。はぁ、わかった。なら龍は海岸の風景でも眺めながら暫くここで休んでいて」
麻里奈は訝しげな表情を僅かに見せた後、にっこりと笑ってくださいますと、手を振って走って行ってしまいました。
どうして、急にArabia語を口に出来なくなってしまったのか、それを深く考えず、ただ、目の前に広がります、海原を左手で頭髪を梳いた手を止め、漠然と眺めるのでした。
~ 麻 里 奈 ~
私は海岸沿いをゆっくりと歩いていた。
左の腕を胸の下に置き、上向きの甲へ右腕の肘を乗せ、その手の親指で顎を支えるような感じで。
漠然とした視線は周囲の人ではなくて、進行方向の砂地を。そして、独り言のように呟いていたわ。
「いつも龍一は本気も、冗談もあんな顔で言うから即座の判断に困る事があるけど・・・。さっきのあれって、やっぱり、冗談なんかじゃないのよね?光姫に報告していたほうがいいのよね?でも、この海岸に到着する数十分前、この国の情報局といつものあのさわやか笑顔を一時も崩さずにちゃんと会話していた龍一なのに」
独り言に集中してしまった私は、正面に居た人に気が付かず、ぶつかりそうになるけど、即座に躱しつつ、
「أنا آسفة, أنا نظر بعيدا. [إي] أنت [أكي].(ごめんなさい、よそ見しちゃった。だいじょうぶすか?)」
「أتمّت لا [ورّي]! أنا [أكي].(心配ないよ、大丈夫さ)」
ぶつかりそうになった気さくな叔父さんは私にそう答えてくれました。
「أخرى طريق. أنت تبدو أنت في شيء اضطراب.(お嬢さんこそ、なにやら困った顔をして居るようですが・・・)」
「أه!عم. أنا أفتّش أحد ما الذي انجرف إلى الشاطئ من حوالي هنا.(え?あうん。人を探しているのよここら辺の海岸に漂着した人とか)」
「هو حالة نادر جدّا, غير أنّ أنت جدّا محظوظ!!(漂流ですか?珍しいことですね。ですが、お嬢さん、貴方は非常に運がいい)」
それから、そのおひげの小父様はアジア人一人を二ヶ月前発見して病院に連れて行ったと言う事を教えてくれたわ。
患者の容体も詳しく。今月の頭になってからようやっと目を覚ましたらしいの。そして・・・、記憶喪失らしいわ。
私は龍一に教える前に先に合わせてもらう事にした。
で、そのアジア人の顔を見た時、どうしようもなく目の前の現実を疑っちゃった。
正直に、この事実を受け止めるのは辛かった。
実際に本人に会わず、遠くから顔を確認しただけで、龍一のところへ戻る事にする。
「شكرت أنت ل يقول حقيقة.(教えてくれてありがとう、小父様)」
顎鬚と口髭の似合うその男性に挨拶を交わした後、龍一の所へ移動した。
彼の所へ戻っている間、Mailで光姫に急に今まで話せていた外国語が出来なくなってしまった点を送っていたわ。そして、彼の所へ戻ったときに本当に今も思い出せないのか、喋れないのかを確認してみたけど、どうも本気で無理みたい。
このまま、彼の会話できるイタリア語、英語、フランス語、中国語、ドイツ語・・・、そして、母国である日本語も忘れちゃったりするの?もしかすると、今まで彼が刻んできた記憶とかも・・・。
それは嫌。貴斗君を見ていたから、その苦しみも、詩織ちゃんの痛みもしっているから・・・、それを私が体験しなくちゃならないのは本当に嫌だわ・・・。
だめ、だめ・・・、私ったら、なにnegativeになっちゃっているんだか・・・、大丈夫よ、絶対大丈夫なんだから、だって龍一だもの、と私は何処にも保障も無い、根拠も無い事を思い、その様に心のかなで言い聞かせていた。
~ 龍 一 ~
「ねぇ、龍。彼にあって行かないの?」
「いいえ、結構です。会ってしまえば、嫉妬でその方に何をしてしまいそうかわかりませんから・・・、引導をお渡し仕舞いかねませんから・・・」
