第三話 店長と坂田

 午前6時、出勤前。黄緑色の肌を隠す為に化粧品を顔へと塗りたくる。美容の知識が無いなりに粉やクリームで黄緑色の肌を血色の良い色へと整える。もはや化粧と言う名のアートだ。腐敗臭を抑える消臭スプレーは1日に1本を使い切る始末。ゾンビが社会で生きていくのも大変なのだ。


「お疲れ様です」


 コンビニに着くと、更衣室から店長と坂田の声がうっすらと聞こえてきた。


 店長と坂田は何気に仲が良い。親密そうに2人きりで話し合う姿を最近よく見かける様になった。きっと店長もバイトが増えて嬉しいのだろう。まぁ、ここ最近は坂田の食料品改革もあってか少しばかりお客も増えた。俺はゾンビになってから食品を口にしないので味の良し悪しはわからないが、坂田の作る惣菜は美味い様だ。


 レジ前に設けた白いラックの見切り品コーナーも坂田の提案だ。これのおかげで食品ロスも少なくなった。店長からすればそんな坂田の店への功績を認めた節もあるのかもな。元強盗犯くせに。


 しかし、あの無愛想な店長に馴染むとは坂田の適応力には驚いた。俺は5年もの間、店長と2人きりだったが店長の事は知っている様でよく知らない。店番を1人で回していたから話すのは交代の時だけだったというのもあるが……。それでいうと、そもそもここで働き出した経緯すら思い出せない。ただ、無気力に日々を消化する内にここでゾンビになっていた。店長なら人間だった頃の俺を知っているのかも知れないが、それを聞くまでに5年もの歳月は長過ぎた。「えっ、今更?」なんて言われれば、喫茶店のマスターがカフェオレとカフェラテの違いをお客に質問する位に恥ずかしい。本当に「今更?」となるのは火を見るより明らかだ。


「あのー、田中さん? 更衣室前でゾンビみたいなポーズして何してるんですか?」


「いや、なんでもない」


 しまった。つい考え事にふけると無意識に爪をたてながら両手を上げてしまう。ちなみにこれはゾンビあるあるだ。


「あっ、そうそう。さっき店長と話してたんですけど明日バイトの面接があるらしいですよ」


 ふん。これは、忙しくなりそうだ。

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ゾンビなバイトリーダー田中 恋するメンチカツ @tamame

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