転生したので【孤高】を目指す どうやってそんなに強くなったのか? そんなの【一人でずっと頑張ってた】からに決まってるじゃないですか

真辺ケイ

1章

第1話

俺は生憎奏(あいにくかなで)、25歳。

得意なことは、あんまりないけど、強いて言うなら「馴染むこと」と「努力すること」

それを除けば普通のサラリーマン。



連日残業続きで家にも帰ることができていなかった俺は、ついに過労で倒れてしまった。

倒れる間際に見た景色は、仕事場の天井。

「次のタスクは何だったっけ―――」

結局過労死だった。

馴染むことは得意だったがその分いろんなことを頼られた。

努力することは得意だったがその分遊ぶこと休むことを知らなかった。





無念な死だった。


―――――――――


ここはどこだろう


手足がまともに動かせない



目を開けることもできない



でも、―――温かい



何かに優しく包まれている……安心できる



ずっとこのままでいたい






ぶくっ



ぶく



あれ?

く、苦しい



ぶくぶくぶくっ



ぶくぶくっぶくぶくぶくっぶくぶくぶくぶくっ



ま、眩しくなってきた



ぶくぶくぶくぶくぶく




「おぎゃー」


手足が動くようになった?

何か新しい世界に来たような気分だ

でも、心地よい眠りをいきなり邪魔された気分


―――生まれる時間が来た、そんな気分




目は開いていないけど、光を感じる

体中が新たな刺激に驚く

さっきまであった優しいぬくもりを必死で探し手足をバタバタさせる


真冬にいきなり毛布を取られて抵抗せざる負えなくなるように


ぬくもりを、優しさを、安心を返せと


返せ


バタバタ


返せ


バタバタ



あれ?


――温もりが…どこにもない?



「あぁーあぁーおぎゃーおぎゃーおぁー」


とりあえず叫んでおく

そうしないと何かがなくなりそうで



幼い子どもが迷子になって泣く

そんなふうに



ずっと泣き続けていたが、そろそろ疲れて――――


そこで意識が途切れた。



―――――――――



気付けば、またあの優しさと安心が戻って来ている。

そしてもう一つ変化があった。


ちょっとだけ、ちょっとだけだが外を見れる様になった。


目を開けてみる。


誰かが抱きかかえてくれている。

この人からはずっと感じてきた優しさを感じる。安心できる。


「あら!起きたわ!ルークが起きたわ!」


一言一言に嬉しさを感じる。

どうしたんだろう?


「ほ、本当か!」


どしどし立てながら大きな男の人が近づいてくる。


「ルーク!フォラキオのお腹の中にいるときからずっと待ってたんだぞ!おっ、かっこいいじゃないか!ルークは育てれば強くなるぞ!」


この大きな男もなんだか嬉しそう。

それとなぜか、みんなが何を喋っているのかわかる。

でも、自分が誰なのか、自分がいまどういう状況なのかわからない。


なんとかして、自分のことを知りたい。

そう強く願いながら、また眠りに落ちた。



―――――――


「おぎゃー(仕事)!」


おぎゃー?

どこかに赤ちゃんでもいるのかな?

それより仕事だ。

今日も頼まれていることがたくさんあるんだ。

寝ている場合ではなかった。

それにしても変な夢を見た。

しかも夢にしては出来すぎていて、くっきり覚えている。

どうしちゃったんだろ。


まあ、とにかく仕事か。


自分のディスクに座ろうと起き上がって椅子を引―――

ん?

椅子を引くことは愚か起き上がることさえできない。

ドウイウコト?


わずかばかり開いた目で周りを確認する。


「あぁ、あぁあぁー(な、なんだこれー)」


キャパシティオーバーでシャットダウン。

眠りに落ちた。


次起きたときは少しは理解できることを願って。


――――――


「おぎゃー」


起きた。

周りを確認。


はぁ


変化なし。

認めるしかないだろう。


俺はどうやら転生というものをしてしまったらしい。


それで、今は赤ん坊ってわけか。


この状況じゃ流石に仕事もできない。

今頃あっちではどうなっているだろうか?

っていうか俺ってなんで死んだんだろ。

やっぱ過労死かなぁ。

いやでももう少しは頑張れそうだと思ったんだけどなぁ。


と、そうこうしていると、俺を抱えている(多分)母になるであろう人がアワアワしている。


母は一旦俺をおろして本棚から1冊の本を取って読み出した。


どうやら焦っている様子。


ん?

どれどれ?


暇なので母の持っている本の表紙を見てみる。

どうやら日本語のよう。

題名は『この1冊で子育て完璧BOOK』

ほほぅ。

どうやら子育ての勉強をしてくれているらしい。

しかし、何を焦っているのだろうか?


まあ、それはいいとして…お腹が空いてきたな。

どうしようか。


とりあえず叫んどけばいいではなかろうか?

しらんけど。


「おぎゃーおぎゃーおぎゃー」


「ル、ルーク?どうしたの?」


本からぱっと顔を上げて聞いてくる。

だが、残念。

応えようがない。

だから泣く。


「おぎゃーおぎゃーおぎゃー」


「え、あ、ど、どうしよう。トリケラトプス!」


「フォラキオどうしたんだ!」


「ルークが泣いてるけど何喋っているのかわからなくて」


そらそうだろ!

赤ちゃんなんだから


「そうなのか。おいルークなんていったんだ?」


「おぎゃーおぎゃーおぎゃー」


「ごめんフォラキオ。俺にもわからん」


だめだ。

コイツらつかえねぇ。





母乳にたどり着けたのは30分以上も後なのだからもうホント疲れた。


しかしまあ、母と父の名前はゲットできたし、そこだけは良かった。

母 フォラキオ

父 トリケラトプス

一応、自分 ルーク

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