「本当は彼にあって、貴斗君との学生生活時代を聞きたいくせに、素直じゃないんだから・・・、でも、彼、八神慎治君、記憶喪失らしいから無理だろうけどね」
貴斗と親友でしたと言います彼、八神慎治。
麻里奈の言葉どおり、彼から此方での学生時代の弟の様子をお聞きしたかった。
兄弟と言います境界線と違います親友と呼べます関係。
それは肉親では超えられない心の壁を越えて分かりあえる存在であり、兄や妹である翔子にはお話ししてくれません悩みなども語っていたことでしょう。
ですから、その様な関係を持っていた彼が羨ましくも、妬ましくも思えてしまいます。
私は弟、貴斗と対等な立場で居られることは有り得ませんでしたから・・・。
それよりも二ヶ月前の航空機事故を調べる中で得た、八神慎治と言う彼が生存していましたと言うこの事実、因果は私にとって僥倖と呼べるものなのでしょうか?それとも災禍なのでしょうか。
その後、多くの協力を得て、彼以外の生存者が居ない事も知るのでした。
双眸を閉じました姿で心の中で私自身の考えをまとめ、その状態のまま携帯電話を取り出して、
「もしもし、わたくし、藤原龍一です。先日の失礼申し訳ございません。皇女さん、貴方のご子息、慎治君がご生存しています事が分かりました・・・。所在は・・・」
日本との時差は五時間、現在Oman時刻は午後六時、母国は午後十一時ですのでかけても問題ないと思いまして、親御さんには朗報になるであろう、その事をお伝えさせていただいた。
場所だけを教えいたしますと、容体は告げることなく、一方的に此方から、電話の回線を切らせていただきました。
「龍、容体をつたえないなんて、ちょっとまずいんじゃない?」
「いいのです、これは私のささやかな妬みと僻みです。貴斗や詩織君、香澄君はもう居ませんが、彼は中空爆破と言う状況で生還してしまったのですから・・・」
「そんな顔で、そう言うの不謹慎だと思うわ、まったく。まあ、龍は大抵どのような状況でもその表情を崩すことないの知ってはいるけど」
彼女が言葉に出します通り、私の表情は柔和な笑みを浮かべたままでした。ですが、この表情を崩さないのは、今は亡き、最愛なる弟との誓いですから、消して崩したくはありません。
「しかし、彼、八神慎治君が生きて居ますと言う事は私に拭いきれない疑念を抱かせてくださいました・・・」
「龍、まさか?まだ、貴方、慎治君が飛行機事故を起こした犯人だって言うの?」
「彼が強大な生存運の星の元に生まれたので無ければ、予め旅客機が墜落する事を知って居なければ助かる事は無いでしょう。麻里の言う彼が記憶喪失と言いますのも演技かもしれませんし」
「りゅうっ!」
麻里奈は本気の怒った表情を作り、私を睨みますと、その言葉と一緒に私へ平手打ちを向けてくださいました。
私は鼻で軽く溜息を吐きますと、ぶたれてしまいました頬へ手を当て、彼女の私にして下さいました事を咎めます様な顔などに変えず穏やかな表情のまま、
「麻里、貴女が彼の事をそれほど信じるならそれも構いません。信じるならとことん信じなさい。人の強い思いは、干渉できないはずの因果すら覆す事もあるのですから・・・」
私の言った事を耳にしました私の愛すべき方は憤慨の表情が一転しまして、呆れるような顔を見せてくださいますと、大きな溜息と一緒に、
「この龍神様は、またそんな尊大風を吹かて悟った事を口にしちゃって・・・、龍、貴方も素直に慎治君は犯人じゃないって思っているんでしょう?天邪鬼なんですから」
「いいえ、そんな事ありませんよ。私は、私を信じて居ますので、麻里の思いが事実を逆転してくださらなければ、私が正しいと言う事になるだけです」
「はいはい、そうですか、私は龍の口のうまさには敵わないから、そういうことにしてあげるわ・・・」
彼女は両肩を上げ、もうどうでもいいわ、とそんな風な態度を私に見せてくれるのでした。
その様な姿の彼女に溜息を吐こうとしたときです、私の携帯電話に着信があり、その聴こえる音の種類で支部長からのものだとすぐに分かりました。
「はい、龍一です。どの様なご用件でしょうか、大宮支部長」
「なんでわかったの?まだ一言も私の方から一言も口にしていませんでしたが。腕を上げましたね、フフ」
「何をお考えなのか知りませんが、着信音を分類しているだけです」
「そうでしたか・・・、では用件を伝えよう。麻里奈君もご一緒でしたね?」
それから、支部長の大宮は私達に新しい仕事の内容を伝えてくださった。
Omanにいる私達はこのまま北上しまして、SyriaのHalabへ向かってくださいとの事でした。
その街より、東へ60miles程移動したところに、テロ組織に武器を流している大きな武器密売組織があるとの事でその拠点の凍結ではなく、完全閉鎖、破壊しろと言う任務です。
すでに現地には各国のUNIO職員の精鋭が集まっていてその中には私の知って居る方も多く来ているとの事でした。そして、電話での会話中支部長は、
「この任務は君に打って付けの仕事でしょうから思う存分やっちゃってください」
「大宮支部長、まるで私が破壊神であるような言い方に聴こえますが?」
「ぇえぇぇ、ぜんぜん、私はそんな風には思って居ませんよ」
支部長の態らしい口回しと、最後に胡散臭い口笛が私の耳には届いていました。
電話で聞きました内容を麻里奈にも正確に伝え、私達も現地へと急ぐのでした。
2010年12月17日、金曜日
現地に到着した私達は知った顔の他国のUNIO所員と再会し、任務遂行の準備を行いながら、世事的な会話を交えていました。
私へ言葉を向けてくださる旧友たちは彼ら彼女らの母国語で、私がそれを理解できると知っての上で話し掛けてくださっています。
ですが・・・、知っているはずの言葉、単語の一部が、時折、両手で掬った水の様に指の間からするりと抜けてしまい分かって上げられないことがしばしばありました。
どうにか会話の前後から意味を理解して、聞き返す事をしないように努力しながら表情を崩さないで話しを進めていくのです。
麻里奈に心配を掛けさせたくないですから。
今回この任務に参加しますのは麻里奈と私を含めまして三〇人。
その内の何人かは私が瀕死の重傷を負い長い間現場から離れていた事を知っていた方々が居まして、私が復帰しましたことが嬉しかったらしく、それぞれ、有り難い言葉を私へ向けて下さいました。
朝五時、黎明、陽が昇る数分前、任務遂行のため一同が揃い行動内容を復唱しまして、今回の全体指揮官的立場の英国UNIOに所属する旧友Michele Heighmarが行動開始の合図を出した。
「You guys, Let’s start our mission and must be completed!!(諸君、作戦開始だ。確実に遂行しろ)」
Micheleは私達へと告げ、彼の天に翳されて居ました右腕が前方の目標へと降ろされたのでした。
五人一組の六部隊が戦略上の進行方向へと陣形を乱さず進んで行きます。
私の部隊は、私、龍一と麻里奈、TurkeyのUNIO支部に帰属します前はロシア連邦のFSB(Federal Security Service of Russian Federation(Федеральная служба безопасности:ロシア語=ロシア連邦保安庁)の職員でしたYurrian Kappanov、
元は本家本元のItaly Sicilia MafiaのColcasa Familyの幹部から転身しUNIO、Italy支部の特別第一級捜査官まで上り詰めましたJahn Joseph Ferran、そして、先ほど全体に号令を発しましたミシェル。
かれは英国陸軍特殊空挺部隊で百年に一度の逸材と称えられまして、将来有望な軍人になるであろうと期待されて居た方でしたが、何かの経緯でUNIOに転属したのでした。
年齢は私と一緒であり、異国の親しい友人でもあります。
私と麻里奈が先行しまして、ユリアン、ジャン、ミシェルは私達より、後方三メートル離れた場所からその距離を保ちつつ、移動していました。
進行方向に敷地を覆う有刺鉄線と私達の動きに気付いた番兵等。
後方から爆発の弱めのられている手榴弾をユリアンが投擲し、目標で爆発しまして、有刺鉄線が裂け、爆破圧が消え去りまして、立ち上りました土煙だけになりました所を私と麻里奈が通過します。
私達に向けられます今回の任務で敵と確定しました方々の銃口。
敵の数は私の部隊の倍以上が手榴弾の爆発前に私の目には映っていました。そして、砂塵が晴れました頃、私達が駆け抜けました走路の後には、幾人もの敵兵が地上に頭を下げておりました。
糸目に穏やかな笑みを崩さず、ただ進行方向のみに視線を投げ疾走する私。
ですが、両手に一丁ずつ握って居ます私愛用で特主任務の時にだけ使用許可が下りますSTI社のNight Hawk Custom barrel。
射撃時の弾丸滑腔の精度を上げる為に銃身長が汎用の物より12mmほど長い特殊使用でありまして、総弾数は遊底を含めて三十三発。
二丁ありますので計六十六発。
私に握られて居ます、左右前方の標的を自動追尾、孤立しました自我があるが如く、両腕は動きまして、その二丁の銃身から弾丸が切れるまで掃射し続けまして、弾丸が尽きますと、今度は麻里奈の左手の総重量4.3kgもある希少なH&K G11K2が、右手には彼女の愛用のS&W Colt Double Eagle。
それらの銃口から火が噴出し、彼女が応戦している間に私は、弾倉の入れ替えを行い、また麻里奈と攻守を交換させていただきました。
後方の三人は対空と私と麻里奈が捕らえ切れませんでした的の対処、施設、建築物等の破壊が担当です。
弾薬は打ち続ければやがて手持ちが無くなります。ですが時折、上空の味方chop-lifterから降下される箱の中から拾い出し、補充を繰り返す事になって居ます。
施設の完全破壊と武器密売組織の頭であるUssama Kulte Quistaを捕らえること。
それ以外の人命は生死を問わない事でした。
私達部隊は体力が尽きるまで、武装と供給されます弾薬が底を尽きるまで、確保すべき人物を捕らえるまで、私達が敵の攻撃を受けまして負傷し、行動不能になるまで、ただひたすら暴走する列車の如く、前へ進行して行きました。
私達の猛進行と銃火器の爆風は砂地でありますここ一帯の場は砂塵で視界を濁し通常なら命中率を下げてしまう状況でしょう。
しかしながら、ミシェルもジャンも、ユリアンも、麻里奈も、進行するどの位置に障害が、どの様な場所にどの様な動きで敵が迫って居ますか等を視覚と呼ばれます感覚を頼らずして、把握しているかの様に反応動作をしています・・・、無論、私もですが。
今回の任務で集まり分割されました六部隊。
その中で、私が所属させていただいて居ます、この第三部隊の総合的な実力は一、二位を争うでしょう。ですがね、その様な事は自慢するような物ではなく、実力はどうあれ、この任務を完遂することが重要なのです。
故に私の出来うる最大限の技能を発揮しまして、この施設の重鎮が揃う建物へと向かうのでした。
私達の爆走は急な制動を掛けられることなく、施設の最深部へ踏み入れ、使い切った弾倉を銃把の底から取り出し、新しい物に交換しようとした頃に、
「龍、貴方の射撃技術、本当に神業ね・・・。誰一人、傷つけないで、誰一人殺さないで、普通出来ることじゃないわ、こんな状況で」
麻里奈が言います様に私はけしてこの銃で相手を傷つける事も、命を奪う事もしません。
奪うのは戦うための闘争心と、その心を駆り立ててしまう武器。しかし、どれ程、この様な奇抜な技を使えましても、武器を扱います才能が有りましても、共に行動します仲間たちに賛美されましても、褒められましても、嬉しいといいます感情は今まで一度も湧き上がる事はありませんでした。
寧ろ、その逆の感情。自分に対します蔑み。その理由に一部がつい声に出してしまいます。
「・・・、確かに麻里のいいますとおり、私のこの才能は天賦かもしれません・・・、ですが・・・、・・・、・・・、ですが、この様な能力がありましても・・・、わたしは・・・、わたしは・・・、・・・、・・・、・・・、本当に守りたかった者、大切な家族を・・・、救うことすら出来ず。どうして、私だけが生きているのでしょう・・・」
銃把を握ります手を強く握り締め、標的からずれてしまう銃身。
表情を崩す積もりはありませんでしたが、ほんの僅かだけ、私は奥歯を噛み締め、自嘲気味の顔を作ってしまいました。
そのまま、引き金に力を込めてしまえば、人命を奪ってしまう位置に銃口は狙いを定めていましたが指の動きの制御に意識を傾け、それをしないように注意します。
私が握りますこの武器で奪う命は武器だけ。
武器の破壊だけが私が銃を握る理由。
それは絶対に貫きたい私の意志ですから・・・。
隣に出た麻里奈は私の一瞬の表情の変化を逃さず捉えますと、
「りゅう・・・」
すまなそうな表情と不安を乗せた声で私の名を呼びかけていました。
私は麻里奈にその様な陰のある顔をしてもらいたくありませんでした。ですから、はにかんだ顔で、
「麻里、その様な顔を作らないでください。貴女が気にすることじゃありませんし、私がこの様な芸当が可能なのも、麻里の手厚い支援があっての事です。麻里奈が私の動きに息を合わせてくださるからですよ。それに貴女だって色々な意味で凄いではありませんか、フフフ」
「なっ、なによ、その変な笑い」
不満そう表情で、不満そうに言葉を漏らす麻里奈の顔は私を向いていましたが、彼女のDouble Eagleの銃口は私を狙っていました相手の肩に矛先を向けていまして、銃から発する鉄の小さな塊は的確に命中し、相手は手に持っていました武器を落とすのでした。そして、私も麻里奈に恩返しをしますように彼女を狙ってすでに投擲されて居ました刃物、七本をすべて打ち落とさせていただきました。
それと同時に弾薬の突きました弾倉を再び銃の底から吐き出させますと、ユリアンが投げてくださいました予備の弾倉を両手が塞がっていましたので握らずに、銃把の底に埋め込む芸当を披露して見せました。で、次の瞬間には麻里奈が眼前に迫っていました建物の扉を蹴破り、室内で武器を構えていました相手を次々に戦闘無効にさせ、私が最後に残りました相手の額へ銃口を突きつけまして、
「أنت كان [شكمتد] ب نا.(チェックメイトです)」と無意識に言葉を出していました・・・?
私は、ふと、一瞬ですが悩んでしまいました。
なぜ、急に出来なくなってしまっていましたArabicで喋ったのでしょうと。しかし、その様な考えも直ぐに仕舞いまして、目の前の今回の最大の標的がおかしな行動を起こしませにようにしっかりと対応するのでした。
それから一分も経たない内に中へ突入して来ましたジャン、ミシェル、ユリアンがウサマを拘束した頃に、他の部隊から通信が入りまして、他の建物でも彼以外の幹部を捕らえましたとその様な報告が入るのでした。
幹部等が捕まった事により密売組織下級構成員等は取り乱しまして、直ぐに私達へ投降する者や逃げ出す者等、状況を理解していないらしく抵抗を続ける者等、ですが、一時間を過ぎた頃にはUNIOの増員によりまして、施設完全沈静化を達成させ、任務終了となったのです。
任務開始から終了まで一時間と四十八分後十一秒。
昇りました太陽の光が瓦礫と残骸が広がります荒涼となりはてました武器生産施設を明るみにしたのでした。
それだけの時間が経過した中で私と麻里奈の二人は建物内を調べ、蟻の巣の様な組織網を持つ非合理武器製造及び密売組織の手がかりになるような物が無いのかを探索していたのです。
棚に並べてあります資料や手書きの帳面を除くのですが・・・、先ほどArabicで王手と口にしたのが嘘の様に飛び飛びでしか、内容を理解・・・、ある程度の単語しか読み取ることが出来なかったのです。
「どおったの、リュウ?」
頬に左の人差し指を当てまして可愛らしく不思議そうに尋ねます彼女へ、
「ええ、やっぱりどうも、Arabicが理解できなくなって仕舞ったようですね、私」
私は近場にありました机に右腕を突っ伏し、体を支えますように麻里奈の顔を見ながらおどけて答えていました。
そうしますと、彼女は釣れない態度なのでしょうか、私の口にした言葉を聞かなかったような顔で体を反転させまして、書棚の方を向きますと何事も無かったように、書類に手を伸ばしていました。
私はそんな彼女の背中を見ながら、小さく鼻で溜息を突きますと、Arabicが読めないのなら、私の出来る事はありませんと理解し、何をしようか考え始めました、手近にありました、分厚い本を手に取り、それを捲りながらです。
その本の表紙には『كتاب مقدّس』と書かれて居ました。
確かこれは・・・、教典?どうせ読めないでしょうけど・・・、ぱらぱらと頁をながし始めますと、間から一枚の紙切れが零れ落ち、それを拾います。
目を通して見るのですが、内容はさっぱり、理解出来ません・・・、ただ、どのような理由でその様に表記されていたのでしょう一つの単語だけは英語のものでしたすべて大文字で『ADAM』と書かれていたのです。
ここに書いてある物はこの教典の何処かの頁の写し書きなのでしょうかね?
「麻里、この紙切れに何が書いてあるのでしょう」
私の声に振り向いてくださいました彼女は私が差し出していました紙面を手に取りました中を読み始めたようです。そして、それを見ている間の彼女の表情に僅かに喫驚する瞬間がありましたことを私は見逃しませんでしたが、その時に彼女が読んでいる事を邪魔せずに腕を前に組みまして中空に視線を泳がせ待っていました。
紙切れに書かれて居ます内容を読み終わりました彼女は左腕で押さえました右肘でその紙を右手の人差し指と中指に挟み、その手の親指と人差し指の間を顎の下に運びまして、
「読んで見たけど、意味が良く分からなかったわ」
「どのような内容だったのです?」
「簡潔に行っちゃえば、ADAMを研究している場所を探せ。その研究の成果を確実な技術に転換し応用すれば不死に限りなく近い究極の兵士を我々に授け、巨万の富を与えてくれるだろう、って。まあ、確かに自爆を平気でさせる様な反政府主義活動組織ならそんな兵士も欲しいだろうけど・・・」
その様なありもしない存在に訝しげな表情を作り、小さく頭を横に傾げる麻里奈へ、私は無面、両目を瞼で覆った顔で、
「ADAM、その言葉、どこかで聞いた事は無いですか?」
麻里奈は口を出さず無言で、頭を軽く下にたらし横に振るのですが、先ほどの紙切れを呼んだ時に見せた僅かな驚きの表情がその言葉に関連する何かを知っていそうな気配を私は感じていたのですが、深く追求する事はしませんでした。そして、一つ私もADAMと言う単語を聖書に登場します、人物以外に知っていました。
それは父の研究していた組織で行われていました企画名、それがADAMだったのです。
麻里奈もこの計画がどのような物であるのか知っているので先程のはっとする顔は龍貴のProjectとは関係ないでしょう。
父、龍貴が頭となって進められていた研究ADAMとはAggressive mentality reactive Differential Amplifier Meta-generatorの略。
日本語に置き換えますと能動的精神感応差異増幅高次発電となり、この感じの羅列で直ぐにどの様なものか理解できないでしょうが、要約して説明するならば人の精神の起伏を電気的動力に変換する方法を探す研究です。
どうしてその様な研究をするにいたったのかは、機会があれば語らせていただくかもしれません。
「りゅう、みてみて、これっ、なんか怪しそうよ!」
麻里奈は嬉しそうに私を呼び掛け示してくれた物は今回の密売組織に関連する企業などの詳細が納められていた事が分かります超小型電子情報記録装置でした。
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